夏の終わり
@abcdic
第1話
「門、閉まってるね」
「そりゃそうだよ、だって夜だし、俺が下になるから背中使って登って」
「わかった… よいしょっと」
門を超えてまっすぐ歩くと昇降口がある。
左から3番目のドアノブを不規則にひねった。
ガチャガチャ
「あ、あいた。 一応言っとくけどスリッパに履き替えなくていいからね」
「ねぇ、見つかったら怒られるんじゃない?」
「大丈夫だって、俺らここの学校の生徒だし。そんなこと言ってると始まっちゃうよ」
夜の校舎は静かで不気味だ。暗くてよくみえないが絵梨は不安だろう。
僕が歩こうとすると絵梨は僕の手を握ってきた。
僕は彼女の手を握りやすく持ち替えてみた。
カツカツカツカツ
二人の足音が廊下に響く。
2階から、3階の踊り場を差し掛かったとき、
ひゅ~~~~~~~
どーーーーーーん
「あ、はじまった。今ので1発目だ」
「じゃあ、あと29発だね」
窓から見える花火
その光で、いっしゅんだけ踊り場が明るくなった。
ひゅ~~~~~~~~~
どーーーーん
ひゅ~~~~
どーーーーーーん
「あと27」
絵梨は静かな声で残りの花火の数をカウントをした。
「たぶん3Cが一番正面かな」
ガラガラガラ
階段を登りきって3Cの教室の窓を開けた。
窓から中に入る。
「よっと、大丈夫?」
「うん、なんとか」
ひゅ~~~~~~~~~
どーーーーん
教室に入ったところでまた花火が上がった。
薄暗い教室が薄赤く光る。
不思議な景色だった。
僕は椅子を二つ持ってきて窓際に並べた。
「どうぞ」
「ありがと」
ひゅ~~~~~~~
どーーーん
ひゅ~~~~~~~~~
どーーーーーーん
しばらく僕らは、花火を眺めた。
「どうして30発しかあげないんだろうね」
「なんか、この花火は役所の完全自費らしいよ。ちょっとしたサービスなんだと思う。それと、再来週の花火の予行演習もかねてるのかな?」
「そっか」
ひゅ~~~~~
どーーーーーん
ひゅ~~~
どーーーーん
ひゅ~~~~~~~~~
どーーーーーーん
…
しばらくたつと花火は上がらなくなった。
「あと何発?」
「わかんない、途中から数えてないよ」
「そっか、じゃあ帰ろっか」
「うん」
僕は彼女に手を差し出し、彼女はその手をにぎる
ひゅ~~~~~~~~~
どーーーーーーん
その瞬間、最後の花火が上がった。
金色の光が教室を包む。
その光に見とれていると絵梨の顔が僕の視界をさえぎって、少しだけ唇を重ねた。
「ファーストキスだよ」
「あ、ありがと」
「夏も終わっちゃうね」
「そうだね」
僕らは手をつないで教室から出た。
夏が終わる。
僕らの夏が終わるのだ。
でも今日の花火の輝きは、ずっと忘れないような気がした。
夏の終わり @abcdic
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