第33話 共闘
とりあえず、スクルドを捕虜にしたということを『上』に話すとややこしいことになるので、それは伏せることにした。
どうあっても尋問官を殺して逃亡する未来しか見えないからなぁ。
ただし、ウルズとベルザンディが更なる力を求めて、魔獣の森のヌシの魔獣核を狙っている事については報告することにした。こちらは緊急性が高く、すぐに動かなければ色々と手遅れになる。
スクルドと接触して聞き出したことにし、俺と小鳥遊先輩で魔獣の森の深部へ向かう事を申請。受理された。
なお、この件――ウルズとベルザンディを止めることについてはスクルドも協力してくれるらしく、後程、魔獣の森の中で落ち合う事になっている。
そんなワケで、スクルドの協力も得て、広大な魔獣の森へ突撃する事となった。
そして突撃前の事だ。東堂教官と大島からいずれも激励を貰った。
「必ず帰って来いよ。お前達にはこれからも働いて貰わなければならない事はあるし、教えないといけない事は沢山ある。命あっての物種だ、無理だと判断したらすぐに引き返せ。格好いい死に様なんてないと思え、いいな!」
「ボクだけずっと帰りを待つ役割で、ずるいですよ……でも、センパイ達の事はずっと信じていますから、絶対に帰ってきてくださいね!」
そう、ずっと彼女達には心配を掛けてばかりだ。
けれど何故かその心配をかけるのは最後になるという予感がある。
俺達が倒れるということではなく、今回の件で全てが変わってしまうような、そんな勘としか思えない漠然とした予感。それを強く感じている。
「二人で無事に帰ってきますよ。今までもそうだったように、今回も必ず」
「私(わたくし)たちは比翼の鳥らしいですから、どちらも欠けることなく帰ると誓いますわ」
そう言って必ず帰る事を二人に誓い、俺達は広大な魔獣の森へ突入した。
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規模の違いはあっても襲い掛かって来る魔獣の強さはそう変わらない。というか、学区内で相手をしている魔獣とほぼ同じ強さだ。
問題はその数だろう。
森自体が魔獣となったような密度だ。イノシシが、オオカミが、ヘビ、サル、クマが我先にと己の身を顧みずに襲ってくるのだ。
そんな魔獣たちを俺達は一撃で粉砕していく、正拳突きで、一本拳で、手刀、抜き手、肘――と両腕を駆使して魔獣を打ち砕いていく。
小鳥遊先輩は更にシンプルだ。
どの態勢からも振るう一刀一刀が魔獣を両断する必殺の一撃で、美しささえを感じる。彼女の前では俺は単なるバーサーカーにしか見えないだろう。
「いや、そんな事はないぞ。我が知る限り、ここまで美しい体技を見たことはない。我らがどれだけその体技に肝を冷やした事か、貴様は知らぬだろう。ウルズが貴様を誘ったのも頷けるというものよ」
「来たか、スクルド」
「どれだけ褒めてもシュウジ君はあげませんよ、私(わたくし)の相方なのですから」
「それは残念だ」
そんな軽口を叩きながらも、俺達のすぐ脇を通って火炎弾が魔獣を丸焼きにする。そうかと思えば水塊を作って魔獣に叩きつけて動きを封じる。これまでの戦いから予想はしていたが、どうやら彼女は魔法使いじみた能力を持っているようだった。
敵であるときは脅威でしかないが、味方になった時はこれほど頼もしい事は無い。
遠当てを持つとは云え、どちらかと言えば俺達は前衛向きで、後衛で戦ってくれる人が居なかったものだから、なおさらそう思ってしまう。
アインヘリヤル大量発生事件で多くの犠牲者を出したことから完全に信頼は出来ないが、ともかく、今だけは頼もしい味方である事に変わりは無い。
俺達は広大な魔獣の森の中心部までの約8kmをほぼ全速力で駆け抜けた。
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