蛇足

第12話

部屋に明かりはついていない。ただディスプレイの放つ青い光だけが、ゴミの散乱した室内を照らしている。本田剛(モトダツヨシ)はそのディスプレイと向かい合い、せわしなくキーボードを叩きだした。部屋を暗くするのは、パソコンで遊ぶときの彼の習慣だった。根暗。その言葉がぴったりと当てはまる。不潔、醜悪、怠惰、高慢。どれも昔から彼を形容するのに用いられた言葉だ。皮脂でベタベタの髪を真ん中で分け、ギトギトの顔はにきびによって凸凹になっている。いつまでも定職に就かずアルバイトを転々とし、現在勤めているビル警備の仕事も、数回にわたる無断欠勤で半分解雇状態にある。疎まれることは多くあっても、好かれることのほとんど無い彼にとって、自宅でパソコンに没頭するのが唯一の楽しみだった。ここのところは自分のホームページに設置するためのフリーのチャットプログラムをいじることに専念していた。そして昨日完成したところだった。と言っても、そのプログラムはまだサーバーにアップされていない。それはモトダのパソコンの中にあるだけで、外部からアクセスすることはできない。しかしモトダは会話を続ける。ウインドウを二つ開き、中学時代に置き去りにした記憶との会話を。

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