Fanfare Ballad and Jubilee
腺沼優ニ子
ファンファーレ・バラード&ジュビリー
秋田県の葬式では、通夜や告別式の前に遺体を燃やし、遺骨にした状態で葬儀を行う。これを〝前火葬(まえかそう)〟と呼ぶ。一説によると、降雪量が多い地域ゆえに冬季は訃報の伝達や親族の集合に時間を要し、そのあいだに遺体が腐敗してしまわないよう、予め荼毘(だび)に付すことが習慣化され、その文化が現代まで残ったのだという。
生まれも育ちも秋田のぼくにとって、前火葬という風習やその由来については、聞いたことはあっても実際の葬儀でそれを体験する機会は、幸か不幸か、二十年間の人生の中で一度も訪れず、だから、いまこの瞬間、葬儀前に焼かれる遺体を眼前にしてはじめて、「ああ本当に最初から燃やしてしまうんだなあ」と、地域性みたいなものをようやく実感するのであった。
火の粉を散らし煙を巻き上げ、目の前で燃える死体。
人生で経験するはじめての葬式が自分自身のものだなんて、誰がどう見たって不幸なことだろう。
燃やされているのはぼくの死体なのに、まるで他人事のようにそんなことを考えた。
円筒形の火葬炉内は遺体の乗った台車一台でいっぱいになってしまうほど狭く、そんな空間で台車の脇に立って火葬の様子を見下ろすことなんか出来るはずないのに、けれどいまぼくが、焼かれるぼく自身を見ることが出来ているのは、きっといまのぼくが実体のない魂みたいな存在だから。肌の表面が炎に炙られみるみるうちに黒く変色し、溶けて裂けて赤身を晒しまた炭化を繰り返す、かつての肉体を離れ幽霊となったぼく自身が、この世のどこでもない次元から、出てきたばかりの器を見下ろす。
幽霊になったぼくの隣には、死神が立っている。死神と言っても、巨大な鎌を持っているわけでも黒いローブを被っているわけでもなく、鎌の代わりに出刃包丁、ローブの代わりに藁で身を包み、角を生やした赤い面で顔を隠す、それは紛れもなくなまはげの姿だ。
「おめ、悪(わり)ぇ子だべ」
なまはげは、ぼくに話し掛けた。赤い鬼の面が炎に照らされ一層赤く輝く。どこかで聞いたことがあるような声だった。
「ああ、きっと悪い子だよ」ぼくはなまはげに答える。「二十歳になったばかりで、両親よりもはやく死んでしまった。まわりの人を悲しませる子供は、悪い子だろう」
なまはげはぼくの言葉に反応しない。ずっと、ぼくの死体が燃やされているのを見続けている。
ぼくは、なまはげに質問をする。
「ねえ、なまはげさん。きみは、秋田県における死神みたいな役割を果たしているのかい」
これまでに死んだことがないから知らないだけで、誰もがこうやって死後に幽霊となり、死神たるご当地のアイコンによって地獄とか天国とかに連れていかれるのだろうか、そう考えての質問だった。
なまはげは答える。
「おめ、もんだどもたら誤解してらのがもしれねが、おれはおめにとっての死神どが天使どがじゃあ、ね。たしかにあの世には少しばり通じでらつもりだが、んだどもあの世どはこの世でね場所でいうばりであり、決して天国や地獄意味しね」
否定の連続と抽象的な話が繰り出される。最初の科白こそよく聞くなまはげの代名詞的なものであったが、何やら難しいことばかり言っている様子は、ぼくの知るなまはげとは少し異なっているようだ。
「死神でも天使でもねならなんなんだ、と聞がれれば、やっぱし、おれは単なるなまはげであり、それと同時におめの中にいる鬼だど、そう答える。おれは、おめがこの世でやり残したごど、悔やんでらごど、まだ生ぎだがったど願う気持ぢが生み出した怪物だ。思い残しの顕現なんだ」
「ぼくの、思い残しが生み出した怪物?」
なまはげの文化にはそんな裏設定、なかったはずだが。
「おめ、なまはげの名前の由来おべでらが? 囲炉裏の前にばりずっといる怠げ者どご懲らしめるだめに、そいつらの低温火傷(ナモミ)無理矢理剥いでまわる鬼〝ナモミハギ〟。それがおいがだなまはげの名の由来だ。火のあるどごろになまはげあり。この火葬炉の中でかづでの自分どごただ見づめでらばりでは、火傷ばり増えで成仏したぐともしきれねべ。んだんてこうして、おめの後悔晴らすためにおれがこさやって来だんだ」
随分と牽強付会な理屈でなまはげが火葬炉にいる理由を説明された。納得しがたいが、言われてみれば確かに、赤鬼の面でくぐもった声は、どこかぼく自身の声に似ている。ぼくの思い残しが生み出したのがその姿ならば、面の向こうにいるのも、もうひとりのぼくということなのかもしれない。
「でも、ぼくの思い残しって一体なんだろう」
「しらばっくれるんでね。おめがいまいぢばん後悔してらごどが、生ぎでらあいだに果だせねがったごどが、考えで思いづぐまでもなぐ常さ頭の大部分占めでらはずだべ。なしてならこご数年間のおめの思考はおおよそがそれに至るだめの道筋の試算だったし、死ぬ間際の数日間においではすべでの行動理念がそれ達成するだめの布石であったがらだ。おれはそれおべでで、それずっと見でだ、気付いでだ。繰り返すようだが、そもそもおめの強ぇ動機、おれどご生み出しだンだ。その感情は、死んだがらってそう易々ど消える訳でね。忘れるな、おめがやりだがったごど、出来ねがったごどどご」
息巻くなまはげの弁に、ぼくは黙り込む。目の前に広がる巨大な湖を手前で迂回するかのように、死してなお自分の中で沸き立つ確かな欲求を、それでも無視し続けたかった。愚かな自分を忘れたかった。
なまはげは沈黙したぼくに同情してか、今度はやさしげな声音になって、再度訊ねる。
「おめ、なまはげになれる資格おべでらが?」
「知らないよ」
自分で思っているよりも拗ねた声が出た。しかし特に気にしていない風で、なまはげは続ける。
「未婚の若ぇおどごしか、なまはげにはなれねんだ。なしてが。それは、なまはげが家(え)にやってくるどぎ、なまはげがらそのえの子らに対して行われるしつけ目的だげではなぐ、なまはげの側も、家族のあだだがさまなぐの当だりにし、感じ入ってもらう目的があるがらなんだ。なまはげに羨ましがられでごそ、そのえは一層繁栄するど考えられでら」
「……それって逆に言えば、独身のなまはげが幸福な家族を妬んで、不当な怒りを子供にぶつけているようにも捉えられない?」
「ああ、ごもっともな指摘だ。んだども、そんたみだぐね感情の有無は、曖昧にしておいだ方がえべ。そもそも儀式なんだんて単純なごしゃぎどが妬みは入り込む余地がねがったりする。重要なのは、なまはげ側の要素どして、満だされでね状態である、ていうごどだ」
「満たされていない状態……」
「より単純化して言い換えるだば、なまはげは童貞であるべぎ、ていうごどだ」
ぼくは顔が赤くなった。火に照らされているからではないし、そもそも幽霊に顔があるのかもわからないけど。
なまはげは、ぼくの死体から目を離し、幽霊の方のぼくと向き合う。
「おめ、自分童貞のまま死んでしまったごど心がら悔やんでらだべ」
再度ぼくは黙る。けれど、図星であった。
「二十年間生ぎでぎだおめの人生の中で、いぢどどしてそういった機会さ恵まれねがったごど、心底残念さ思ってらだべ。もしも再び生ぎ返るごどが出来だんだば今度だばなんとしてでもやってけるべど、いま願って止まねべ。それぐらい、性への執着棄でぎれでねだべ。わがるぞ、全部伝わる。なしてならおめのその気持ぢが、おれ自身だんてだ」
「……ねえ、そんなに繰り返して言わないでくれるかな。さすがに恥ずかしいよ」
「まなぐ逸らすんでね、自分の強ぇ感情がら。忘れるなよ、執念どご」
執念の顕現たるなまはげ自身がぼくに対してその執念を強調するのは、自分の存在意義を確かなものとしたいからなのだろうか。そう考えると、なまはげも結構必死なのかもしれない。
「あのね、なまはげさん。そんなに単純な感情じゃないんだよ、性への執着って。少なくともぼくの場合はね。もしかしたらきみは、シンプルにやりたいやりたいという気持ちだけで、火葬炉くんだりまでやってきてぼくを幽霊に仕立て上げたのかもしれないけれど、でも、その感情の持ち主たるぼくの中には、もうひとつ、貞操観念という、言わばプライドがあって――」
「――そのプライド棄でだ結果、おめだば死ぬごどになったんだべ」
ひと際低い声で、なまはげは言った。痛いところをつかれ、ぼくは三度(みたび)黙る。
なまはげの方も言い過ぎたと思ったのか、すぐに謝る。
「……すまね、過ぎだごどどうこう言うつもりはねんだ。おめが必死だったごど、そして、誰よりも悩んでだごども、おれはおべでら」
「かわいそうと憐れまれるのがいちばんきついよ」
「すまね、ほんに申し訳ね。ああ、こいだばおれの方が悪ぇ子でねが……」
見る間にしゅんとなるなまはげ。そんな姿を見せられては、こちらも申し訳なくなってしまう。
「いいよ、もう謝らなくても。本当に過ぎたことなんだし。それよりもさ、次に何をすればいいのかを教えてよ。まさかもういちど生き返らせて、そういう機会を作ってくれるって訳でもないんだろう」
そういった、なんでもアリが通用するほど甘い世界だとは思っていない。でも、思い残しをどうにかするために何か出来ることがあるから、なまはげはここに来ているはずなのだ。
「残念ながら、おめどごこれがら生ぎ返らせるごどは出来ね。おめはこごで燃やし尽ぐされだのぢ、ただの無になる。骨ど灰だげが残り、意識は消える。それは決定事項だ、変えられね。んだども、猶予はある。この火消えるまでのあいだ、おめとおれは制限付ぎの自由得られる。時間は少ね。いますぐにでもこご出るべ」
なまはげは、言うが早いかぼくの手を取った。
「ここを出るって……いまからセックスしにいくの?」
「えや、やるのは性交(ヘッペ)でね」
素頓狂なぼくの質問にも、至って真面目に答えるなまはげ。反対の手に持つ出刃包丁を火に煌めかせ、続ける。
「おめどご殺した相手さ復讐するンだ」
ここを出ると言われて、てっきり遺体が通って来た火葬炉の扉から出るのかと思ったが、実体のないぼくらの力じゃ扉を開けることは出来ず――実体がないなら通り抜ければいいじゃないかと思うが、そういう訳にもいかないらしい――、有機物たるかつての肉体を燃やして出る灰や煙に混じって煙突から空中へ飛び出した。空は曇り模様でいまにも雪が降り出しそうだが、幽霊は寒さを感じにくいのか至って平気、そもそも気温変化を適切に感知する身体があれば火葬炉内でも無事でいられるはずがないから、死んで意識だけが残ると言うよりすべては死の間際の意識が見せている夢なのではないかと、そろそろ思い始めていた頃、火葬場駐車場の端にポツンと停まった緑色のバスの脇になまはげの案内で降ろされる。
お馴染み、秋田観光バス㈱の運行する〈なまはげシャトル〉だ。
「おれが運転する。すぐに着ぐがら、おめだば好ぎな席にねまれ」
そう言ってなまはげは片手に持っていた包丁を、鬼斬り放つゾロよろしく(鬼だけに)、面の口許へカチャリと装着した。これで両手が空いたので、ハンドルを安心して任せられる。
好きな席と言われたが、なまはげと話せるように、運転席の真後ろを選ぶ。気を利かせて暖房を入れてくれたのか、バスの窓が結露で曇り、そこに指ではなびらの絵を描く。実体がない身体であるはずが、同じく実体のないバスに乗っているためか、きちんとガラスの硬さ・冷たさを感じる。それが却ってあの世に来たことを実感させるようで、描いたはなびらの輪郭に溜まった水滴がバスの発進と同時に斜めに流れた。
窓の向こう遠くには凸凹の岩礁と橙色の日本海、丁度、西日が沈むところ、かと思いきやぐんぐんとすごいはやさで天頂まで登る太陽。
「所謂、走馬灯でいうやづこれがら見にえぐ。おめが生まれでこさくるまでに通って来だ道、順々さダイジェストで振り返るんだ」
時計の早戻しを見せられているようであった。冬秋夏春と季節が一瞬にして過ぎ去り、風向きの東西が目まぐるしく入れ替わる。後ろ向きに往来する数多の人や車とすれ違い、漏れなく皆ぼくらをすり抜けてゆく。花火の中心を転々と飛ばされるような美しさがあり、同時に乗り物酔いで吐きたくなる。生きた心地がしなかったが、そもそももう生きていなかった。
気付けば、ぼくの出生の家に着いていた。十五歳のときに引っ越して去った家、いまは壊されてこの世に存在しないはずの家。
「走馬灯の振り出しはこごだ。降りれ」
家の前の道路脇でバスが停車する。降り立てば、ぼくがかつて暮らしていた家の隣家から小さな男の子とその母親が出てきた。季節は秋頃だろうか、真冬では寒いくらいの軽い防寒をしたふたりは、手を繋いで歩き出す。男の子にもその母親にも、見覚えがあった。
「……ん、おめ、もう泣いでらのが」
「泣いてないし」
男の子の顔を見た瞬間、どうしたって止めることが出来ずに涙が溢れ出した。ぼくに続いて降りて来たなまはげには見えないよう、顔を俯かせて背を向ける。
「あれがおめの初恋の相手が」
ぼくの涙脆さゆえすぐに気付かれる。なまはげだってぼくの一部なんだから、過去の記憶や感情も共有しているはずなのに、それをわかってここにバスを停車させているだろうに、さもいま知ったかのような反応が腹立たしい。
「あいづ、名前はなんていうんだっけ」
「蒼鳥(あおと)だよ。ねえ、なまはげさん。きみだってよく知っているだろう、なにを今更知らんぷりしているの」
声を潜めて返す。
「予め言っておぐど、いま見えでら景色は現実のものでね。飽ぐまで走馬灯であって、おめの記憶の中にしかね景色の再現だ。んだんて、こぢらの声聞がれるごども姿見られるごどもね。自分がら能動的に自身の記憶変えるべどしね限り、この走馬灯世界においがだは干渉出来ね。声量気にする必要もね。加えで明らがにしとぐど、確がにおれは、おめの中にあった後悔でいう感情の表出だが、それ以上でもそれ以下でもなぐ、単なる感情の一種、おめのおべでらごどすべでおべでら訳でね。走馬灯なぞりながらおめから教えでもらいでゃごども多ぇ。特に、おめが固持し続げだ貞操観念だるものがなして育まれだのが、ていう部分はいっとう興味がある」
びゅうと北風が吹き、歩く母子に冷気を当てた。幼い蒼鳥が寒そうにしているのを見た彼の母親は、屈んで彼のマフラーをかたく結び直す。微笑ましい光景の横を、これまた非常に馴染み深い顔のひとりの男の子が、てちてちと走って通り過ぎようとしていた。
「……あ、ぼくだ」
四歳くらいの年齢だろうか、ジャンパーの裾から当時通っていた幼稚園のスモッグが覗いていた。幼児のぼくもまたマフラーを巻いているが、解けかけてひらひらさせたその端っこをすかさず掴んだのが、母親にマフラーを直されている最中の蒼鳥。ぐいと首が締まり、体勢を崩した幼児のぼくはその場に転ぶ。一瞬の沈黙ののち、サイレンを回すかのように大きな声で泣き出した。蒼鳥の母親は、優し気な様子から打って変わって、息子の乱暴な行動を叱りつける。「ごめんなさいして」と言われても、蒼鳥はツンとそっぽを向いている。「この程度で泣くなよ」とでも言いたげだ。泣き喚いて止まらないぼくに駆け寄ってきたのは、あれは、母さんだ。蒼鳥の母親はぼくの母さんにも頭を下げる。若い頃の母さんは、困ったような笑顔でそれに返す。
「なんだ、おめ、その蒼鳥どやらにいじめられでだんでねが」
「……いや、思い返せば確かにそうだったね。小学校高学年くらいまでは蒼鳥、ガキ大将だったから、結構乱暴なこともされていたよ」
だから勿論、この時期は彼のことを好きでもなんでもなくって、寧ろ、ちょっかいばかりかけてくる鬱陶しいご近所さんくらいに思っていた。そもそも、幼稚園児だから恋愛感情というものについてよくわからないくらいの時期で、まさか自分が男の子のことを好きになるとも思ってもみない頃だ。
「当たり前だけど性欲なんてのも持っていない、人生で最もピュアな時期だよね」
なまはげに対する当て付けのように、ぼくは言う。
「あのねえおめさん、まるでおれが性欲の権現が何がみでゃに思ってらような言い草だが、否定させでもらう。おれは飽ぐまでおめの思い残しとが後悔の権現であり、おめが死の間際さ抱いでだそれが性への方向性どごたがいでだせいで、結果どして性欲の鬼みだいになってらばりなんだ。ほら、次さえぐぞ」
ピュアな時期を見続けていたって仕様がないと、ぼくらは二組の母子をその場に残し、またバスに乗り込む。
「それにな……性欲だって、ひとづの純情のがだぢで言えるべ」
運転席のなまはげは、シートベルトを締めながらそんなことを言った。ぼくだってそんなことはわかっている。性欲がないからピュアであり、セックスしたいから純情じゃない、みたいな二元論はあまりに幼稚な発想だろう。
再発進するバス、景色が早回しで進んでゆく。
「せば次は、おめの恋心の芽生え見にあべ」
「え、ねえこれって、ぼくの恋愛に沿った走馬灯なの?」
それならば当初の目的、ぼくを殺した相手への敵討ちとは少し違うように思える。元より、記憶を辿るだけの旅で復讐までに至るかどうかも疑問ではあったが。
「ああ、重要なのは思い残しねぐ死んでもらうごどだんてな。最期の瞬間さ想起されでだ事柄、すべでについで解消していぎでゃだべ」
ぼくが死の間際に何を想起していたか……時間にして数日も経っていないのだろうけれど、苦しみの中にあったあの瞬間を振り返るのは、正直とてもつらい。それでも、唯一、思い出せるのは、その瞬間にでさえ確かに愛するひとのことを想っていた記憶。
人生で愛した、ただひとりの人。
蒼鳥のことを、強く考えていた。
次に着いたのはぼくらが通っていた中学校の前であった。高校以降は地元を離れていたので、ここもまた懐かしい景色に感じる。
「いまは、放課後が。授業中ではなさそうだな」
田舎特有の生徒数に比して大きな容積の校舎、その最上階にあった音楽室から、合唱部の歌声が聴こえる。季節は初夏で、半袖シャツやセーラーの生徒たちが校舎を見上げるぼくらの横を通り過ぎてゆく。
「おめだば何が部活さ入ってだんだっけ」
「ぼくは、英会話同好会に入っていたよ。毎日やるような部活じゃなくて、週に一、二日精読会が開催される、会員がぼく含めて三人しかいない小さなクラブだった。残りのふたりは、確かどちらも下の学年の女子だったはず。だから、精読会の様子を見に行っても、そこに蒼鳥はいないんじゃないかな」
蒼鳥が入っていたのはバドミントン部で、毎日練習があるような強豪であった。蒼鳥はその中でもエースで、新聞の地方欄に写真付きで載るような成績を残していたのを憶えている。
「やんちゃなガキ大将が思春期を迎え、性格は落ち着き真面目になると同時に、身体はどんどんと大きくなっていった。多分、この頃はそういう時期だね」
「おめと蒼鳥どの関係はこの時期、どんたふうに変わってだんだ?」
なまはげの質問にぼくが答えるより先に、校舎の中から中学生のぼくが出てくる。丸眼鏡を掛けた短髪のヒョロガリ。幼稚園時代の愛らしさはいずこへ消え、顔にはいくつかの吹き出物を蓄えている。
「……ぼくの人生における、いちばん醜い時期だ。見た目も中身も、とっくにピュアではなくなっていた」
そろそろ自慰行為も覚えていただろうか。ならばきっと、自分の性的志向が女性ではなく男性に向いていることにも自覚的になり始めた時期かもしれない。
ひとり帰路に就こうととぼとぼ歩き出す中学生のぼくに、運動場の方から「おーい」と呼び掛ける声があった。中学のぼくも幽霊のぼくも、なまはげまでもが一緒になってそっちを振り返れば、夕陽を背に手を振る大きな身体があった。蒼鳥の声だ。
「おーい、丁度いま部活終わったところだから、一緒に帰ろうぜ」
そう言って、彼はずんずんとこちらに歩んでくる。中学生が背負うには巨大過ぎるはずのYONEXのラケットバッグが小さく見えるくらい、成熟しきった大きな男性の肉体。愛おしさのあまり、ぼくの目には懲りずに涙が溜まる。
顔を下に俯け、ぼくはなまはげに答える。
「ぼくと蒼鳥との関係は、この頃、とてもよかったはずだよ。蒼鳥はぼくが彼に対して抱く気持ちにまだ気付いていなかったし、ぼくの方も、芽生えたてのその感情に戸惑うだけの段階だった」
小学校の高学年くらいから、蒼鳥から乱暴なちょっかいを受ける機会が減り、代わりに、授業が難しくなり始めたのをきっかけに、彼の方からぼくに勉強を教えてほしいと頼まれる機会が増えた。お互いへのリスペクトが芽生え始めると、そもそも家が隣なので、毎日の登下校を一緒にするようになった。彼の父親の影響か、蒼鳥は洋楽を好み、好きなアーティストの話をよく語って聞かせてくれた。ぼくの方は、口下手なせいもあって、にこにこと彼の話を聞くだけに徹していた。彼を楽しませてあげられていたかはわからない。でもぼくは、声変わりのはやかった彼の低いところで鳴る喉の響きや、剛く柔くふくらみゆく筋肉の男らしさに、人知れず惹かれはじめていた。
「中学に上がって違う部活に入っても、一緒に帰りたいがために、こうして同好会の活動が無い日には教室で自習とかしていた。偶然を装っているけど、この日だってきっと蒼鳥の部活が終わる時間を見計らって校舎から出てきたはずだ」
中学生のぼくは蒼鳥に手を振られ、明らかに嬉しそうな色を一瞬見せるが、しかしすぐにそれを隠そうとぎこちない表情を作る。ただでさえみったくないニキビ面が、もっと見るに堪えなくなっていた。
「……おめだば、蒼鳥のごどどんた気持ぢで好ぎだったんだ?」
なまはげが訊ねる。漠然とした質問であったが、意図は十分にわかった。
「つまり、この頃のぼくが彼とセックスしたかったかどうかってこと? それはね、確かに言えるのは、まだ全然そんなこと思っていなかったはずなんだ。少なくとも、自慰行為中に彼を想ったりすることはなかった。それはもしかすると、幼馴染に対してそんな感情、抱いてはいけないという理性のせいかもしれないけど」
「ある意味で、蒼鳥さ対してはピュアでありでゃ気持ぢがあったんだな……」
幽霊のぼくらが見守る前で、蒼鳥が中学のぼくに駆け寄る。ただの友達に向ける様な、屈託のない笑顔を湛えていた。まるで美しい友情に見えた。ぼくの中に渦巻く恋心を彼に対して隠し続ける限り、この友情は続いてゆくのだろう、そう思った。
しかし、そんなふたりの間に、割り込む者が現れる。
「蒼鳥先輩おつかれさまです!」
女子更衣室の方からやってきたのは、YONEXのバッグを背負った小柄な女の子。指定ジャージの短パンから健康的な白い肢を覗かせ、重い荷物のせいか前屈みで歩くバド部の後輩女子。幽霊であるはずのぼくの鼻腔にも強くかおるシーブリーズの匂い、強制的にフラッシュバックする苦い思い出。
「先輩、今日ちょっといいですか? あ、お友達とご一緒なら全然いいんですけど」
瞬く間に、ぼくよりも蒼鳥に近い位置へ彼女は入り込む。近すぎるが故に蒼鳥を見上げる形になり、譲歩するようなことを言いつつも、彼のお友達であるぼくの姿なんてまるで眼中に入っていない。
「おい、えのが? あの女さ蒼鳥どられるぞ」
隣でなまはげがそんなことを聞く。いま焦ったってどうしようもないし、過去の記憶はもう変えられないのに。
「……いや、この時点で多分既に、手遅れだったんだ」
中学のぼくと幽霊のぼくの中で共通する諦念が滲み、ほとんど同時に彼らふたりに背を向けた。
「あの子は、蒼鳥に出来たはじめての恋人だよ。童貞すら彼女に捧げているはずだ。噂でしか聞いていないけど」
そして、ぼくが蒼鳥に対して抱く感情を決定付ける、大きな要因となった人物だ。彼女がいたからこそ、彼女に対して嫉妬してしまったからこそ、遡及的に自分が蒼鳥に対して恋愛感情を抱いていることを知らしめられた。その意味では、ぼくは彼女に対して感謝してもいいのかもしれない。または、一生出られない袋小路に叩き込んだという意味で、やはり憎むべき相手なのかもしれない。
どちらにせよ、当時のぼくは十分彼女に苦しめられた。蒼鳥がぼくには決して見せない表情を、彼女に対しては見せている。それを傍から見る度に、彼女の立つ場所にいるのがどうして自分ではないのかを悶々と悩み、性別だけじゃない圧倒的な彼女と自分との違いが思い知らされた。羨めば羨むほど、嫉妬で唇を噛む回数が増えるほど、ぼくの中で蒼鳥に抱く恋愛感情はひとりでに膨らんでいった。後々、ふたりの間で執り行われているらしい蜜月の内容がゴシップとして耳に入れば、その恋愛感情はほどなく性欲と結びつく。自らの後ろへと伸びる指の本数が増え、目を閉じ思い浮かべる対象が当該噂のカップルの姿と重なる。悔しいけれど、ぼくの与り知らぬところで確実に行われているらしいその行為の存在が、ひとりの時間に覚える快楽を加速させた。
もう見ていられないから、という理由でぼくらはバスに乗り込む。発車したバスは、カップルとは逆方向へひとりとぼとぼと歩む中学生のぼくを追い越す。
「……まあ、中学を卒業する頃には別れるんですけどね、奴ら」
「中学生の恋愛なんて往々にしてそんたものだべ。大人になった蒼鳥の中で当時の彼女占める割合だって、たががおべれでいるんでねが」
なまはげに慰めのような言葉を掛けられるが、重要なのは中学当時の自分にとって、蒼鳥がとられたという敗北感だ。
「さっきは、蒼鳥のことをそういう目で見ていなかったって言ったけれど、彼に恋人が出来たあたりからはもう箍が外れたように、彼のことだけしか妄想しなくなったね」
「しったげ開ぎ直ったものだな」
「ルサンチマン的思想って言うのかな、持たざるものなんだからオナニーくらいさせてよ、っていう」
「純情転じで怨恨どなる、か。それもまだ一種の純情なのだべが……」
バスは、青森から続く国道へ出た。ここまで来ると、なまはげシャトル正規の路線を大きく外れることとなる。海はもう見えない。
「おめ、高校は蒼鳥ど違うどごろに行ったんだっけか」
「そう。地元の田舎から少し離れた、比較的街中にある高校だった。進学と同時にあの家から引っ越して、高校の近くに住むようになった。蒼鳥は地元に残ったから、疎遠になるんだろうなって思ってた」
「それが、高校さ入っても結構頻繁さ彼どは会ってだんだよな?」
「うん。ぼくが思っていたより、蒼鳥はぼくに好意的でね。お互い携帯電話を持ち始めたのも大きかったのかもしれない。定期的に連絡を取り合って、彼が街まで出て来て会うことが多かった」
周りの景色と会話の流れから、そろそろ次の行先がわかってきた。高校の頃、蒼鳥とよく会っていた国道沿いのショッピングモールだろう。
「ねえ、なまはげさん。もしかしてこの日って、クリスマスイブだったりする?」
モール内の装飾や店内BGMなどから、到着した先の時間軸が十二月であることは予想出来たが、しかしそれがもしも高校二年生のクリスマスイブならば、ぼくらがここに来た意味合いが大きく変わる。
「どうだべ。今更ながら教えるど、おれが選べるのは大雑把な年ど場所だげで、細がぇ時間指定はバスの赴ぐままなんだ。ただ、どさ行ったどしても、そごがおめと蒼鳥にとって重要な時空間座標であるごどは確がだ」
「そう……」
ならばやはり、いまいるのはあの日のショッピングモールなのだろう。
「じゃあ、ぼくらがこれから向かうべき先も決まっているよ。忘れもしない、今日があの日なら」
あの日……高校二年生のクリスマスイブは、ぼくがはじめて蒼鳥に告白した日だった。
ぼくとなまはげはエスカレーターに乗り、モール最上階のシネマコンプレックスに向かう。この時期、ぼくと蒼鳥はお互いホラー映画に熱中していて、七十年代の名作がリメイクされたからとどちらともなく誘い合い、ここに集まった。公開して間もない休日のお昼の上映なのに、劇場内にはぼくらしかおらず、どこでも好きな席を選び放題だったのを憶えている。
いまは、幽霊のぼくらがそこに加わって、四人だけの劇場だった。
「これ、冗長でつまらない映画だったよ。特に怖いシーンもなかったし、リメイク元の方がよほどクオリティ高くてね」
「んだんて、おめらは映画なんて構わず、ふたりぎりでいるのえごどに、雑談さ興じでらんだな」
幽霊のぼくらが座る隣の隣、男子高校生ふたりは、最近の学校生活なんかについて話している。思春期の特に濃い時期を抜けたからか、ぼくの顔からは綺麗にニキビが消え去り、整髪剤なんかも付けて、鬱屈していた中学時代とは打って変わって一丁前に青春を楽しむ気概を漂わせている。その隣の蒼鳥は、身体の大きさなどは中学から変わらないが、一層、大人の落ち着きを身に着け、到底高校生には見えない。
いい感じの雰囲気のふたりであった。当時のぼくもそう思っていたし、きっと少なからず、蒼鳥だってそう思っていたのだろう。
「……蒼鳥、最近彼女とかどう」
それとなく、恋愛に関する話題を振ってみる高校生のぼく。ああ、よく憶えている。そういうコミュニケーションを卒なく出来るようになっていた頃だ。
「全然だよ、しばらく出来てない。なんか俺、そういうの向いてないらしくてさ」
蒼鳥の返答も憶えている。質問には答えつつ、重要な部分ははぐらかすような返答。「そういうの向いていない」とは具体的にどういう意味だったのだろうか。いまになっても、よくわからない。
蒼鳥側からは、ぼくに対して何も訊かない。ぼくが彼のことを想い続けているのを、訊くまでもなく知っていたからだろうか。何も訊かれないのがどうしようもなくじれったくて、ぼくは自分から言葉を紡ぐ。
「あのね、蒼鳥。ごめん、全然どうでもいい話かもしれないんだけど、ぼくさ―─」
「うん?」
「―─実は、ずっと前から、男の子が好きなんだよね」
「(おおおお言っだあ!)」
隣で勝手に盛り上がるなまはげ。
「(行げ! 行げええええ!)」
「でさ、蒼鳥―─」
相手の反応なんて気にしていない振りをしながら、高校生のぼくはさらに畳みかける。ここで勝負を掛けなければ一生後悔するって、そう思っていた。
実際、幽霊になった現在のぼくも、ここで告白したことについては微塵も後悔していないつもりだ。
「―─ぼくとセックスしてくれないかな?」
「(おおい、正気が)」
なまはげが、隣でズッコケている。
「(そらそうじゃん、ぼくはずっと蒼鳥とセックスがしたかったんだよ。逆に、それ以外のひととは絶対したくなかったし。本心を曝け出すことこそが本当の告白でしょう?)」
「(いやいや、そうだどしてもよ、たどえおめが下心全開で蒼鳥のごど好ぎだったどしても、建前どしてこごでは、付ぎ合ってたんせ、とが言っておぐべぎだったんでねが?)」
「(うーん、なんて言うのかな。このときのぼくは、付き合うとかよりも、セックスの方がまだ、簡単にしてもらえると思ってたところがあって。恋愛的に蒼鳥に愛される自信がなかったからこそ、身体先行で繋がってくれないかな、って期待してたんだと思う)」
「(……なんとなぐ、おめの歪んだ貞操観念の仕組みが見えでぎだな。見えでぎだでいうが、見せづげでぎだでいうが……)」
ああだこうだと言い合うぼくら幽霊たちに気付かず、渦中のふたりのあいだでは沈黙が続いていた。お互い、顔はスクリーンの方へ向けながら、交わされた言葉を咀嚼しているのか。
長い沈黙を破り口をひらいたのは、蒼鳥の方であった。
「……セックスは出来るかわかんないけど、まず、付き合うことから始めてみないか、俺たち」
ぼくの告白が、限定的であるが成功した瞬間であった。
「(おおお、えがったでねが、おめでどう!)」
隣で歓声を上げるなまはげの様子が、ぼくには酷く白々しく思えてしまう。告白の結果も、これからのふたりがどうなるのかも、きみだってどうせ全部知っていたくせに。
「―─結局、蒼鳥ってどうしようもなくノンケでしかなかったんだ。幼馴染のよしみとか、友情からくる優しさとかでぼくと付き合ってくれていただけで、そこから先、普通のゲイカップルとかノーマルの恋人同士のあいだにあるようなときめきは、かなしいかな、芽生えなかった。生まれつきの違いだよね。そういうのが無理なひとは、どうしたって男を恋愛対象として見られないわけ。さっさとお互い諦めて、いっそ、ほかのひとを好きになればよかったんだろうけど」
もうあまり時間がないとのことで、バスの行先は次が最後らしい。走馬灯の終着地点、それはきっと現在に限りなく近い時間軸、ぼくらが大学二年生になった年のことだと予想する。
「おれがらしてみだら、それのどごが問題なのが正直わがらねんだがな。恋愛的などぎめぎに乏しかったどしても、お互い尊重し合って気合ってで、友情がもしれねが〝好ぎ〟でいう気持ぢが存在せば、上手ぐやっていげるものなんでねのが? 少なぐどもおめの方がら蒼鳥さ対しては、恋愛どしての好ぎがあったんだべし」
バスを運転しながら、なまはげはぼくに問いかける。バックミラーに写る面からは、その奥の表情まで読み取れない。
たしかにふたりの関係は至って良好であった。喧嘩をすることも滅多になかったし、デートの回数も多かった。会話をすれば笑いが絶えず、日々、新たな発見を見つけ合える関係性だった。一緒にいて誰よりもストレスの少ないふたりであった。
それでも、その関係性の先には、恋愛をする上で避けては通れない重大な要素がまだ残っていた。
「……どこが問題かって、なまはげさん、今更、何をしらばっくれているの? きみが誰よりもわかっていたはずでしょう、ぼくがどれほどセックスしたがっていたか」
つまり、そういうこと。
何度も挑戦してみたが、蒼鳥とのあいだではついぞまともなセックスが成立することなく、ぼくの人生は終わってしまった。どちらが悪いのか、と言われれば、ノンケを好きになってしまったぼくがまず悪いのだろうし、機能的なところで言うと、当たり前だが、男であるぼくに対して彼の性欲はまったく喚起されなかった。
「まあそもそも、男相手や女相手にかかわらず、蒼鳥が誰かに対し興奮することがあったのかどうかも、いまとなっては疑問なんだけれど。彼女だって、中学の部活の後輩以降はほんとうに作ってなかったらしいし」
そういった蒼鳥自身の性的志向について、彼はあまり話してくれなかった。性的な興奮自体が弱かったのかもしれないし、何か言えない変わった趣味があったのかもしれない。わからない、少なくとも、ぼくが彼の趣味ではなかったことだけは、確か。
「セックスが出来ないくらいで、と言う人もいるかもしれない。他のひととすればいい、と言う人もいるだろう。でもぼくからしたら、どちらも筋違いなんだ。多分、ぼくはひとよりも性欲が強い方だろうし、その割には恋愛経験が乏しいせいか、複数のひとと関係を持てるような器用さを持ち合わせていない。そのくせ、人生でたったひとりの相手を愛しきって死んでゆくことこそ、真の美しい愛のかたちだと信じて止まない強迫性を持つ。だから、何がどう転んでも、蒼鳥とのセックス以外は考えられなかったんだ。こんなに好きなのに、こんなにセックスがしたいのに、それが出来ないもどかしさに長く苦しめられ続けたよ」
窓の外では雨が降り出した。往来する人々は傘をさし、あらゆる時空間におけるそれらが重なり鉛色の空気の中、花ひらく。
「ひとり愛する純情ど、ひたすらに性交求める劣情、ぶづがり合って臨界さ達し、ついにおめに行動起ごさせだ―─それが、ついこの間のごどだな」
「―─そう、ぼくが死ぬ一週間前だった」
バスは、ぼくが大学に通うために下宿しているアパートの前に停まる。
高校卒業後、ぼくは大学へ進学し、蒼鳥は地元で家業を継いだ。ぼくの進学先は秋田市にある公立大学で、実家から通えない距離ではなかったが、親の勧めもあって、大学の近くに下宿を借りてひとり暮らしを始めた。
週末には蒼鳥が来ることも多く、ほかの家族の目がない自由さゆえに、これまで以上にぼくが彼の身体を求める回数が増えた。下半身を用いた挿入行為に限らなければ、ぼくらの性交渉はそれなりにかたちになっており、所謂バニラという種類のやり方で何度も互いを愛撫し合った。
彼氏がいることは、まわりに隠していなかった。それを否定されたり面白がられたりすることも、さいわいにしてなかった。ただ、挿入を伴うセックスが出来ていないことについては誰にも打ち明けなかった。そもそもが男同士なので、相談出来る相手が少ないし、言ってしまえばまるで自分がほかのひととの行為を求めていると思われるんじゃないか、とそういった下らないおそれを抱いて、簡単には悩みを口に出来なかったのだ。そんなおそれを抱いていた以上、ぼくが誰か蒼鳥以外の男性とのセックスをどこかで期待していたことも、否定出来ないのかもしれない。
高校二年生のクリスマスから付き合い始めて、三年が経った大学二年生の冬。ぼくらはある日、些細なことで珍しく喧嘩をした。喧嘩の発端はこの際あまり問題ではない。決定的だったのは、互いに感情を昂ぶらせて口論となったときに彼が口にした言葉。
「俺だってほんとうはお前のこと、きちんと満足させてあげたいんだよ、でもそれは、絶対に無理だから。期待されるのもしんどいし、出来ればはやくお前にも潔く諦めてほしい」
無性に腹が立った。ぼくの感情や性質を慮っていない、神経を逆撫でするような発言に思えた。だって、ぼくは諦めるということが出来ない人間だから。蒼鳥のことを諦めきれなかったからこそ長いあいだ片思いを続けて、いまも三年間付き合い続けているのだし、蒼鳥以外のひとに自分の身体を触らせたくない思いで、これまでずっと彼の準備が整うのを待ち続けていたというのに。
それでも、相手の気持ちだって十分にわかっていた。ぼくが彼の未来に寄せていた大きな期待が、彼にとって重荷になっていたことも想像出来た。待つのはこちらの勝手なのに、その勝手に巻き込まれて待たせる側に回されてしまった蒼鳥の方も、客観的に見れば十分可哀想だ。
畢竟、そういったひとつの下らない言葉に青筋を立ててしまっている時点で、ぼくが彼を待ち続ける忍耐にも、限界が来ていたということ。どうして中々、ハチ公みたいに、十年間も待ち続けることなんて出来ないものだ。
すうう、と息を吐いて、思考を落ち着かせ、ぼくは蒼鳥に告げる。
「ごめん、これまでつらかったよね。全然興味ないだろうに、何度も無理矢理アナルセックスするようお願いされて。でも、もうそういうの一回やめにするよ。自分の欲求不満は大切な人をつかわずに満たせるよう、ぼくも大人になるから」
そうして彼の目の前でapp storeをひらき、ゲイ専用のマッチングアプリをインストールした。
「これ使って、さっさと童貞散らしてくるね。一回でも誰かとやればさ、ぼくも少しは落ち着くかもしれないし」
蒼鳥は、ぼくを止めなかった。そんな権利、自分にはないと思っていたのか、それとも、ぼくに対する嫉妬心みたいなものすら全て失われていたのか。
ただ、「心配だから、もしもそういう行為に及びそうな相手が見つかった場合、俺にも連絡してほしい。そいつといつ、どこで落ち合うのかだけ伝えてくれれば、絶対に邪魔はしないから」という条件だけつけられた。彼は嘘を吐かないひとなので、「邪魔はしない」という言葉を信じて、ぼくはその後、マッチングする度に蒼鳥に相手のスクリーンショットを送るよう努めた。
「……それ、結構、蒼鳥側もしんどがったんでねのが。自分の好ぎな相手がおべね男ど会うべどして、あまづさえヘッペまでするべどしてで、その過程随時見せづげられるなんて。並みの男じゃ嫉妬さ耐えられねべ」
下宿先の部屋にはいま、ぼくひとりだけだった。幽霊となったいまのぼくとほとんど変わらない姿の自分。少し未来から来た自分自身となまはげに見つめられているだなんて露知らず、少し過去の自分は布団に転がりながらマチアプの画面をタップし続けている。
「そうだね、もしもぼくが逆の立場だったら、ストレスでハゲててもおかしくないと思う。それくらい、ぼくは蒼鳥に対する独占欲が強いから。逆に言えば彼の方は、ほとんどぼくを独占したいだなんて思っていなかったんじゃないかな」
だからこそ、マチアプのスクショを送り続けられる仕打ちにも、平気でいられたのだろう。いや、平気だったかどうかはわからないけど、でも、マチアプなんてやめろ、とは最後まで言わなかった。
スマホの通知が鳴る。マッチング成立を知らせるものであった。
「この日、ぼくは対面で会う都合がつく相手と、やっとマッチング出来たんだ。チャットでも既に本番想定であることは確認済みで、お互いの志向まで把握し合っていた。プロフィールを見る限り、結構な数をこなしているようだったし、はじめての相手としては適任だと考えた」
軽く動悸して、布団の上で上体を起こす。すかさずプロフとDMのスクショを撮り、蒼鳥に送った。〈明日、このひとと会っていい?〉との文言とともに。
ほどなく、返信が来る。〈明日はちょっとやめてほしいかも。俺の予定空いてないから〉すぐに返す。
〈なんで? 邪魔しないって言ったよね、蒼鳥の予定関係なくない?〉
〈いや、邪魔はしないってのはさ、その場に出向いて俺の目の前でやれって強制しないだけの話だよ。もしなにかあったらすぐに出動はしたいから〉
〈なにかって何? どういうことを想定しているの?〉
ここで、返信まで少し時間が空く。彼が打ち込む言葉を待つ。一分が経ち、送られてくるひとこと。
〈痛い目には遭ってほしくないんだ〉
ぼくはそれを、既読無視した。
「―─それが彼の優しさだって、わかっていたけど、でもそのせいで自分の不自由が続いているって思えば、ここで彼の声を振り切る必要があると思った。幼いよね、わかってる。ただ、それくらいに切羽詰まってたんだ。結果的には言い訳なのかもしれないけれど、いまここで新しい風を入れなきゃ、ふたりの関係が続いていかないような気がして、だからどうしても、すぐに誰かとセックスしたかった。自分の純情を、さっさと棄ててしまいたかった」
彼氏を無視した傍から違う男との逢瀬を計画する少し過去の自分自身を尻目に、幽霊のぼくはそう語った。それを聞くなまはげは黙り続けている。ぼくを愚かだと思っているのだろうか、しかし、愚かさに駆り立てていたのは紛れもない、なまはげのルーツである性欲なのだ。
日が明ける。マッチング相手との約束の時刻が近付き、ぼくは浴室で体毛の処理を始める。準備していた薬を使って、身体の中まで綺麗にする。シャワーを浴びながら、久し振りにわくわくしていた。胸の高まりが強くて、自然と恐怖は抱かなかった。
浴室から出ると、マッチング相手からメッセージが来ていた。ドタキャンかと身構えるが、〈少し前の予定が長引きそうだから、お金はあとで払うので、よければ先に部屋に入っていてほしい〉、とのお願いであった。ほっと胸を撫で下ろす。よかった、会えなくなったわけではないようだ。
準備が整い、家を出る。電車に乗って街中へ向かった。指定されたホテルまで赴き、その前に立つと、改めて自分がこれから童貞を喪うことに思い至る。ちょっぴりこわくなるが、自慰行為だって結構な太さのものでやったりするし、身体的な問題はあまりないんじゃないかと思い直す。じゃあそもそもオナニーとセックスの違いは? とも考えるが、相手を自分の身体で気持ちよくさせてあげる、という点がやはりセックスの素晴らしさだろう、なんて一層期待に胸が膨らみ、はじめてのラブホの門をくぐる。
指定されたピンクの部屋、そこにたったひとり。手持ち無沙汰になって、さっき入ったばかりのシャワーをもう一度浴びた。バスローブに着替え、照明や音楽をひとしきりいじり、コスプレカタログをぱらぱら捲っているとスマホが鳴動する。ロック画面に表示されているのは、マチアプのアイコン。
〈もう少しで到着します。待たせてしまいすみません。ノックを3回するので、そうしたら扉を開けて下さい〉
期待が最高潮に達した。相手は一体、どんなひとなのだろうか。プロフの写真だとハッキリ顔はわからなかった。かっこよかったらいいな、セックス上手いかな。て言うか今更だけど、知らない人とこんな密室で会うって大丈夫なのかな? いやいや、相手優しそうだし、第一、ちょっとスリルがあるくらいじゃないとエロは楽しめないでしょう? この年齢までセックスお預けにされてんだから、いまくらい好き勝手させてほしいじゃん。火遊びは若者の特権なんだし──。
ヴ、と、再度スマホが鳴動する。バナーで降りてくる通知、蒼鳥からのメッセージが目に飛び込む。
〈もう会ってるの? お願いだからホテルの名前くらい教えてくれない?〉
画面をタッチし通知をオフにすると同時に、部屋の扉が三度ノックされた。画面を引っ繰り返してテーブルの上に置き、ぼくは立ち上がる。
扉を開ける。目出し帽を被った屈強な男が立っている。
テレビの電源をコンセントから引き抜いたかのように、瞬時に辺りが闇に包まれた。
「──え、ここで走馬灯終わり?」
闇の向こうで、なまはげの声が聞こえる。
「……これ以上は、おめには見せられね。見だってなもがもねだべ、自分の死体嬲られでら場面なんて」
「え、え、ぼくって死んだあと、犯されるの?」
「んだ。運がわりがったな、おめはとんでもね変態さ捕まってしまったんだ。首絞められ、息の根止められ、しゃっこぐなる前の弛緩する筋肉がら糞便垂れ流し、その粘性どご使っておめの尻の穴さ男は自分の性器ぶぢ込んだ。全でおめの意識失われで以降さ起ぎだごどだ、覚えでいなぐでも仕方がね。童貞棄でるつもりが、命棄ででしまったんだ、おめさんは」
非情なまでに淡々と、なまはげは事実だけを述べる。まったく想像出来なかった訳ではないが、実際にひとから言われると堪えるものがある。
「え、でもあいつに復讐するんじゃなかったの? そのための走馬灯なんじゃないの? なんでここで終わるんだよ、いいよ、自分が殺されるシーンだって頑張って見届けるから、戻してよ、あの部屋に」
読んで字の如く、魂の叫びである。しかし、本当に自分自身があの現場に再び戻りたいと思っているのかは、わからなかった。点けっ放しにしていただけのテレビを急に消されて、興味のない番組だったとしても憤りが先行してしまうのに似ている。
「もしもいまおめどごあの部屋さ戻しても、仮にその場で自由な肉体与えられだどしても、おめはきっと復讐なんてしねべよ。ただ一直線さ、過去の自分どご殴るべ。愚がな自分どご自分自身で罰するべ。肉欲さ突ぎ動がされ、愛するひと蔑ろにし、その報い受げだ過去の自分どご、それでもまだ足りねど鞭打づべ」
「そうだよ、そうしたいんだぼくは。だからそうさせてくれって言っているんだ」
「……そんたごどしても、意味がねべ。おれはおめの思い残しだんてわがる。おめはこの期さ及んんだども、ただひたすらに、蒼鳥どヘッペがしたがったど、それ何よりも望んでらんだ。果だされね純情だば、自分がら棄ででしまえど、そう願った結果、息のある内にはついに他の男どのヘッペせずに済んだのだんて、本懐遂げだぐらいにすら考えでらだべ」
「ああそうだよ、最期の方は血迷ったかもしれないけれど、結果的にぼくは誰ともセックスせずに死ねたんだから、晴れて蒼鳥への忠誠を誓った形になる。これでハッピーエンドじゃないか」
「んだども! それ蒼鳥望んでだはずがねべ?」
「……」
……そんなこと、わかりきっていることだ。
どう転んだって、これは蒼鳥の願った最期ではない。愚かなぼくが死んで、世の中全体ではもしかしたら益になっているかもだけど、でもきっと、蒼鳥は少なからず悲しんでいるから。彼の悲しむ未来なんて、ぼくだって望んでいない。
じゃあ、この場合、誰もが幸せになれるラストはどういったものになるのだろう。
ここから、ぼくらの思い残しを多少なりとも減らすために、一体どういった筋書きが必要だろうか。
ぼくは考える。利己的で、純情からは程遠いけれど、それでも歪なかたちのこだわりを、死んでもなお貫き通したいから。正しくなくとも保ち続ければ、どんなプライドもいつかは美しさになると信じているから。
手放してこそ得られる純情があると、信じているから。
「……ねえ、なまはげさん。これまで見てきた走馬灯は、全部、現実じゃなくて、ぼくの記憶の再現だって言っていたよね。基本的に干渉は出来ないけど、能動的に変えようという意思があれば、その限りではないって」
「ああ、んだ。夜見る夢が現実ベースさ作られるように、こごも無がら生まれだ世界でねが、それが自分の中にしかねごどに自覚的になれば、なんぼでも好ぎなように書ぎ換えられる。んだどもそれは、おめただひとり満足させるだめだげの、自慰行為さ過ぎねぞ」
「わかっているよ、だからこそじゃないか。気持ちよく死ぬために、最期くらい見たい夢を見させてよ──いいや、一緒に見たいんだよ、きみと」
ぼくは、闇の向こうへ手を伸ばす。
思い残しのない解釈をするために。
ご都合主義な展開でもいいから、ラストシーンを再び巻き戻すために。
ホテルのベッドで、男は若い青年の死体を弄んでいた。男の顔は目出し帽に覆われ隠されている。対して一糸纏わぬ肉体は引き締まり、健康的で屈強だ。
彼には特殊な性癖があった。死体にしか性的興奮を抱けないのだ。所謂、ネクロフィリアというやつである。だからこそ、自分自身を満足させる手法は限られていた。闇の中からおそるおそる機会を伺い、誰にも気付かれないよう周到に準備し、息の根を止めた獲物を貪る。
彼の目の前に置かれた今晩の獲物、その死体の持ち主にはマッチングアプリを介して近付いた。男はその青年に先に部屋で待っていてもらうよう予め伝えてあり、彼が招き入れた不意をついて全力で首を絞めた。青年は呆気なく息絶え、まるで死装束のような白い安手のバスローブを男の手によってはだけられ、ベッドの上に尻をつき出す形で置かれている。一見すると男よりも若く見えるが、実は同じ年齢であり、男はそれを知っていた。
というか、死体の生きていた頃を知り尽くしていた。
男は被っている目出し帽を、徐に脱ぐ。
露わになる顔、見覚えのある顔。
人生をかけて、愛したひとの顔。
ぼくを殺した変態殺人鬼の正体は、蒼鳥だった。
それに気付いた瞬間、死体の中にかろうじて残るぼくの魂、それが、最期の力を振り絞り、肛門に刺さった蒼鳥の男性器に集中する。ぎゅいんぎゅいんと、よろこびを湛えてその侵犯を祝福する。
そうだ、これこそがぼくが喉から手が出るほど欲しがっていた蒼鳥とのセックスだ。そうかそうか、蒼鳥って死体じゃなきゃダメだったんだ。そりゃ、まともなセックスなんて出来る訳がないよね、仕方ない。
ぼくに対して興奮出来なかったんじゃなくて、生きているもの全部が無理だったんだ。
そう考えれば、すべて納得がいく。彼が、「俺じゃお前を満足させることは無理だ」と言った科白の真意。ホラー映画が好きだったこと。マフラーを掴んでぼくの首を締めたがっていた、幼少期のこと。
死体となったぼくの身体では、快楽を感じる器官は機能しない。ただ、想像上の脳が、存在しない意識が、活性化する妄想力のすべてを駆使して蒼鳥の肉体を受け止める。彼がやっと向けてくれた自分への性欲を甘受する。
ふと、ベッドの脇を見遣れば、鬼の面を着け藁に身を包んだなまはげが立っている。
「……おめ、ほんにこれでえがったのが。おめの勝手な解釈で、愛するひと犯罪者さ仕立で上げで、そうまでしてヘッペがしたがったのが」
「うるさい、黙れ思い残し」
ぼくはにやりと嗤う。
「祝えよ、やっと愛する蒼鳥とやれてるんだ。これこそが純情だろう、違うか?」
なまはげは答えない、呆れているのか。
気付けば、なまはげの身にまとっている藁が燃えていた。火に包まれ、ぼくの視界も狭く、閉じてゆく。
ぼくはもうすぐ骨だけになるのだろう。思い残しは、もうない。だから、なまはげも消える。すべてが無になる。
新しい朝が来るのだ。
「……最後にひとづ、きいでえが」
燃え尽きる直前、なまはげが、後ろから犯され続けているぼくに訊ねた。
「おめが、そごまでして……そうやって死の直前の妄想力駆使してまで、蒼鳥どヘッペがしたがった、その原動力は一体なんだったんだ?」
喉がカラカラになっていて、夢の中みたいに声が出にくい。だから、口ではなく思いで、思い残しの権現にぼくの最後の思いを伝える。
なまはげさん。ぼくはね、きっと、子どもが欲しかったんだ。ぼくらの幼少期を見ただろう? あんな風に愛らしく、親からいっぱいの愛情をもらって育つ、子ども。ぼくらふたりの要素が入った、ぼくらだけの子どもがほしかったんだよ。
ぼくは死んだ。
死んだぼくの身体の中で、蒼鳥と思われる男は射精した。果てたのち、男は部屋に死体を残したまま満足そうにそこを去る。
ピンクの部屋にはいつの間にか桜が咲き誇り、尻穴から精液を溢れさせるぼくの死体や、テーブルに置かれたスマホ、なまはげがいた場所の激しい燃え跡まで、すべてを覆い尽くすように桜吹雪が舞いはじめる。美しい光景だった、誰も知らない春が来ていた。
しかしそれを、ぼくだけが知っている。
ぼくの死体は腐りはじめ、ぼくの意識は部屋に残り続けた。蒼鳥の遺した精液は、ぼくのお腹の中でぼくの何かと結合し、新たな命を生み出す。それをぼくが見ている。命は、時間を早送りするかのようにみるみる大きくなり、ぼくのお腹はふくらんでゆく。
鬼太郎だって墓場から生まれたんだ、なまはげの子どもが死体から生まれて、何が悪い。
ぼくの意識がそれを妄想して、何が悪い。
ぼくの腹を割いて、子どもが生まれる。ぼくの大好きな蒼鳥と、蒼鳥が殺したぼくとの、ふたりの子ども。たったひとりで、食べ物もなにもない、ただ朽ちたぼくの死体だけがある部屋で、彼はしたたかに育った。春夏秋冬がめぐり、また春がやってくる。
命が続く。
子どもが十分に育った頃、部屋の扉を三回ノックする者がいた。子どもは扉を、おそるおそる開ける。
そこに立つのは、藁に身を包んだ鬼の面の男。
「悪ぇ子はいねぇがあ」
Fanfare Ballad and Jubilee 腺沼優ニ子 @megroren_miura
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