第6話 猫の心情
……まぁ、そもそも信用するとか以前に、コイツは私を誘拐した犯罪者なんだが。
でも、やると言ったからには、私は完璧に猫を再現しなければならない。
それに晴明は、ヤバいやつだけど悪いやつではなさそうだし。
いやでも誘拐からの監禁は悪いか……。
私以外にはやらないように釘を刺しておかないと……。
「晴明。私は許すけど、他の人は誘拐したり監禁したりするなよ?」
「……しない」
「で、ご飯は?」
「あぁ……。作るよ。今作るから……」
そう言うと晴明は、私の肩あたりで一回大きく息を吸い込んでから、私を解放した。
コイツ……猫吸いしやがった。
料理中断して猫吸いしやがった……。
どさくさに紛れて猫吸いしやがった……。
猫吸いしたあとの晴明の顔は、ムカつくことに、どこか清々しそうだ。
私は「迷惑です」という視線を晴明に向けて、腕に巻きつけたリボンをペシーン、ペシーンと動かす。
「なるほど。何となくわかってきたかも」
「……」
「猫はツンデレって言うもんね?」
し、しかも都合のいい解釈までしてやがる……。
晴明に飼われる猫は大変だな……と、思うと同時に、私は今まで吸ってきた猫たちに申し訳ない気持ちになった。
猫になることで、わかることもあるもんなんだな……。
「あー、可愛いね。優希ちゃん」
晴明は私の頭を、わしゃわしゃと撫で回した。
絡まる! 毛が絡まる!
「やめろ! うざい!」
「そんなこと言わないでよ。可愛いんだから仕方ないでしょ?」
「絡まる!」
「直してあげるよ。ほら」
私は鬱陶しさのあまり、晴明から距離をとって「信じられない……!!」という視線を向けた。
そして、晴明から渡されたくしを奪い取ると、乱された髪を整え始めた。
私の行動に慣れてきているのは、いい傾向だが、慣れたら慣れたでタチが悪い!
……つまり、猫にとって私たちはタチが悪いということ?
さっきから晴明が私に対してやっていることは、私も猫に対してやった覚えがある。
実家で一緒に暮らしてたマル……。ごめん……。
天国でたくさん悪態ついてね……。
「何を思い出してるの?」
「……実家で飼ってた猫のこと。こんな気持ちだったんだって」
「……実家かぁ」
晴明が手を洗い、料理を再開した。
私は今、毛繕いで忙しいので、晴明に構っている暇はない。
しばらく大人しくしておいてやるとしよう……。
「帰りたい?」
「……帰りたいというか、心配はかけたくない」
「へぇ……。家族はそんなに大切?」
「私は大切。晴明は、その感じだと大切じゃないほう?」
「両親は火事で死んだ。父方の祖母の家に引き取られたけど、僕のこと嫌いみたい」
「そう……なんだ」
思ったよりヘビーな内容が返ってきて、私は言葉を失う。
恐らくそういった経験の積み重ねで、晴明はどこかに歪みを残したまま大人になってしまったんだろう。
寂しかったから誘拐したのかな。
「でも、悪いことばかりじゃないよ。一人で生きるために必死になってたら、結構いい会社入れたし。この家も広いから、窮屈じゃないしね」
「割には合ってないような気がするけど」
「……君ってお人好しだよね。誘拐されて監禁されてるのに」
「それわかってたのか……!」
お互い、色々な話をした。
私が働いている会社のことや、今までハマってきた趣味の話。
猫が可愛いこと。
猫が偉大だということ。
猫が世界の均衡を保っていること。
何故か晴明はときどき聞き返してきたが、すべて一言一句違わず同じ言葉を返してあげた。
晴明は「僕にはまだわからないな……」と苦笑していた。
なるほど。
猫の偉大さも教えなければならないようだ……。
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