第30話

「美味しいっ」



『良かった、このチョコサンドも美味しいんです』



「ホントに。これ絶対買って帰りますっ」



『気に入ってもらえて良かったです。でも、うちの店にもまた来てくださいね』



「も、もちろんですっ」



『良かった…。しばらく咲羅さんいらっしゃらなかったんで、もう来てくれないんじゃないかって、心配してたとこだったんです』



「え?」




こんな風に柾木さんに言われたら、お客さんは他所へは行かないだろうな。

もちろん、あの店に行かないと柾木さんに会えないというのもあるけど、それに




「あのレモンケーキは他所では食べられないですからっ」



『じゃあ、あのレモンケーキがあれば咲羅さんはずっと、うちのお店に来てくれるってことですね』



「〜〜っ、」




もう止めて欲しい。

自分がどんな顔で、そんな言葉を放っているか。

そして、その言葉で私が撃沈寸前なのを知らないんだろうか。

こうして一体、何人の人があの店と柾木さんの虜になって常連になっているんだろう。

それを、知ってやってるとしたら策士以外の何者でもない。




柾木さんにとって、そんな風に言ってくれる理由なんて、私がお店の常連客であること以外にはない。

でも、柾木さんの人柄を考えると純粋にお店を思っての事なんだろうと、どこまでも柾木さん贔屓の私はそう結論づけたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る