雪国の見守り人 -ローカル天気予報の舞台裏-

風雪詩人

第1章 冬の白猿

第1話 二つの計画と雪国の異変

 山形県 置賜おきたま 地方の南東部、吾妻あづまの山々の麓の雪国。厳しい冬の訪れが迫る中、外国資本が主導する風力発電所とメガソーラー発電所の建設計画が押し寄せていた。インバウンドによる地域経済の活性化と地球温暖化対策を名目に、地域議会は推進派が多数を占めたが、自然環境破壊を懸念する住民との間で激しい対立が生じていた。そんな中、計画は着々と進み、既に木々の伐採も始まっているようだ。


 そんな地方都市の中に、置賜予報センターがある。この企業は地域に根差した民間気象会社であり、置賜地域をはじめ周辺地域の気象特性を独自に研究・解析している。さらに、契約したクライアントに対して、独自の気象予測やコンサルティングまで行っていると言うのだ。


 気象予報士・佐倉さくら深雪みゆきは置賜予報センターの若手だ。期待のルーキーと言っても良いだろう。地元の大学で数理工学を専攻した、数値シミュレーションの専門家だ。落ち着いたボブヘアに眼鏡をかけ、どこか知的で親しみやすい雰囲気を漂わせている。かつては大手メーカー企業に勤務していたが、今は故郷に戻って雪国の気象予測に情熱を注いでいるようだ。しかも、実は大の「下戸げこ」という噂もあるらしい。


 ある日、先輩の田上たがみ健次郎けんじろうから気になる話を聞いた。

「最近、吾妻の山の気象データが異常だ。普段は雪の少ない場所で積雪が急増したり、予測不能な低温が記録されてる。朝日連峰と飯豊連峰の隙間を抜ける風が変調して、『置賜の冬の気象理論』とも異なる傾向が見られるようだ。知り合いの除雪業者のおじさんも『何だか、この冬の雪の降り方はおかしいぞ…』って言ってる。佐倉、お前ならこの原因を解明できるんじゃないか?」

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