第3話 天使様の命綱

 近寄って見ると彼女は輝かんばかりの笑顔を発動させた。


「天使……様??!!」


「そのあだ名、肯定したくないけど……まあそうだよ」


「冗談じゃ……無いよね?」


「いくらバカな私でも……冗談でお隣様のおトイレまでは借りに来ないわよ!」


「お隣って!! いつから??」


「いつからって?! キミがこの部屋に来る前から私は隣に住んでるよ。ちなみにキミ歌上手いね。で歌っているのが時々聞こえていたよ」


「いや、そんな話、今いいから!! 何でこういう状況なの?!」


「ああ……私、宅配来るの忘れてお風呂入っちゃっててさ!チャイム鳴って慌てて出て……うっかり締め出されちゃった!」


「締め出された??!!」


「うん! 私ん、変でさ! 『子供は15歳になったら自主性を育むべきだ』とか言って独り暮らしさせるの! でもその割には心配性だから鍵をわざわざオートロックに変えちゃってさぁ~こっちは不便でしょーがないんだよ!」


「だからって何で雑巾とロープなの?」


「ああ、雑巾はね。私の足跡で汚しちゃったから……」


 なるほど!“天使様”の足取りと“心模様”の軌跡がしっかりと廊下に残っている。


「でもロープは何に使うの?!」


「それは命綱! ベランダを伝って掃き出し窓から入るしかないんだもん!」


「ここ7階だよ! そんな事、絶対ダメだ!」


 で、結局オレは天使様にスマホを貸してあげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る