あやかし堂と迷い家 ―上―
少女と屋敷の中に魅了された二人が内部に入った直後。
――バタン!!
大きな音がして洗脳が解けたように先に意識がハッキリした
「おい……しっかりしろ、犬っころ!」
意識が
だが、
しかも巨大な階段に魅了されて意識していなかった周りを見回した
外側から点いた仄かな明かりは生き物のように宙を浮いていた。
しかもいくつかは暗闇の中、ダンスでも踊っているようにクルクルと回っている。
「……そちらの方より、貴方様の方が上位のあやかしだと、記しているようですね。わたくしの術が良く効いております」
「そんなことは初めから知っている……。こんな呆けた姿は酒に飲んだくれているときだけにしろ。この
「――だ、れ……が……
二人が魅入られた淡い光はロウソクの灯火で、あやしい光を放っている。
何かを口にしようとした途端に、白い光が辺り一面を包み込むと二人は腕で顔を覆った。
「上々ですね、"
「ええ、そうですね女将。一人は上位のあやかしでも引けを取りませんし、もう一人も上位の中では見劣りしますが、その能力は格別です」
全貌が見えたと思ったのすら錯覚で、暗闇の中、二人分の声が鼓膜を震わせる。
一人は先ほどの少女。もう一人も、"どこか"で聞き覚えのある声に、
だが、視線の先にはだいたい身長百四十センチくらいの少女の姿しかない。
あやしい光を放っていた
その中で、違和感を覚えて視線を下に向ける
ただ、普通の猫みたいに「にゃ〜」ならいい。
耳に馴染む重低音のイケメンボイスが聞こえてきて、隣でまだ目元を隠す
しかも、尻尾の先が"三本"に分かれている。
「おや? 見破られてしまいましたか。お二人とも、無事に屋敷に来られたようで何よりです」
「おい……
「――うっ……オイッ! 苦しいだろうが! 日本にいるんだから、
思った以上に強く引っ張っていたらしく、苦しさに歪む顔で冷静になった
しばらくして手に持ったままだったカードへ視線を落とす。
少しの間カードを睨みつけてから黒猫の前に投げつけた。
カードは回転して速度が増したことで木の床に刺さると、黒猫は避けることなく前足をペロペロと舐め、代わりに少女の笑顔が消える。
床へカードが刺さった直後、チカチカと屋敷内の明かりにも異変が起きた。
「女将さんは愛らしい少女の姿に見えるかもしれませんが……。怒らせてはならない方ですよ?」
「――わたくしの大切な"友人"を傷つけるとは……命を失う御覚悟あっての所業でしょうか?」
「うっ……。友人って――もしかしなくても、この屋敷のことか? いや、まさか……」
女将と呼ばれる少女の
次の瞬間、
とても良い音が響くと、屋敷中から「クスクス」と不気味な笑い声が聞こえてきた。
「いってぇ! オイ、これは絶対お前のせいだろう!」
「俺のせいじゃ……いや、床を傷つけたからか。すまない、まさか"屋敷"自体が、あやかしだとは思わなかった」
「――ふむふむ。『あの程度、痛みも感じないから許す』だそうです。その代わりに、傷つけた部分に口付けをするようにと申しておりますが?」
不気味な笑い声はするのに元々姿が屋敷なのか、女将の代弁する言葉に
当然、横で胡座をかく
唇を噛む
「――素敵なレディに申し訳ないことをした……。許してほしい」
一言添えてから縦に線の入った傷口に薄い唇を押し当てた。
すると、地震でも起きたように屋敷全体が激しく揺れて、少女や黒猫まで姿勢を低くする。
「うっ……"
少女の呼びかけに我を取り戻したのか、ピタリと揺れが止まった。
そして、屋敷の奥から全域に再び『クスクス……』と不気味な声が響き渡り、呆れ顔の少女は代弁する。
「はぁ……『生きてきて――年。殿方は
「そう、なのか……。それは、光栄の至り――」
「ぐへぇ……。お前のせいで、こっちは散々だぜ……。うっ……ぎもぢ、わるい……」
揺れが去ったことで一気に腹部から波が押し寄せる
一瞬の出来事に、シーンと静まり返る屋敷の中で、少女が咳ばらいをする。
「何はともあれ、自己紹介もまだでした……。わたくしは、この屋敷――
「私は、
すると黒猫の姿から執事の恰好をした、艶のある黒髪に黒い瞳の男へと
しかも、
その姿は、やはり二人がカードを貰ったあやかしだった。
この屋敷は人間や下位のあやかしには古びたアパートにしか見えず、人通りも少ない路地裏にあるとはいえ
「……
名前から
耳障りな音にため息をつく
すると、タイミング良く開かれた扉によろける足取りで倒れこんだ
「このオレ様を、追い出すなんていい度胸だなァ! 顔面凶器のこいつに口付けされたくらいで、はしゃいでるんじゃねえ!」
「オイ……また同じことを繰り返すのか、犬っころ」
「そこの、吸血鬼! 犬っころとか言うなっ! 俺は、れっきとした
しまらない恰好で犬の遠吠えと化している
哀れみと呆れの眼差しで見つめる三人は再び
ただ、騒がしい屋敷内で一階にある個室の一つが開かれ、物珍しそうに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます