3 異世界人
年齢は自分と同じくらいの十代後半。体調が悪いのかと思うくらいやけに白い肌、肩くらいまで伸ばされたの長さの赤みがかった茶色の髪、ぽやぽやーっとした、力の抜けた顔。
特に変わったところは無いが、白っぽいトレーナーに短いジーパン、底が厚いスニーカーに、斜め掛けの何が入るんだというくらい小さなバッグという格好は、場にふさわしくなくて浮きまくっていた。同年代の女の子たちでもこんな格好をしている子はいない。
急にあんなところに現れたことと言い、イリが只者じゃないのは確かだ。
何があったのかと
「えっと、その、私も、何が起きたか、よく分からなくて……」
「ゆっくりで大丈夫だ。話して欲しい」
泉が促すと、イリはぽつぽつと話した。
友達と廃都市に来たら、突然目の前が真っ白になり、ここに飛ばされてきたところを、尊人に助けられた。と。
どこか別の場所から飛ばされてきたのか?
「ちなみに、その廃都市というのはどこだい?」
泉が聞く。
イリは首を傾げた。
「ここです、が……?」
「それは、確かかい?」
イリはおずおずと頷いた。
尊人は泉と顔を見合わせた。
今尊人たちがいるのは、N市。住んでいる人がおらず荒れ果てているので廃都市と言われれば廃都市だが、N市からN市に飛ぶというのは奇妙だ。いや、もしかして。
「なぁ、お前、今がいつか言ってみろ」
イリは一瞬驚いた顔をしたが、答えた。
「二×××年、ウノツキ×日」
「西歴で言うと?」
「セイレキ……?」
彼女は困惑した表情になった。
「今は『西暦』三六四二年、四月△日だ」
イリの困惑の色が濃くなる。それで尊人は確信した。
「班長、こいつどっか別の時間、もしくは別の世界から飛んできてますね」
「あぁ、だろうな」
「えっ……」
「持ち物、見せてみろ。見せたくないものがあれば出さなくていい」
イリが持っているバッグを指差すと、彼女は素直に持ち物を出した。
入っていたのは小さな水色の財布と、ピンク色の花柄のハンカチと、手のひらサイズのタブレットと、小さなモバイルバッテリーと充電用のケーブル。持ち物はそれで全部らしい。
「あれだ、金持ってるか」
イリは財布から紙幣と硬貨を出したが、描かれている絵も文字もこの世界のものではなかった。誰だ。そのおっさん。
「班長、この文字昔の文字だったりします?」
泉は紙幣を覗き込んだ。
「いや、俺の記憶じゃこんな文字は無い」
「確定っすね」
「だな」
イリの目がぐるぐる泳いだ。
「私、本当に、違う世界に来ちゃったんですか……?」
「そうだ」
イリはぎゅっと唇を噛むと、頭を抱えて項垂れた。
「大丈夫か」
「お二人は、あんまり驚かないんですね」
「あんたがいた世界じゃ、別世界から人間が来ることはないのか?」
「ないです。フィクションの世界だけです」
「あぁそう」
イリが顔を上げる。
「この世界じゃ、異世界トリップとか普通なんですか」
「普通でもねぇが、そういうのができるヤツらがいる。さっきあんたを食おうとしてた生き物がそうだ。さっきのヤツは、あんたがいた世界にいたか?」
イリは首をふるふると横に振った。
「あれは、何ですか?」
「あれは『神』だ」
「神……?」
「つっても、宗教の神とは違う。大昔の奴らがそう名付けただけで、実際は見ての通りのバケモンだ。んで、あいつらは火吐いたり、獲物を凍らせたりって、色んな能力を持つ。その能力の中に、別の時間や世界に飛ぶっていうのがあって、その能力に巻き込まれてタイムスリップしたり、違う世界から来たりする奴らがそこそこ報告されてる。あんたもそうだろうな」
イリは言葉にせずとも信じられないと言った顔をしていた。
「そんなマンガみたいなこと……」
「マンガ?」
「あ、いや……気にしないでください。それで、私は、元の世界に戻れるんですか?」
「んー……難しいが、不可能じゃない」
「本当ですか!」
イリの表情が一瞬で明るくなるが、
「あぁ。別世界へ飛ぶ能力を持った神を見つければいい」
そう言うと、彼女の表情はしゅーっと萎んでいった。
「……でも、それが難しいんですよね」
「そう。分かってるじゃん。そういう能力を持つヤツはレアだからな。ま、見つかるかはあんたの運次第だ」
「尊人、もっと掛ける言葉があるだろう」
呆れつつ、泉はイリの前にしゃがんだ。
「君をなるべく早く元の世界へ返せるよう、全力を尽くす。それまではここにいるといい」
「ありがとうございます」
イリはぺこりと頭を下げた。
「そんな余裕無いでしょ」
「尊人」
泉に窘められたが、尊人は肩をすくめただけだった。
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