ドーナツの穴はドーナツなのか

46km

前略

私はドーナツを食べた。

午前6時34分。

延々と流れるテレビの騒音をBGMに咀嚼する。

朝起きて、飯を食う。

漠然と私の胸には穴が巣喰っていた。

ぽっかりとドーナツのように空いた穴。

いつから空いていたのだろうか。

あるいは最初から空いていたのか。


私はドーナツを食べた。

ドーナツの穴は食べるとなくなる。

私はドーナツの穴さえも食べたのか。

この胸に巣喰う穴をどうする。

埋めるのか?

埋めたその穴は私になるのか?

なら穴のないドーナツはドーナツなのか。

ならドーナツの穴はドーナツなのか。


私はドーナツを食べた。

その穴をまじまじと覗いて。

穴の向こうに何が見える?

私の部屋だ。

散らかった、私の部屋。

穴の向こうに何が見える?

何も見えない。あるいは形の見えない何かを見ている。


私はドーナツを食べたい。

その穴さえも飲み込んで。

その穴さえも栄養として。

その穴さえも私として。


後略。

私はドーナツを買いに行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ドーナツの穴はドーナツなのか 46km @siroikm4614

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る