ぜいたく
ほしどり
ぜいたく
生物は子孫を残すために生きる。
それなら、この連綿と続く営みの果てに何があるのだろうか。生存本能って何のために……。
そんな単純な疑問が頭の中を飽和している。
暑いからもう頭が回らなくなる。
切れ切れになった雲、浅い空の色、手持ちファンをもつ女子高生、半袖に衣替えした会社員
電車から見える景色は全部が夏に染まっていた。
多分生物が生命を繋いでいった果てにあるものなんて僕らにとってはそんなに価値のないものなのだろう。だって僕らは生命を繋ぐことは当たり前だと思っていて、目的なんて忘れてしまった。
だから、少子化が起きてるのかもしれない。
僕らが繋いだところでなにかが変わることなんて殆どない。それならこのゴールのないリレーに参加する意味なんてない、そうだろう。
「どうでもいいか。」そう小さく呟いて、イヤホンを外す。案外、イヤホンを外した方が僕の周りは静寂だった。
駅で止まってドアが開くたびに生温かい風が身体を擽る。夏の匂いが肺を満たしていく。
ゆっくりと走り始めた車内の絵画たちはすべての瞬間に命を収めていた。
僕は見惚れてしまった。ただ只管に美しい。
鼓動を打つことがこの世界にいることの代償なら胸が高鳴るこの瞬間はオプションかもしれない。それでもよかった。
残り全部を売り払ったらどんなに美しいものが見られるのだろう。
でも、僕は久し振りに生きたいと思った。
死にたい人が長生きして、生きたい人が死んでいくこの世界に神様なんてものはいないという。
生きたいも死にたいも贅沢だという。
僕はこの世界に神がいるとしたらそれはとても傲慢な存在だと思う。
こんな美しい世界に人を創り出すようなやつだ。まともじゃない。
車窓が降り出した雨を擦っていく。遠くの景色が霞んでいく。
僕が命を繋ぐことも生きたいと願うこともすべて一瞬で破壊されるか、成される。比喩なんかじゃない。本当に一瞬だ。雨が弾けるよりも速く。
そう、これが命だ。とても傲慢でか弱い。
電車が止まり、荷物を持って外に出ると、神がため息をついたかのような気怠げな空気にそっと飲まれていった。
ぜいたく ほしどり @hoshidori
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