第40話

……来てしまった。



俺は彼女のマンションを見上げた。



連絡は入れてない。会えたらラッキーくらいの気持ちだ。



エントランス付近の柱にもたれかかり、はーっと息を吐いてみると、白い息が夜の空に消えた。



真冬の空は、真っ黒だ。吐く息がより目立つ。



もう少し待ってみて、来なかったら帰ろ。



俺はそのあとも、もう少しだけ、を繰り返しながら長いこと佇んでしまった。



彼女のことを待っていると、あと少ししたら来るかも、とか変な期待をしてしまう。



連絡もしてないし来るわけないのに。



もう本当に帰ろうかな、と思ったときだった。




「久貝さん!?どうしたんですか!?」




あ、会えた、と俺の脳みそはやけに冷静に反応した。



上着、モッコモコだ。かわいい。すごくあったかそうだ。




「会いたくて」




俺がそう言うと、彼女は少し目を見開いて、




「い、いつからいるんですか?なんでピンポンしないんですか?」




と立て続けに聞いてきた。




「部屋番号わかんないし、会えたらいいなくらいだったから」




「あ、会えなかったらどうしてたんですか」




「会えたからいい」




会えたから、俺が待ってたこととかどうだってよかった。今日来てほんとによかった。




「と、とにかく体を温めないと。私の部屋上がってください」




なんというご褒美展開。寒い中待ったかいがあった。



俺はいるかもわからない神様に心の中で手を合わせておいた。



俺の袖を引っ張る彼女におとなしくついて行った。

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