第3話 親友との出会い

「吾妻の天気、おかしくね?こんなとこで大雪!?超ありえねー! #大雪」

「吾妻の白猿、激オコwww!!#吾妻 #異常気象 #白猿伝説」

「↑それな、『白猿と雪の魔物の伝承』、ばぁちゃん言ってた!!! #白猿伝説」

「その言い伝えなら、『麓の神社』に行けば分かるかも」


 エッ…!!深雪みゆきは気象データの異変を追う内、ふと目にしたSNSの書き込みから、『吾妻あづま白猿しろざると雪の魔物』の民間伝承にたどり着いた。書き込みにある「吾妻の麓の神社」に行けば、何かが分かるかもしれない…。


 そう思い立ち、その神社を訪れた。そこは雪国を守護する神々をまつる場所で、厳かな雰囲気に包まれていた。深雪を出迎えたのは、白衣びゃくえはかままとい、長い黒髪をポニーテールにまとめた女性だった。彼女は物静かでありながら、芯のある印象を漂わせていた。そして、実は意外にも、深雪とは同世代だと言う。


 彼女の名は神崎かんざき彩花あやか。父である宮司は幾つもの副業を抱えて留守がちであるため、娘の彩花が神社を切り盛りしていたのだ。大学で神道を学んだ彩花は、女性神職として故郷を守る決意を秘めている。彼女は深雪に言った。


「深雪さん、実は風力とソーラーの調査が始まってから妙なことが起きてるの。白猿たちが落ち着かなくて……。近所の人の話では、夜な夜な神社の近くを徘徊しているらしいの。しかも、これまでに聞いたこともないような声で吠えたり、唸っていることもあるとか…。白猿を見た人は、どことなく怯えた表情にも見えた…って言ったわ。まるで何かを訴えてるみたい…という声もあるし。」


「吾妻の白猿」は普段、露天風呂でくつろぎ、時には神社のお神酒を失敬する愛らしい一面を持つ幻の存在だが、その正体は「雪国の守護神」だと彩花は明かす。


 夜が遅くなり、彩花は深雪を神社に泊めることにした。歳の近い友がいなかった彩花にとって、深雪との出会いは新鮮だった。二人は互いの学生時代の思い出を、時間を忘れて語り合った。学び舎は違えど、年頃の若者がやることには、そう大きな違いはない。互いの青春時代を振り返る時間は、安らぎの一時と言ってもいいだろう。


 彩花は実家の神社を継ぐため、大学では神道学を専攻していた。日本古来の伝統文化について学ぶ内に、その奥深さに魅せられていったと言う。また、学業に加えて、弓道部で汗を流し、全国大会にも出場していたという。弓道部の先輩に恋心を寄せたものの、互いに実家の神社を継がねばならず…成就することはなかった、と言う。


 深雪は当初、理学部の数学科に進学しようと思っていた。しかし、物理学や情報処理の面白さに目覚め、数理工学の道に進んだ。大学時代は実験や演習が忙しく、課外活動もサークルを選んだと言う。その当時から、テレビで流れる田上たがみの天気解説を見ては心をときめかせていたのだ。そして、大の「下戸」との噂もある深雪に対して、彩花は大の「酒豪」だった…と言う。今は昔ほどは強くないらしい…。


 その夜、二人が眠りにつくと、夢の中で白猿の姿をした守護神が現れ、語りかける。


ほこらが破られた。過ちを繰り返してはならない。このままでは災いをもたらす魔物が復活する」


 目覚めた二人は同じ夢を見たことを確認。彩花は続ける。「この国では古来から、人と自然は八百万やおよろずの神々と調和してきたの。自然の力を活用するのは悪くないわ。でも、謙虚さと感謝の心を忘れると災いを招くのよ…」


 深雪は気象予報士としての好奇心を、彩花は神職としての使命感を募らせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る