第5話 重犯

「マジかよ!なんでもっと早く教えてくれなかった!?

 妙にレベルアップの速度が速いな、とか思うだろう普通!」


「ななななによなによ!!!

 私のせいっていうワケ!?

 私、レベルの上る速度なんて知らないわよ!

 あんたが調子に乗って魔物を倒しすぎたせいなんだからね!」


また駄々をこねだした・・・。


こうなってはこちらが折れるしかない。


「まあなんだ、調子に乗っていたのは否めない。

 しかし俺、まだ捕まってないぞ?

 もしかして、バレてないんじゃないか?」


そんな話をしていると、郵便受けになにか入る音がした。


俺は恐る恐る郵便物を確認した。


「なになに。

 『近ごろ、魔物の数が極端に減っている。

  都市近郊にて、魔物討伐数超過者がいる模様。

  魔物討伐数超過者を見つけ次第、即刻通報されたし。』」


俺とサラは顔を見合わせた。


「あ、あ、あ、あんたねえ!!!

 私たち、2つの重罪を背負う羽目になったじゃない!

 どうしてくれるのよ!」


くそくそくそくそっ!


俺の異世界人生、こんなはずじゃなかったって言うのに!


俺にはもうサラしかいない。


この子を一生守り抜く、それが俺の生きる道だ。


「サラ!お前は俺が一生守る!安心しろ!」


「な、何かっこつけてんのよ!

 そんなこと言われたって嬉しくなんかないんだからね!!!」


のれんに腕押しとはこのこと。


俺の一世一代の決め台詞は無残に散った・・・。


「まあ、とにかくだ。

 新たな罪を背負った代わりに、サラはきっとすごく強くなっているはず!

 これなら無法地帯に入れるぞ!」


そうだ。


俺たちはリスクを背負い、新たな賭けに挑戦するだけのこと。


人生とはそう言うものじゃあないか!


「ま、まあそうね。

 ここでうじうじしてても捕まるだけ。

 私たちはもう無法者なの。

 無法者は無法者らしく、無法地帯にすむのが筋ってものよ。」


うんうん、ひとまず前向きになってくれてよかった。


「じゃあサラ!明日にもここを発とう。」


「あんたが仕切るんじゃない!

 主人は私よ!」


そんなこんなで、俺とサラは無法地帯・デスバレーに向かうこととなった。


---


俺たちは道中の村・スラデールの近郊で休息をとっていた。


俺たちは犯罪者だ。


当然、村には入らない。


手配書からいつ通報されるかわからないからだ。


すると、村人がスライムと戦っているではないか!


「そりゃっ、うりゃっ!」


「ピキー!!!」


スライムは低級モンスター。


2人の一般的な大人がかかれば難なく倒せるほどの魔物だ。


しかし、下手をすればスライムは顔にまとわりつき、窒息死させてくる。


案の定、村人はスライムを顔にまとわせている。


このままでは村人は死んでしまう。


「やばいぞあのおっさん、どうする、サラ?」


サラは人差し指を唇に当て、考える。


「私たちは犯罪者だ。下手に村人に関わって通報でもされたら困るのは私たち。

 助ける義理もない。」


へえ、意外と冷静で冷徹なんだな、サラって。


でも、よく見るとサラの手が震えている。


そして、サラは叫んだ!


「ハイファイア!」


すると、大きな炎の玉がスライムめがけて飛んでいき、スライムは一瞬にして焼け死んだ。


「サ、サラ・・・。」


俺はサラが優しい人間だったことに安心した。


しかし、これでは村人に俺たちの存在がバレてしまう。


「げほっげほっ!

 た、助かりました、旅の御仁!!」


「いや、当然のことをしただけよ。

 じゃあね、おじさん、気を付けて・・・。」


サラは無愛想にそう言い放つとその場を去ろうとした。


「ちょちょ、ちょっと待って下せえ!

 ぜひ、わしの村でご馳走になって下せえ!」


「急ぎの旅なの!けっこうよ!」


サラはぴしゃりと言った。


「そんなこと言わねえでけろ。

 亡くなった娘にそっくりでな、これもなにかのご縁。

 頼むよ、旅の御仁・・・。」


村人が寂しそうな顔でそう言うと、サラは少し考えた。


「しつこいわね!

 そこまで言うならいいわ!

 でも、ご馳走になったらすぐ行くから!」


「へへ!かたじけねえ!」


こうして、結局俺たちはスラデール村に世話になることになった。


村では客人が珍しいらしく、歓迎ムード。


近郊で獲れたイノシシやシカの肉の鍋、村で採れた新鮮な野菜の漬物などを頂いた。


「おいしいわ!トカゲステーキを食べてたのがバカみたい!」


サラは目を輝かせ、料理を頬張る。


なんて愛らしいんだろう。


可愛いは正義!!!


俺が一生懸命手に入れたトカゲ肉を馬鹿にされたのは解せないが・・・。


すると、先ほど命を助けた村人がやってきた。


「あなた方、服が相当汚れている様子だべ。

 この村で織った服だ、良かったら着替えに使ってくれ。」


村人はそう言うと、質素な服を2着、俺の分とサラの分を用意してくれた。


あいにく、俺はスキル全身斬鉄剣のせいで、神から授かったこのボロい服しか着れない。


だが、村人のご厚意をむげにはできない。


だから一応、受け取った。


そうして、料理をたらふくご馳走になった頃・・・。


急にガタイのいい村人がサラの後ろに立ち、太い縄でサラを縛り上げた!!!


「なにするのよ!離しなさい!」


「すまんね、お前ら指名手配犯だろ?

 この村は貧しい。

 お前らを売って、金に換えるんだべ!」


サラの育ち盛りの胸が縄でぐいと締め付けられる。


と、そんなことを考えている暇はない。


俺はサラにまとわりついた縄を人差し指でスッと切断し、サラと共に一目散に逃げた。


所詮ただの村人、逃げるなど造作もなかった。


しかし、サラは少しショックだった様子。


信じた村人に裏切られたのだから無理もない・・・。


しばらく逃げ、村人が見えなくなったころ。


サラは大事そうに抱えていた、村人のもらった衣服を投げ捨てようとした。


「裏切り者め!こんな服・・・!」


すると、衣服の隙間から手紙が・・・!


「なんだこれ?」


サラはおもむろに手紙を手に取り、読み始めた。


「『旅の御仁へ。

  わしの命を救ってくださり、本当にありがとうございます。

  どこか見覚えのある顔だなと思ったら、手配書にあった方々だとそのうち気付きましただ。

  でも、命の恩人。せめてものお礼に、この服をどうかもらってくだせえ。

  それと実は、村一番の腕利きにあなた方を通報したのはわしなのです。申し訳ない。

  でなきゃ、犯罪者を招き入れた張本人として、わしが村八分にされてしまうのでな。

  どうか、ご理解いただきたい。不快な思いをさせて本当に申し訳なかっただ。

  わしだけは、あなた方が本当は良いお方だと分かっておりますだ。

  どうか、お身体に気を付けて・・・。』」


サラは手紙を読み終わると、呆然としていた。


そして、口を開いた。


「あの村人、悪気はなかったようだな。

 このもらった服、大切にしような!」


まあ、俺たちが悪い人間じゃないってことを一人でも理解してくれてるならそれでいいか。


しかし、俺の分の服、どうしよう・・・。



<作者あとがき>


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