【完結】あやかし堂の掃除屋ぼたん ~ヴァンピールと人狼のアクト~

くれは

Data0.過去から現在へ

魅入られた男たち

 暗がりの公園で煌々こうこうと光る電柱に鮮血が飛ぶ。

 近くでは地面にしゃがみ込む女性が、小刻みに体を震わせていた。

 その視界を前から隠すように長身でありながらスラリとした優男が現れる。


「もう大丈夫……」


 優男と女性の周りには五人もの奇怪な男たちが倒れていた。

 ハロウィンの季節は終わったというのに、どこか人とは違う特徴を持った者たち。

 俗に"あやかし"と呼ばれる者である。


「クソッ……。ここは俺たちの縄張りだぞ!?」

「――れ者が。キャンキャン吠えるな……。人間と違って、俺たちの世界は弱肉強食――俺に倒された貴様らは、どちらかくらい分るよな?」

「くっ……行くぞ! てめぇら!!」

「今後、俺のおんなに手を出すなよ……」


 走り去っていく男たちは獣のような耳が横へ垂れて尻尾を丸めていた。

 ハイエナのように群れるあやかしである。

 惨めに映る後ろ姿へ優男こと、アオイは短く息を吐いた。

 生まれてから約二百五十年。ずっと争いの中で生きてきたアオイは平穏と無縁な人生に嫌気が差し始めていた。

 

 慣れない人間生活で、特に女性の血を好むあやかしヴァンピール。

 いかに怪しまれず、血を奪うかで生まれたのが巧みな話術と営業スマイルだった。

 ただ、人間の女性に対して魅了するフェロモンを宿していることで、街を転々として、最近では占い師を生業に生活している。

 頭を下げてくる女性に捕まっていると、警察にも連絡していたらしくアオイよりも十センチ以上長身で、明らかに柄の悪い強面な男が現れた。


「あ"っ……。また、てめぇの仕業かよ」

「――俺の仕業じゃない。飲んだくれで、鼻だけじゃなく目まで腐ったのか?」

「あ"ぁ!? んだと! 公務妨害で逮捕すんぞ!」


 アオイに噛みつくのは酒の臭いをプンプンさせた一応は刑事である紫音シオン。見た目は人間だが、歴としたあやかしで上位種の人狼である。

 相棒になる人間に、ことごとく昇進に関わると逃げられた紫音シオンは、文字通りの一匹狼だった。

 そんな二人が出会ったのは偶然で、かれこれ五十年以上の付き合いである。


「まぁ、血液の処理だけ任せた……此処は臭くて堪らないからな」

「それはてめぇが散らした血のことか!? それとも、俺のことか!」


 ギャンギャン騒ぐ紫音シオンをシカトしてビル街に戻る裏道からアオイの耳へ華やかな音と声が聞こえてくる。 

 徐ろに首を上げてノイズにしか聞こえなくなった街で、広告の巨大スクリーンに映し出されていたのは"日本の和"。

 春から始まり、日本の和について紹介されていく。

 どれもアオイの目には宝石のようで、きらびやかに映った。


 まだ文句が言い足りなかったのか、後ろから走ってきた紫音シオンに腕をつかまれてもアオイは視線だけ横へ流し振り返らない。


「――俺は遠いところへ拠点を移す。もう貴様ともお別れだ」

「ハッ! そうかよ。清々するぜ。その前に、聴取をさせろ! お得意の嘘でいいからよ」

「貴様も、飲んだくれていると職を失うぞ」

「大きなお世話だ! ちくしょう……あばよ」


 紫音シオンアオイと違い、街頭しかない薄暗い公園へと戻っていく。

 紫音シオンの軽い聴取を終えたアオイは見納めとばかりに後ろ姿へ顔を向けたあと、清々しい表情で街の中へと消えていった――。

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