第3話

「もう大丈夫だ。」


「うん。」


兄が私の前から退き、私を見下ろしてきた。私はにっこりと微笑み返した。


背後から再びバイクの爆音が聞こえてきた。視線を向ければ、琉生のバイクだ。


「来たか。」


兄の言葉に頷いた。数台のバイクが纏まって、私達の周りにバイクを停めた。


「向日葵ちゃん、お待たせ。」


「鈴音さん、おはよう。」


鈴音がバイクから降りて、私に駆け寄ってきた。私もにっこりと笑みを向けた。


「向日葵ちゃん、楽しみだね。」


「うん。」


「鈴音、行くぞ。」


琉生の声に鈴音が琉生の隣に並んだ。手を繋ぎ、私達の前を歩く二人を見つめた。


背の高い鈴音はスラリとしていてスタイルが良い。長い髪を纏め、琉生に手を引かれ歩いている。


「向日葵、平気か?」


「えっ?」


隣を歩く悠人を見上げた。悠人がチラリと私に視線を向けた。


「前の二人を見つめてたから。」


「ふふっ、大丈夫だよ。もう琉生君は鈴音さんのモノだよ。」


「ならいい。お前、海で泣いてただろ。」


前に悠人達が連れてきてくれた夜の海の話だろう。私はクスリと笑った。


「いつの話よ。鈴音さんは大切な友達だよ。もう大丈夫だから。」


「そっか。」


「悠人は優しいね。」


「ああ?初めて言われた。」


「優しいよ。」


隣を歩く悠人を見上げれば、照れた顔をしていた。私はクスリと笑えば、悠人の睨みが突き刺さる。


「お前ら、本当に仲良しだな。」


「春人も入る?」


「お邪魔だろ?」


クスクスと笑う春人の腕に絡み付いた。春人が固まるのが分かった。


「照れてる?」


「はあ?そんな訳ないだろ。離せ。」


「何でよ。春人、照れてるの?慣れてる癖に。」


「チッ………、向日葵、後で覚えておけよ。」


春人が走って私達から離れていく。その姿にクスクスと笑いが漏れた。


男の子達がパラソルや敷物を敷いてくれた。私達は荷物を置くと水着になっていく。


私も着てきた服を脱いで水着になった。チラリと隣を見れば、鈴音が脱ごうとしていない。


「鈴音さん、海に入らないの?」


「あっ、うん。恥ずかしくて……。」


「…………海に来たかったんじゃ。」


「そうなんだけど…………。」


頬を染める鈴音を見つめていれば、鈴音は立ち上がり、突然、意を決したように脱ぎ出した。


細い身体から覗く白い肌…………。


「それ………。」


白い肌に残る痕………、琉生の痕だ。私の胸がチクリと痛んだ。恋人同士なんだから当たり前だろうけど。


鈴音の身体から視線を外しそっと目を閉じる。自然と握り締めた拳を突然思いっきり引っ張られた。


「きゃっ。」


「向日葵、海に行くぞ。」


私の手を引き、ズンズンと歩く悠人を見上げた。悠人の漆黒の瞳が私を見下ろしていた。


「向日葵、行くぞ。」


悠人に手を引かれ、海に向かって歩いていく。後ろからはビーチボールを持った春人と一が付いてきていた。


「鈴音さんに変に思われるぞ。ちゃんと笑え。」


「うん。」


鈴音の身体につけられた琉生の痕が頭を過った。私は頭を大きく振れば、悠人の視線が突き刺さる。


「痛ぇ。」


「あっ、ごめん。」


どうやら頭を振った際に、髪が悠人にバシバシ当たったみたいだ。悠人の睨みにクスリと笑った。


「ごめん。そんなに睨まないでよ。」


「頭を振るな。」


「じゃあ、手を離せば?」


悠人がニヤリと口角を上げたと思ったら、肩に担がれ、海の中に落とされた。


「ちょっ、悠人!」


「ククッ………、溺れるなよ。」


「悠人!女の子を投げるってどうなのよ!」


「別にいいだろ。」


クスクスと笑う悠人に水を掛ければ、悠人の髪に掛かり、悠人が髪を掻き上げた。

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