第10話

彼女が勤めているところはうちのワンフロア上の会社だということがわかった。



すごく有益だが、だからといって簡単に見つけられるわけではなかった。



その会社について調べてみると、東京23区だけで事務所が20個くらいあった。



同じビルで働いているという可能性がまだありはするが、このビルでも結構な人数がいる。



それにビルの共用スペースは色んな会社の人がいて、どの人が彼女の勤める会社の社員なのかすらわからない。



…というか、会社について調べたり、ビルの共用スペースを張ったり、やっていることが軽くストーカーだ。キモすぎる。



あと一歩で届きそうなのに届かない感じが、余計に俺をむしゃくしゃさせる。




結局、何の手がかりもないまま無情にも月日は流れた。



気づいたら季節は秋になっており、俺が彼女を見つけるのを諦めざるを得ないほどの時間が経っていた。



あれはきっと、春の幻か何かだ。

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