第2話 平凡と噂される王子の本性
「フェリーチェよ!本日をもって私との婚約を破断とする!」
『ツヴァイ殿下…このような場で一体何を…?』
「知れた事…この聖女たるデザイア嬢に対して散々嫌がらせをしていたというではないか⁈そのように卑劣だとは思わなかったぞ!」
『そ、そんな事、私はしていません!』
目の前で繰り広げられる一方的な婚約破棄。どこかで見た事があると思ったら、最近流行りの大衆小説の中で悪役令嬢に婚約破棄を言い渡すというものがある。
正に目の前の光景とピッタリだ。でも実際は糾弾する側が正しいとは限らない。僕もフェリーチェ嬢とは面識があるが、そのような行動を取る人だとは思わない。一緒に王妃教育を受けていたメアも全くの同意見だ。
「糾弾の事実がどうであれ、なんでこいつらは人の生誕&成人祝いの式典でやらかしてるのかな?隣国の貴賓・来賓も来てる中で恥を晒すなんて…」
『後先を何も考えていないだけかもしれないですね…』
メアもなかなか厳しい事を言う。まぁ恐らく事実だが。実際弟のツヴァイは容姿で女性を虜にするほどの美男子、剣の腕も騎士団長に匹敵するほどと言われてはいるが、ちょっと持ち上げられるとすぐ調子に乗ってしまう部分がある。
『だとしても、こんな事をしでかすメリットはあるんでしょうか?』
「ツヴァイの考えは分からないでもない。あいつは僕と違って明確に王になりたがっているからね。でも今のままだと僕が王太子に即位する事になるから、後ろ盾である公爵家を切ってでも聖女を自分の婚約者として教会の勢力を取り込み力押しでひっくり返そうって事じゃないかな?もしそれで仮に王太子、ひいては王になれたとしても国がメチャクチャになる未来しか見えないけどね」
『ああ…そういう事でしたか。それで殿下はどう動くので?』
「座して待っていたいところだけど、面倒ごとを後回しにするほど億劫な事はないから行ってくるよ。それに…無実の女性が貶められているのを黙って見てはいられないからね」
『ええ、それでこそ殿下です』
「手出しされた時には…頼んだよ」
『御意』
メアを1人席に残し、僕は騒ぎの中心である3人の下へ。王立学院でクラスメイトである3人だが、聖女はこのような酷い仕打ちを受けたと被害者の立場を貫き、我が弟はそれを聞きフェリーチェ嬢を更に責め立てる。もうこんな茶番、くそくらえだ。
『それに私の制服も汚されてしまって…え⁈アイン王子⁈』
「やぁ、邪魔するよ」
「兄上…」
『アインシュトラール殿下…』
式典の主賓である僕の登場に視線が集まる。父上がまだここに居ない以上、収められるのは僕しかいないから仕方ないじゃないか…。
「兄上、止めないでください。これは私たち3人の問題です。それに婚約者が陰でこのような卑劣な真似をしていたなど、到底許せるものではありません」
『そ、そうです!私はフェリーチェ様に何度も嫌がらせを受け、耐え切れずにツヴァイ様に相談させていただいたんです…』
「ツヴァイ様ねぇ…随分親しげなようで?それは置いといて、聖女様?貴女が言うフェリーチェ嬢の嫌がらせやイジメというのは何か証拠でもおありで?」
『し、証拠ですか?』
「そう、フェリーチェ嬢が間違いなく犯人だという証拠だね。まさか憶測で公爵令嬢を糾弾しているわけじゃないよね?」
『そ、それは…』
「兄上!フェリーチェはデザイアに対し、日頃から厳しく当たっていました。それは周りのものも耳にしており、間違いないものです」
「へぇ、そうなんだ?僕の耳にも届いてはいたけど、確か…婚約者が居る男性にみだりに触れたりするものではない、とか至極真っ当な意見だったと思うけど。ねぇ、フェリーチェ嬢?」
『あ…は、はい!学院内での風紀や他の方への示しにならないため、注意をさせていただきました。残念ながら全く聞き入れてもらえず、ツヴァイシュヴェールト殿下にもご理解いただけなかったようです…』
「だそうだよ?フェリーチェ嬢の言い分が正しいということは、この会場にいるものなら誰でも分かる。よくそれで婚約破棄を押し通そうなんて思ったね?」
徐々に青ざめた表情に変わる聖女に対し、ツヴァイはなおも食い下がる。
「た、確かに内容は当たり前の注意だったかもしれないし、この場にはフェリーチェが嫌がらせをした証拠も無い。だがそれでもデザイアへの当たりが強かったのは間違いなく、1番疑わしいのです。兄上の方こそ、それだけフェリーチェ嬢を庇うのであれば彼女が犯人ではないという証拠はあるんですよね?」
「やってない証拠なんてあるわけないだろう?」
「なら!我々の主張もおかしなものでは…」
「って言いたいけど、証拠はあるんだよね」
僕がパチンと指を鳴らすといつの間にか黒装束の男が目の前に現れる。周囲からはどこに居たんだ?とザワつき始める。
「知らない方々には紹介致しましょう。彼は諜報部隊、“王家の影”の1人。普段は様々な諜報活動を行っており、非常時には王族の護衛も務める精鋭です。そして王家のものが学院に在籍する間は、その護衛とその権力を誤った使い方をしていないかの確認をする…ツヴァイ、お前忘れていたのか?」
「…………あぁぁっ⁈」
「お前本当に大丈夫か…?ともかくフェリーチェ嬢についても王族に準じる立場として、ツヴァイ同様に学院内に関してのみだけど監視されていた。その時の話を頼むよ?」
「はっ!我々が確認した限り、ギューティヒ公爵令嬢は全く関与しておりませんでした。それどころか聖女であるデザイア殿が自分で制服を汚したり、わざと周りのものにやらせたりしていたのを確認しております」
『そ、そんなのデタラメよ!』
「自作自演と来たか…ここまで来ると救いようがないね。それからまだあるでしょ?僕が許可する、言え」
「はっ…その、ツヴァイシュヴェールト殿下とデザイア殿は度々密会を繰り返し、肌を合わせていたものでございます…」
「そ、そんなわけないだろう⁈ふざけるな!」
「王家の影が王族に対して嘘がつけないように制約が与えられているのは知っているだろう?正直ここまで愚かだとは思ってなかったよ。さあ、フェリーチェ嬢の嫌疑は晴れた。だけどその前に…お前達は後先考えずにこの式典をメチャクチャにしてくれたよね?他国からの来賓もいらしている中、我が国を貶めるような真似をするとはね。この責任、どう取ってくれるんだい?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます