第2話 絶望と希望
俺が生まれるずっと前——2000年1月1日。
世界は突然の変化に見舞われた。
突如として世界各地に「ダンジョン」が出現したのだ。
都市のど真ん中にぽっかりと口を開ける巨大な洞窟、
山の奥深くに広がる神秘的な迷宮、
海の底に佇む神殿のような構造物——。
誰もその正体を知らず、興味本位で足を踏み入れた者たちは次々と消息を絶った。
中には、地上へ戻ることなく、そのまま消えてしまった者すらいたという。
当時、各国は軍を派遣して調査を試みたが、銃や爆弾といった現代兵器は、ダンジョン内では一切通用しなかった。
一方的にモンスターに蹂躙され、多くの犠牲を出しながらも、人類はある事実を発見した。
それは——
「剣や槍といった近接武器ならば、モンスターにダメージを与えられる」 ということだった。
さらに、ダンジョンに挑んだ一部の人間が、身体能力を強化し、不思議な力を行使し始めた。
彼らはやがて「冒険者」と呼ばれるようになり、ダンジョン攻略を生業とする職業として確立していった。
それから20年以上が経ち、冒険者は今や世界で最も憧れられる職業となっている。
彼らはダンジョンから財宝や貴重な素材を持ち帰り、一攫千金を夢見る者も多い。
そして俺も——その一人だった。
「ついに、この日が来た……!」
2023年7月20日。
俺の12歳の誕生日。
12歳になれば、正式に冒険者登録が可能になる。
俺はこの日のために、体力作りや座学を頑張ってきた。
冒険者として強くなるためには、まずダンジョンへ挑む資格を得る必要があるのだ。
朝早く起き、身支度を整えていると、母が優しく微笑んだ。
「悠真、いよいよ冒険者登録ね。準備はいい?」
「うん! ちゃんと昨日のうちに荷物も確認したし、バッチリ!」
「ふふ、そう。頑張ってね。」
母は朝食を作りながら、俺を見送るように言った。
母は俺が冒険者を目指すことをずっと応援してくれていた。
「俺、最強の冒険者になって、母さんを楽させてあげるから!」
いつか、そう誓ったこともある。
だからこそ、ここで諦めるわけにはいかない。
意気込みながら、俺は冒険者組合へと向かった。
冒険者組合の建物は、既に多くの人で賑わっていた。
受付の前には、新しく冒険者登録をしに来た同年代の子供たちが並んでいる。
冒険者の資格を取得するためには筆記試験と体力テストがあるが、今まで最強の冒険者になるために努力してから余裕で合格した。
次はステータス確認だ。
「黒瀬悠真君ですね。ステータス確認に来たんですね。」
受付の職員が俺に声をかける。
「はい!」
俺は頷き、胸を高鳴らせながら、机の上に置かれたステータスカード に手を伸ばした。
このカードに触れることで、自分の基礎ステータスとスキルが確認できる。
俺は期待と緊張を胸に、そっと指をカードに触れた。
すると、目の前に白い光が広がり、そこに俺のステータス が浮かび上がった——。
絶望の数値
⸻
【黒瀬 悠真】
年齢:12歳
職業:冒険者
HP:10
MP:5
攻撃力:2
防御力:3
敏捷性:4
魔力:3
スキル:磨杵作針(レベル 0)
(※このスキルはレベルアップに必要な経験値が10倍に増加します。)
⸻
「……え?」
俺は、一瞬、目を疑った。
HP10、攻撃力2、防御力3……!?
弱すぎる。
同年代の平均ですら、HPは20以上、攻撃力や防御力も5~10はある。
なのに、俺のステータスはその半分にも満たない。
「な、なんだよこれ……」
だが、もっと絶望的なのはスキルだった。
【磨杵作針(ましょさくしん)】
※レベルアップに必要な経験値が10倍になる。
「経験値……10倍?」
俺は、意味を理解するのに時間がかかった。
普通、スキルといえば「剣術強化」「魔法適性」など、戦闘に役立つものが大半だ。
それなのに、俺のスキルは……ただの足枷 でしかない。
「これじゃ、一生レベルが上がらないってことじゃないか……!」
職員が気まずそうな顔をしながら言った。
「だ、大丈夫だよ、黒瀬君。最初はみんなそんなものさ。大事なのは、これからの成長だ。」
「…………。」
その言葉は、全く励ましにならなかった。
俺は最強の冒険者になりたいんだ。
それなのに、スタート地点がこれでは……!
頭の中が真っ白になる。
期待していた未来が、音を立てて崩れ落ちていくような感覚。
絶望に打ちひしがれたまま、俺は家へと帰った——。
「悠真……どうだった?」
家に帰ると、母が心配そうに聞いてきた。
俺は、項垂れながら答えた。
「……最悪だった。ステータスは最低レベルで、スキルは経験値10倍……。こんなんじゃ、冒険者になんてなれないよ……。」
「そう……」
母は静かに俺の話を聞いた後、優しく微笑んだ。
「でも、諦めちゃダメよ。あなたにはきっと、何か大きな可能性があるんだわ。」
「……可能性?」
「ええ。スキルがどんなものか、まだ分からないんでしょう? なら、まずは試してみることね。」
その言葉に、俺は少しだけ救われた。
そうだ。まだ終わったわけじゃない。
磨杵作針が本当に使えないスキルなのかどうか、まずは試してみよう——。
俺は決意を新たに、初めてのダンジョン攻略へと向かうのだった。
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