第17話

ヒロトに促されて、人込みの中に足を踏み入れた。


自然と距離が近づく。



もう何年も会っていなかったのに。


隣に並んだだけで、不思議とあの頃に戻った様な錯覚に陥った。




「俺、さ」



「うん?」



「あの頃、すげぇ後悔してたんだ」



「後悔って、なにを?」



「なんであの時、ユウに自分の電話番号教えたんだろうって、さ」




すぐに何を言っているのか分かった。



高校生の時の頃。


バイトで会うのが最後の日。


二人で一緒に帰った日のことだろう。



チクリ、と胸が痛む。



再会で浮かれていた心を、ぐしゃっと握りつぶされたような気分になった。



私は、ヒロトに電話番号を渡されて、物凄くドキドキしたし、物凄く嬉しかった。


また会えるのかもしれないなんて。


勝手に期待をしてしまった位なのに。



それを後悔しているという言葉は、今更聞きたくなかった。




結局、意気地なしの私は。


自分から、その電話に掛けることはなかったのだけれど。

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