嫉妬をされて困るのである!

コンコンコンッ、


『誰だね?』

「課長、我である」

『……入りたまえ』

「失礼するのである」


 チッ、面倒臭い手順である。

 課長が呼んだのであるから来客が我である事が分かっているはずであろうに……なのにわざわざノックをして自らの身元を明かさねばならぬとは非効率で非常利である。

 そもそも、ノックをするなどという行為が時代錯誤である! 遥か古から続くマナーだからと言って最先端を生きる我々が従う通りなど無い筈である! これだから古きを尊ぶとかいう老害は嫌なのである!


 かといって、我はそれを口に出す様な愚か者ではない。時代に取り残された年寄りと上手くやっていくのも有能たる我の能力の一端なのである。


ガチャッ、


「課長、我をお呼びか?」

「あぁ、そうだ」


 相も変わらず七三分けにレトロなメガネ……まるで旧世紀時代に存在としたと言われるサラリーマンとやらその物の姿であるな。課長のレトロ主義も変わらぬようである。


「まぁ座りたまえ」


 こういった所のソファーはやけに背が低いから座りにくくて嫌いであるが……やむを得なしであるな。課長の雰囲気からもとても友好的とは思えないからして、ここで断れば悪い展開になる予感がビンビンである。


「フゥッ……」


 課長……何故、我の正面に座るであるか……? ソファーは四つあるのであるからして、ここは正面ではなく斜め前に座ってもらいたかった所である。全く、中年の加齢臭が我に染み込んで来たらどうするつもりであるか……


「さて、単刀直入に言おう。弁解をするか首になるか。どちらか選びたまえ」


 成程。確かにシンプルであるな。しかし、我にとっては寝耳に水の話である。そもそも、どうして課長は我に謝罪を求めているであるのか……? あぁ、そういう事であったか。


「課長……遂にボケてしまわれたのあるな……残念である……」

「なるほど。首を選ぶか。それならばすぐに手続きをしよう。1時間以内に荷物を纏めてもらおう」

「ハッハッハッ、冗談に決まっておるでは無いであるか。課長もこの程度の冗談が分からぬようであるなら先は長くないであるな~」

「私としては至極真面目だったのだが……むしろ今の君の言葉で更に首にしたくなったのだが……私も大人だ。まずは君の弁解を聞こう」


クイッ、


 ふむ。眼球の取り換えが容易なこの時代において、あの様なレトロな道具に頼る神経は我には理解出来ぬが、レンズの向こうでこちらを睨む課長の瞳は多少の圧力がある様に感じられるであるな。もしや、課長はあの圧力を出す為に眼鏡を掛けているのであろうか? それとも……


「うむ、ここは真面目に答えた方が良いと判断したのである。そのレトロな道具からレーザーでも発射された日には大変であるからな」

「結構な事だよ。こちらとしても君の社会的な抹殺方法を考えなくてよいのは精神衛生にとても良いからね」

「我は課長にそこまで嫉妬されていたとは……これが出来る者の悲哀という物であるか……」

「うん、さっさと話を始めてくれないかね? そうしないと私は私を抑えられなくなるかもしれないからね」


 自分の行動を自分で管理出来なくなるとは、本格的に課長も痴呆であろうか……? しかし、それは口にすると何故か命の危機が訪れる様な気がするであるな。ここは我も奥ゆかしく課長への心配を心の奥にしまっておく事にするのである。


「では、話を始めるのである。課長にお尋ねするのである。我は何故に呼ばれたのである? ミカエル曰く課長がお怒りだと聞いたのであるが……?」

「ミカエル君か……彼女は優秀だね。数多くいる御使いの中でもトップクラスに優秀だ。とても君が造ったとは思えない……私が何故君を呼び出したか? それは単純な話だよ。君が一向に成果を上げないからだよ。」

「課長、それはおかしいのである。我はしっかりと仕事をしている。その証拠についさっきも誤った進化をした世界を消去してきた所である。」


「ハァーーーーッ……」


 課長、何故に我の言葉に対しての返答がその様な溜め息なのであるか?

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