第5話 世界救済の魔王

 ランダーは、素早くも攻撃力が高い。

 魔剣コールで防ぐのがやっとだ。


 けれど、カレンがスキルを発動してくれた。



「エルゴ様、彼は強い。ですので、わたくしの支援スキルで補助します!」



 祈るようにして、無詠唱でそれが俺に贈られてきた。


 こ、これは……黒い光。

 けれど嫌な感じはしない。月夜のような温かみはあった。

 一瞬、闇魔法かと思ったが――そうではない。

 これは、そういうものらしい。


 支援を受けると、明らかに俺のステータスは上昇していた。……筋力や敏捷性、魔力すらもアップしていたのだ。


 こりゃ、凄い!



「おのれ、カレン。だが、この程度で変わるとは思えん」



 斧を激しくぶつけてくれるランダー。しかし、俺は明らかに身軽になっていた。

 さっきまで腕がもげそうだったが、今はまるで違う。



「おらッ!!」


「――ぐ!? ありえん!」



 片方の斧を弾くことに成功。

 俺はそのまま魔剣コールで“突き”を入れた。だが、ランダーはギリギリで避けた。頬を掠めて微かな傷を負わせた。



「さすがエルゴ様」

「ああ、カレンのおかげだ。かなり動きやすくなった」



 身軽に後退していくランダーは、頬から血を滴らせながらも俺を睨んだ。



「エルゴ。お前のような無名がなぜ……カレンを、魔王の力を手にしている……!」

「さあな。気づいたら、そこにあった」


「ふざけるな!」


「そう言われてもな」


「我々は、不当な追放を受けたり……地獄のような長い旅路を経て、ようやく魔王ガルガンチュアを封印した。そして、世界を手にしようとしている! 理想の世界にするためだ。なぜそれを邪魔する!」



 なるほど、一応真っ当な旅はしていたらしいな。その昔は、魔王の方が悪かった時代もあったようだ。けど、そうではなくなった。

 今や、勇者一行の方が『悪』となり、世界から危険視されているようだった。


 俺が魔王として名を馳せるようになってから、明らかに世間は魔王を持ち上げるようになっていた。


 勇者ではなく、魔王が支持されていたんだ。



「ランダー、あなた達は間違っています」

「カレン! お前こそ間違っている。一度はニコライの考えに賛同したはずだ! この腐りきった世界を変えるとな!!」


「まさか全てを破壊するなんて思っていなかったのです。そんなことをしても意味はありません」



 なるほど、魔王がいなくなって勇者ニコライはそういう考えに至ったわけか。だから、街中の建物を破壊していたのか。情け容赦なくな。


 だとしたら、それこそ魔王だ。


 ――いや、コイツ等は『魔人』だ。


 なら、俺が止めねばならない。



「お前を止める、ランダー!」

「ふん、貴様ごとき人間に我々は止められんさ!」



 再び魔剣コールと斧が激突。


 何度も何度も刃を交え――けれど、ランダーは明らかに疲弊していた。俺のスピードについていけてなかった。いや、俺が早すぎるのか?


 そうだ、こっちにはカレンがいる。


 きっと支援スキルを掛け続けてくれているのだろう。


 だから勝てる。


 俺は、隙を見て激しい攻撃を繰り返した。



「うりゃああああああ!」

「ぐっ、こんなバカなことが!!」



 いつの間にかレンダーの左腕が、右手すらも吹っ飛んでいた。



「これでお前は武器を持てんぞ」

「…………これは驚いた。ニコライが勝てなかったワケだ」



 背を向けるランダーは、落ちている斧の方へ向かった。

 今さら拾えないだろう。その腕では。



「なにをする気だ」


「エルゴ。お前に世界を救う資格などありはしない」



 ギョブッと聞いたことのないような音がすると、ランダーの両腕が生えていた。……さ、再生した!?


 斧を拾い上げ、ランダーは一瞥いちべつだけして消え去った。



「な、なんなんだアイツ」

「彼は並みはずれた再生能力を持つんです」


「両腕が吹っ飛んだのに……」


「あれでも最強の戦士すからね」



 どうやら、俺が思っている以上に勇者パーティはヤバい連中らしい。



 ブランド領から帰還して、再びジマー領へ。



 親父がブランド領の復興を誓い、早急に対応してくれると言ってくれた。

 そして、俺の活躍は更に轟き、名は世界へ。


 魔王と勇者の立場が完全に逆転してしまった。


 そのせいか、勇者ニコライの奇襲頻度は激減。最近は、月一回程度となっていた。


 俺はその度に追い払い、世間から絶賛され続けていた。



 半年後。

 カレンとは、ついに恋仲になり婚約もした。



「カレン、これからも頼む」

「ええ、エルゴ様。わたくしは、あなたを支え続けます」



 ――さて、今日も『世界救済の魔王』として活動を続けますか!



- 完 -



◆ありがとうございました!


 短編なので以上となります。

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世界救済の魔王転生 桜井正宗 @hana6hana

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