最終話 告白
森の中心部、やはりそこは広大な広場となっており、中心部には大きな合成獣(キマイラ)が鎮座していた。クマの体に、ヘビの尻尾。特徴的なのは3つの首だろう。オオカミの頭が一つと――
「なんという事だ……魔獣と一体化するとは……それでは我らの理想をどう体現すると言うのだ!」
残りの2つの首はウルズとベルザンディの頭部になっていた。ヒトと獣が合体した歪なケルベロス。そんなフレーズが頭に浮かぶ。
そいつらは俺達と言う餌を見つけて喜んだのか、嫌らしい笑みを浮かべた。どうやらもう、ヒトとしての意思は残っていないらしい。地面を蹴って飛びかかろうと姿勢を低くした。
「シュウジ君っ、驚くのは後です。来ますよ!」
敵――歪なケルベロスは巨体に似合わない俊敏さで空を飛び、その大きな手で俺達を薙ぎ払おうとした。
だが、俺はそれを両手を交差した十字受けで受け止める。チャクラで防御力が増した俺と違い、小鳥遊先輩やスクルドの肉体強度は普通の人と大きく変わらない。俺が受け止めなければ二人とも大きな傷を負っていただろう。
ケルベロスは薙ぎ払いを止められると思わなかったのか、怪訝そうな表情を浮かべたが、直ぐ近くに餌となる俺が居ると分かり、舌なめずりを行った。
それは他のウルズとベルザンディも同じで、もはや彼女たちに理性が残っていないことを示していた。
「悪鬼羅刹に堕ちたる者を斬るは、小鳥遊家の務め――真一文字!」
裂帛の気合と共に放たれた美しい一刀は、嫌らしく笑うオオカミの首を落とした。それによって残りのウルズとベルザンディの頭が獣じみた絶叫を上げて後さずる。
しかし、核を砕けなかったためか、直ぐにオオカミの首は再生され、その三つ首で憎々しげに俺達を睨んだ。
「スクルド、あの二人を助けるのは無理のようだ。悪いが、倒させてもらうぞ」
「……なんと………なんと残酷な定めを、世界は我らに課すのか……」
意気消沈してしまったスクルドは戦力になりそうになかった。しかし、戦いの邪魔しないというだけで有難くはある。
ただ、敵も俺達が容易ならざる敵と認識したようだ。間合いを図るようにゆっくりと横に歩いた後、その三つ首から同時に炎を吐き出した。
これには俺達全員が驚いた。
「小鳥遊先輩っ、スクルドッ、避けるか、俺の後ろに!」
それだけ叫んでチャクラを全開に回す。
それで暴虐の炎を防ぎきれるかは分からなかったが、咄嗟の事でそれしか出来なかった。相手の出方を見極めようとして後手に回ってしまった俺の失策だ。
吐き出された炎は十秒程だっただろうか。
その間、息も出来ず、ただ己の着ている服と産毛が焼け落ちるに任せるしかなかった。
しかし、何とか耐えられたようだ。炎を受けた全身が焼けるように痛いが、この程度であればレベル1の火傷で済んでいるハズだ。
今もチャクラを全開にしているし、その内、完全に回復するだろう。
小鳥遊先輩も、スクルドも俺の後ろに居た所為か、吐き出した炎をやり過ごせたようだった。
「シュウジ君ッ、もうっ、いつもいつも無茶ばかりして!」
「仕方ないじゃないですか。惚れた女に火傷の一つも残ったら、俺は自分を一生許せませんよ!」
「!? シュ、シュウジ君……それって!?」
ああしまった。
余裕が無かったせいで、モノの弾みで告白してしまったじゃないか。あの三つ首野郎、許さんぞ!
しかし、その告白をした所為か、なんだか凄く頭がすっきりした気分だ。身体も凄く軽いし、痛みも感じない。
『コングラチュレーション! お互いの想いを確認したことにより、ヴィシュダ(喉のチャクラ)を開きます。これ以降は小鳥遊キョウコの好感度のみが対象となります』
いつものポップアップに正拳突きをかます。やっぱりこれG(ギャルゲー)機能じゃねぇか!
そんなわちゃわちゃとした遣り取りをしている俺達を他所に、ケルベロスが今一度炎を吐き出した。
一度目は意表を突かれたが、二度目となれば対処は容易い。それに今、俺は何故か絶好調なのだ。
いつもなら10歩程度の距離で消えてしまう『遠当て』であるが、今の俺であれば本物の『百歩神拳』が撃てる!
はたして、俺の放った渾身の百歩神拳は、ケルベロスの吐き出しだ炎を掻き消して直進し、その大きな体を真っ二つに引き裂いた。
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体を二つに切り裂かれ、核を砕かれてもまだケルベロス――ウルズとヴェルザンディの頭には息があった。しかし、もうすぐ息絶えるだろう。黒き森の崩壊が始まっている。
俺と小鳥遊先輩はその場にスクルドを残して去る事にした。
アインヘリヤルの大量発生事件を起こした首魁ではあるが、あの意気消沈した様子では今後何かができるとは思わない。指名手配もされている事だし、後始末は他の人達に任せようと思う。
それよりも、だ――
「シュウジ君、あの時、私(わたくし)に言ってくれましたよね。惚れた女に傷一つでもつけたら自分を許せないって」
「あ……はい、言いましたね」
「アレはアレで情熱的な告白だったのですが、女はきちんと言葉にして欲しいものなのですよ。より具体的に『あの』言葉を言って欲しいのですけれど?」
「えっと、ここでですか? できたら、ちゃんとした場所と、時を選んで告白したいと思っていたんですが……」
「もうっ、そんなのを待っていたら、私はおばあちゃんになってしまいますよ。それでもいいんですか?」
「それは流石に言い過ぎじゃないですかね!? 俺だって決める時は決めます」
「分からないですか? 今がその時ですよ」
どうやら完全に尻に敷かれそうな気がする。これが、この戦いに赴いたときに感じた予感か。確かに全てが変わってしまいそうな感覚だな、これは。
しかし悪い気分じゃない。このヒトとずっと歩んでいけるのなら喜んで尻に敷かれようじゃないか。
「小鳥遊京子さん、俺こと進堂修司は貴女が好きです。付き合ってください」
「はい、良く出来ました! 喜んで恋人にならさせて頂きますわ。修司さん」
俺達の戦いはまだ続く。しかしこれが俺の恋愛事情の一区切りだ。
- 完 -
進堂シュウジの恋愛事情 山本 @yu9pm3
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