魔法少女が死ぬのは解釈違い(でも死にます。)

森林 木木木

1話




桜井暦(享年14)は約50年越しに魔法少女になった。



─────



 トントン……

「暦さんそろそろ起きてご飯食べよう。」

ベッドの中で脈を感じながらモゾモゾしていた私を扉越しに起こしに来たのは、立花礼易(現在59歳)だ。

年の差はかなり離れてしまったが、礼易は私の同級生であり幼馴みだ。

そして、

「分かった。着替えてからそっち行くね。」

「あぁ待ってるよ。」


バタン……




私の好きな人だ。


─────

昨日の私は礼易と下校していた。

それでいつも通りに途中で別れ、そのまま家に向かってた筈なのに家にたどり着いた記憶が一切なく、気が付いたら水槽の中に居た。…………しかもすっぽんぽんでね。

最初、私の意識が戻った事に気づいたのはその場に居た年老いた礼易だった。

なぜ礼易と分かったかのかは私が贈ったペンダントを首から下ろしていたからで「相変わらず礼易は物持ち良いな……」と思った。

礼易は冷たい水槽から私を掬い出し、大きなバスタオルで包んで近くに有った椅子に座らせ温かいミルクをくれた。

その時にゾロゾロと魔法使い達がやって来て、「オマエは一度死んでるから」「蘇生は成功したが、生きられるのは1年間だけ……済まない」「蘇生する際に一部の内臓は魔物のに取り替えて強化しといたからぁ!」「貴方を蘇生するのに膨大な金が掛かったから魔法少女として活動してもらうね」

と立て続けに話してさっさと帰って行った。

いきなり挨拶なしでヅケヅケと色々言われて、

(そのまま土に還って仕舞えば良い。)と思ったよ。


「ごめんね。あの人達はちょっと変わってるんだ…………」

礼易はそう言い私を浴槽まで連れてってくれた。

移動中に礼易からしれっと

「今日中に私が暦さんを養子として迎え入れる為に手続きするからよろしくね。」

と爆弾発言をして洗面所に放り込んだ。


とりあえず一言ぐらい突っ込まさせろ。


私は何とか気持ちを切り替え浴槽に入った。ふと自分の身体を観察したら胸元に赤黒い石が埋め込まれてて真ん中は目の形になっており瞳には数字で「365」と刻まれている。さらに観察すると身体のアチコチに縫合の跡が残っててゾッとした。

……どうしてこんなに禍々しいデザインなんだよ。

魔法少女なんだからもう少し可愛くして取っ付きやすくしてよ。


うわぁ……しかもこの石ドクドク脈打ってる。グロすぎ……



その日は礼易が住んでる家に行ったのだが、車での移動中ウットリ寝てしまい、次に目を覚ました時は知らないベッドの上で既に朝になっていた。




─────

「「いただきます。」」


朝ごはんは黄身の割れた殻入りの目玉焼きに少し薄い気がする野菜スープと焦げたベーコン、そして昨日買ったらしいフワフワで真っ白いパンと小ぶりで真っ赤なリンゴだった。

(私の知っている礼易は湯すら沸かすのも危うかったのに、ダンディ礼易に成長を感じる……)

「……済まない。ずっと独り身だったから料理はしてたんだけど私には才能が無かったみたいで…………」

私よりもずっと小柄だったのに現在は180cmは等に越えているでだろう礼易は心底申し訳無さそうに謝る。

「気にしないで!どれも美味しいから!!」

「でも「礼易が色々考えた上で何品も作ったんでしょう?……それだけで私は嬉しいの。」

「……ありがとう」

礼易は年老いても可愛いままだった。

「……暦さん」

「ん?なぁに?」

「昨日は暦さんが途中で寝てしまって言い損ねたんだけど今日から学校に通って欲しいんだ。」

「えっ?でも私は魔法少女として活動するんだよね?学校に通っても大丈夫なの?」

「あ~……昔の魔法少女は貧乏で学校に通えなかった子が多数だったけど、長い時間を掛けて魔法少女の人気が向上して、今では特待生として通いたい学校を選べるんだよ。」

「どこの学校を選んでも良いの?!」

「学校側が対応して許可をくれるならね。」

「……でも今日から学校に通うって事はもう既に私の通学先は…………」

「決まってるね。それに制服もさっき届いた。」


…………。



─────



私は朝食の後、急いで制服に着替えた。

セーラー服で紺色のスカートに赤いリボンが特徴的で可愛い。

でもサイズがピッタリ過ぎて少し恐怖を感じる……。


ふと机にあるカバンを覗いてみた。

…………今の教科書ってこんなに有るんだ……授業に付いていけるかな……。


パラパラ

……っ!現代の魔法陣ってこんなにスタイリッシュになってるのか!!

めっちゃカッコいい!!

しかもシンプルになってるから魔力量がかなり抑えられてる……私の魔力量でいくつ発動出来るか試してみたいな。……うわっ!!コッチは魔法陣を五つも繋げて居るのに無駄が殆ど無いじゃん……この魔法陣どこで使うんだよ……浴槽!?安すぎ!!昔の魔法陣浴槽なんて魔力消費量も値段も高くて一部の富裕層にしかなかったのに……誰だよこれ考えたバケモノは……。

パラパラ

……魔法生物ってこんなに居たっけ?しかもこんなに生態について分かってるんだ。

ほとんど分からないじゃん……。

パラパラ

今の箒ってこんなにタイプがあるの?オシャレ過ぎる……こんだけ装飾に拘ったら乗るの勿体無いよ!シンプルが一番頑丈で良いよね……相手を殴るのにも躊躇しないだろうから。



……トントン

「暦さんもうそろそろ家を出ないと遅刻しちゃうよ。」

「っ!分かった!もう出ます!!」


─────

礼易の所有している車は黒くて見た目のサイズに比べて中は広くて乗り心地がかなり良い。

(この車には魔法陣いくつ積まれてるんだろ……)


礼易は現在、魔法科学者で私を蘇生するのにかなり苦労と時間を掛けたらしい。

(どうしてそこまでして私を生き返らせたんだろ……)

「あのさ礼易と一緒に下校していた記憶はあるんだけど、自分の死に際の記憶がキレイさっぱり無いんだよね。」

「あ~、死に際の記憶は勝手ながら消したよ。残してても悪い影響しか無いだろうからね」

「プライバシーって知ってる?」

「勘違いしないで欲しいんだけど亡くなった人の記憶は全部見れる訳じゃないんだよ?記憶は不規則に見れて大体の人の記憶は意味が無い事がほとんど。だから暦さんの死に際の記憶を消せたのは奇跡なんだ。」

「じゃあ……ありがとうだね。」

「ふふっ……どういたしまして」

「ねぇねぇ……他にも私の記憶は見れた?」

「…………。」

「何とか言ってよ!?」

学校に着くまでそんな話をしていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る