第15話、縄文の春 2

 美音子たちは、山に入って、食べられる草を探した。まずはフキノトウ。雪のあいだに緑の顔をだしている。美音子は苦くて苦手だったが、おじいちゃんは好きで、天ぷらやみそあえを食べていた。このムラにはたっぷりの油はないし、天ぷらはできなそうだなあ……。


 水のそばに生えている細長い草もとった。プーンと青くさいにおいがする。なんだっけこれ、セリ?


「これはにてるけど、ドクがある」


 ワクが見せたのは、ちょっと葉っぱの大きい草だった。


「においがないだろう?」


 それからしばらくして、山のしゃ面で、くるんと巻いた山菜がたくさんとれるようになった。あざやかな緑色をしたのがコゴミ、ふわふわとしたのでおおわれているのがゼンマイ、先が枝わかれしているのがワラビ。美音子はよく考えないとわけられないが、タァラは「ぜんぜんちがうよ!」と言う。


 ワクは草を見つけたかと思うと、石でその根本を掘り返した。白い根っこが出てくる。ウドだ。ほかにも、トゲトゲした木から木の芽をとる。これはタラノメ? トゲがあるので手に皮を巻きつけて、おるようにとった。


「ミネコ、あんまりそっちいかない」


 ノカがさけんだ。美音子は草を探すのに夢中になって、森まで行こうとしていた。がけに足をすべらせて落ちると、ひきあげられないかもしれない。


 ムラに帰るころにはカゴがいっぱいで、せおうとひっくり返りそうなくらい重たかった。山菜は、ゆでてクルミあえになったり、汁やおかゆにいれたりした。ほんのり苦いのは好きじゃなかったけれど、ゆでたコゴミにクルミのタレをかけたものはとてもおいしかった。






 春になると、山の雪がとけて、形をつくっていた。あちこちにピンクや黄色の花がさいているのが見える。


 サクラがさくころ、しゃ面にある畑のとなりで、たおした木をさらにみじかくなるようにきる。


「切っていい木と、わるい木がある。ほら、山の上は木をのこしているだろう?」


 美音子たちも高くなった草を抜いていく。何日もかけて草をとると、一面、地面が見えるようになった。その草と木を、切った場所につみあげてかんそうさせる。晴れの日がつづいたので、かわいてカラカラになった。


 風のすくない朝、みんなで草をとったところに集まる。


「ここに火をいれる。虫たちははやくいくように」


 クシラが土器から水と塩をすこし手にとり、土にまく。それから手をあわせた。


「火が土をつくる。土は実りをつくる。これからも、たくさん育つようねがう」


 それから、つみあがった草のまんなかに火をつけた。木と木をすりあわせて火をおこす。美音子も前にためしてみたが、なかなか思ったようにはつかない。手にマメができていたくなった。


「この木もむいている木とむいてない木がある」


 ワクはかれた木の棒をもって言った。


「火をつけるのは、むいている木を探すところからだ」


 木の棒をくぼみのある木に押しつける。ワクが手ではさんで、いきおいよくこする。美音子やタァラはすぐつかれてしまって、ここまでいきおいよくまわせない。なんどか上から下にまわし、こすりつけると、けずれた木のこながポッと赤くなった。


「木は好みがある。火がつくのが早い木、つくのはおそいが長くもつ木、水にぬれてもくずれない木……」


 赤く光るこなにススキのしっぽをかぶせると、ブワッと白いケムリが広がった。それをマツのこまかい枝でつつむ。枝に火がつき、炎があがる。それをいくつかにわけて、あちこちのかれ草に点火した。


 火はあっというまに燃えうつり、炎がひろがった。


「あつーい!」


 火はおどるように木や草を燃やしていく。体じゅうに熱を感じて、それ以上はまったく近づけない。燃える様子を見ながら、木や草をつついて燃えひろがりすぎるのをおさえる。風の方向によってはケムリがあたっていたくなった。


 パチパチと音がする。草が焼けて丸まり、黒くなって、白くなる。あったかくなった空気がゆらゆらゆれる。火はそこを燃やしつくすと、まだ燃えていないところにうつって燃えはじめる。火が弱いところには、強いところから火をうつす。燃えあがった炎は、まるで生きているもののようだ。


 しばらくすると、火のいきおいがおちてきた。火は燃やしつくし、あとには炭や灰が残るだけだった。


 美音子たちは燃えのこった枝をぬき、石器のついた道具で土を掘り起こす。おとなは簡単そうに掘っていたが、美音子は石器が重くて長い枝がいうことをきかない。手も足もいたくなってすわりこんでしまう。しかたなく、石を手でもって、しゃがんで掘った。いっぱい掘ることはできないけど、すこし楽だった。


 この灰のまじった土に、マメをまく。手でつかんで、ほうり投げるようにまいた。すこし土をかぶせる。これで終わり。これで終わり! 庭でトマトやキュウリを作ったときだって、ひりょうをいれたりとか、もっといろいろやったと思う。


 でも、これでいいんだって。やることはぜんぶ火がやってくれたから。






 日が高くなり、あたたかくなってきた。


 冬のはじめにクリの木を切っておいておいた。両手でかかえられるくらいの太さだ。その皮を石でむく。ムラの人みんなで仕事をする。ボツィも赤ちゃんをせおっていた。赤ちゃんの名前はダラ、男の子だ。美音子たちが「ダラ!」と話しかけると、「あー」とか「うー」とか言って手足を動かすようになった。


「これから家をたてる」


 ムラのひらけたところでクマキが言った。そう言われてもピンとこない。


「こんど、アトリが■■するから」

「■■って……なに?」


 タァラはちょっと考えて答えた。


「おとうさんとおかあさん」

「ふたりが、■■した」


 ノカに言われてやっとわかった。結婚するってことか。アトリは十五、六歳くらいに見える。美音子からすると中学生や高校生はおとなっぽくてすごいなあと思うけれど、やっぱり結婚するには早くないかな?


 皮をむいた木の先を焼く。黒くなってきたところで火からおろす。おなじように、細い木をなんぼんも焼いた。


「ああすると、くさりにくいから」


 クマキとヨミがヒモをもって場所をきめた。円のなかの草をぬき、地面に穴をあける。石器で根っこを切って、掘り返した。石器が割れたり、石器をはめた木の棒がおれたり。なんども石でたたいて土をやわらかくして、掘り進めていく。石で掘り、出た土を運び、根っこをひきぬき……。土の色が変わってもまだ掘った。土が固い。


 もう、根っこがすごい! あちこちにはりめぐらされて、からみあっている。石で切ろうとしても、なかなか切れない。シャベルやスコップが欲しいなあ……。トゥキがしゃがみこんで、いっしょうけんめい根っこを切っていた。美音子も石を石でとぎながら、根を切っていった。


 穴の深さは美音子の腰まで。十センチ掘るのにどれだけかかったんだろう。掘りだした土が高い山になっている。穴のまわりをふんだり、石や木でバンバンとたたいたりして固める。カベぎわにたくさんの木をうって、落ちてくる土をおさえた。


「あれ、この木って長さちがうけどいいの?」


 まだ立てるまえ、横にしてある木を見て美音子は不思議に思った。


「木をえらんだら、あとは穴の深さであわせるんだ」


 木を立てて、頭を石でうっていく。バラバラの長さの木を、頭がそろうようにうちこむ。なるほどなあ。石器で木を切るのはとってもたいへんだ。すこしをあわせるのはむずかしいのだろう。どうせ土に立てるのだから、そっちであわせればいいんだ。


 穴の底を平らにならし、さらに五つの深い穴を堀った。力じまんのヨミががんばっている。上からすべらせるように柱を立てる。柱になる木は、上が二つにわかれていた。


 柱のうえに、横にした枝をのせる。枝と枝をぬらしたツルで結んだ。結びかたは決まりがあるみたいだ。ワクがぎゅっとむすぶと、しっかりくっついて、動かなくなった。おとうさんがキャンプのとき、ヒモにはたくさんの結びかたがあるって言ってたけど、これもそうなんだろうな。


 ななめにした枝を、なんぼんも丸くつきさす。この枝のうえも、横にした枝に結ぶ。入り口だけをあけて、たて穴住居の屋根ができた。


 おとなたちが柱をたてているあいだ、美音子たちは木の皮やツルからヒモをつくったり、細い枝をあつめたりしていた。そこらへんにネズミや虫がいるのも、さいきんは気にならなくなった。むしろムラをつくる、だいじなひとつのように思える。


 サケをとったときにも思ったけど、ムラの人みんなで協力しないとむずかしいことがたくさんある。


「そろそろ、木の皮をつけてくれないか」


 いつのまにか、床のまんなかに石ぐみのができている。


 まず、屋根に細い木をたくさんくくりつけ、こまかいアミの目にした。そこに柱をつくるのにはがした木の皮を結んでいく。すこしずつ重なるように、ずらして結ぶ。これが時間がかかる。なんまいもつけても、ぜんぜん終わらない。なんにんもかかって、ようやくぜんぶがおおわれた。


 家のなかでは炉のうえのたなをつくる作業をしている。家の外では掘った土を上にかぶせる。したからつみあげるように土を盛り、よくたたいて固める。


「できた!」

「できたー!」


 クシラの家から火をもってきて、に入れた。炉で松の枝を焼くと、ケムリがモクモクとでて、くさくて目がいたくてとてもいられない。外に出たあと、クマキは草であんだ布で入り口をふさいだ。こうすると、家がじょうぶになるんだって。


 屋根のてっぺんには、ちいさな屋根をのせ、穴を開けて、空気がとおるようになっている。その穴から出てくる白いケムリを見ながら、これがあるから、火をたいてもへいきだったのかと美音子は思った。


「アトリ、よかったね。これで結婚できる」


 ノカが言うと、家を見ていたアトリがにこっと笑った。

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