第27話

俺はそのあとも、駅までの道のりの間、彼女の好きなものと嫌いなものを聞き続けた。



彼女は俯きながらも全部の質問に答えてくれた。



俺は全部の答えを心の中でメモにとった。



彼女と話しながら歩く駅までの道はあっという間ですぐに着いてしまった。



駅、近すぎだろ。



心の中で意味のわからない悪態をつく。



彼女は改札内に入ろうとするが、俺は車で来ているから足を止めた。




「電車乗らないんですか?」




彼女の問いに頷く。




「電車乗らないのに送らせちゃってすみません」




申し訳なさそうにしている。



そんなの、全然どうってことない。このままお家まで送り届けたいくらいだ。




「送るって言ったの俺だから」




そう言った俺に彼女はぺこりと頭を下げると、改札内に入っていった。



そんな彼女を眺める。



電車なんかで帰らせたくない。俺の車で送りたい。



ホームに上がるエスカレーターで彼女が振り返った。



俺と目が合ったあと、慌てて前を向いてしまった。



別に深い意味なんてない。なんとなく振り返っただけだろう。



それでも俺は、たったそれだけのことがすごく嬉しかった。

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