失恋

第1話

私の好きなバイクの爆音が響く。私は兄の腰に腕を回していた。


流れる景色を見つめる。西高校の制服を着た生徒達が大勢歩いている。


「あれウエストじゃない?」


「嘘、新さん、誰か乗せてない?」


「誰よ?うちの制服を着てない?」


赤信号で止まれば、聞こえてくる声に私は顔を反対側に背けた。兄が私の頭をポンポンと叩いた。


「妹だって言えば?」


「注目されたくない。」


「俺達といれば注目される。それは仕方ない事だろ。」


「でも…………。」


「妹だって言え。何かあれば、悠人達に言えよ。」


「……………。」


信号が青に変われば、兄がバイクを吹かして飛び出していく。私はしっかりと掴まっていた。


あっという間に学校に到着した。駐輪場には、琉生達がすでに到着していた。


私は皆に挨拶をして、一緒に教室に向かって歩いた。


私の前を仲良く歩く兄達の後ろについて、私は青山達と歩いていた。


自然と集まる視線を無視して、教室に入っていく。私は自分の席に腰掛けた。


「如月さん、如月さん。」


私は目の前に立つギラギラと獲物を狙う瞳に、眉間に皺が寄っていく。展開が想像できるからだ。


「紹介してよ?如月新さんって、お兄さんなんでしょ?ウエストの幹部を紹介してよ。」


私は彼女達から視線を逸らした。何度も繰り返し言われてきた言葉だからだ。


「聞いてる?如月さん、紹介してよ。」


私は彼女達に視線を向ける事はない。一人の女子が私の腕を掴んだ。


「おい、止めろ。」


地を這うような低い声に私は視線を向けた。悠人が彼女達を鋭い視線で睨み付けている。


「手を離せ。」


私の腕から手が離れていった。私は悠人に視線を向けて口角を上げた。


「ありがとう。」


彼女達と悠人が私の席から離れていく。私はまた外に視線を向けた。


「向日葵、乗れ。」


「琉生くん、乗せてよ。」


琉生はバイクに跨がり吹かし始めた。私はヘルメットを被り、仕方なく兄の後ろに乗った。


「向日葵、我が儘ばかり言うな。琉生は女を乗せない。」


「言ってみただけよ。」


兄の言葉に溜め息を吐いた。腰に腕を回せば、バイクが走り出した。


交差点で琉生達が違う道に向かっていく。毎日、毎日、ウエストの溜まり場に行ってるみたいだ。


「溜まり場で何してるの?」


「別に。夜飯はいらないって言っといてくれ。」


「はいはい。」


兄の背中を見送った。楽しそうに遊ぶ兄達が羨ましい。一人で出掛ける事もない私には兄達が羨ましい。


家に入り、ベッドに寝転がる。目を閉じて、青山達の話を思い浮かべた。


「琉生さん、最近、本命の女が出来たみたいだぞ。」


でも琉生は彼女を作らない。私はそう信じていた。


学校に行けば聞こえてくる噂。


「花崎さんに女ができたみたいだぞ。」


「遊びだろ?」


「どうやら本命らしい。」


琉生の噂だ。琉生に彼女が出来たとか……。


「あり得ない。」


私は噂を信じていなかった。だって琉生は彼女を作らないから。


いつものように教室に入っていく。席に座れば、周りを囲む女子に視線を向けた。


「如月さん、花崎先輩に彼女ができたの?新さんはフリーなの?」


「噂でしょ。兄達は彼女を作らないから。」


「だよね?今までそんな噂なんてないし。」


女子が私の席から離れていく。嬉しそうに顔を弛める彼女達から視線を外した。


「琉生に彼女なんていない。」


小さな呟きが自然と溢れた。私の知っている琉生は彼女なんて作らない。


「責任なんて取れないからな。」


琉生の言葉が頭を過る。琉生にとって、大事な女なんか現れないと思っていた。

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