第3話竜と少女

「けほっ」

リリーは短い咳をして、自分の体がいつもよりも熱いことに気が付いた。いじめっ子から水を浴びせられたからか。それとも昨日母からウォッカをまるまるひと瓶そのまま頭に注がれたからか。ぼーっとしすぎてよくわからない。ただ、この、まま家にいてはいけないということはすぐにわかった。理由はリリーが熱を出すと、決まって両親の喧嘩が激しくなるからだ。子供が風邪をひいた責任を押し付けあっているのだろう。普段は何があってもそんなひに関心はしないというのに。とりあえず必要なものだけを持って家を出た。といってもどこにいったらいいかわからない、ただ足は、行き先の知らない方へと向かっている。

「どこに行くんだろう」

という疑問が、熱された体中の血液によって溶かされてしまった。壁伝いに歩いていると、いきなり壁がなくなった部分に倒れ込んでしまった。いきなりだったのでそのまま倒れ込んでしまい、頬を強く打った。そこはいじめっ子に殴られた場所で、しばらく痛みに疼くまる。リリーは自分はここ覚えているとハッとした。土の壁、土の天井、草木の匂い。あの竜のことを思い出して、走った。

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