想思
ほしどり
想思
晴れの日が好きだった。
街には影が、くろぐろと静かに流れる。
まるで博物館の展示品。
照らされた街は美しかった。
君も見てるのだろうか。
静謐さに満ちた住宅街を歩く。
静けさとは無音を指しているわけではない。
靴が地面に擦れる音。
肩から滑りかけた鞄を掛け直す音。
遠くで走る車のエンジン。
ゆっくりと回る換気扇。
ベビーカーを押す音。
その全てが静けさを作っている。
呼吸の音が聴こえない。
呼吸はしている。でも聴こえない。
いつからだろうか。
嬉しくなって深呼吸をする。
微かに空気が鼻に擦れる音がする。
麗らかさが肺を満たして、眠くなる。
鳥が鳴く。昨日の雨の水溜りに日差し。
散った花弁が道に溶ける。
ふぅ。
深呼吸。吐くときに気を抜くとため息になる。
ミスったな。
溢れたため息を辿って靴に目線を零すと、爪先には燻んだピンクが一欠片。
僕は君に逢いに行きたいというのに。
まったく。
靴からのびた影が揺れる。
僕は晴れの白雲にも影があることを忘れる。
自分の影も。
思い出すから晴れは嫌いだ。
目を閉じて雲のもっと上を考える。
ちゃんと桜は咲くんだろうか。
ちゃんと雨は降るんだろうか。
ちゃんと苦しんでいるのだろうか。
ちゃんと笑えているのだろうか。
目を開ける。
僕は雲の影に絆される。
雲のずっと向こうで凍えた小鳥が鳴いた。
想思 ほしどり @hoshidori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます