本作の主人公、ビル・リッジスはとことん裏切られ続ける。弱小貴族としてつつましく暮らしたかっただけなのに、戦争で軍功を挙げたために王からは不品行で知られる王女を押しつけられ、結婚から逃れるため領地に逃げれば、将来を誓った幼馴染が寝取られているのを目撃する始末。
これで終わればただの悲劇なのだが、リッジスはその卓越した戦の腕によって周囲に裏切られた後も、すぐに前以上の出世街道に乗ってしまう……そして、また裏切られるのだ! 過去の裏切りを乗り越えようやく平穏な日常を手にしたと思ったら、思わぬ角度からまた裏切られるこの落差がたまらない。
裏切りというインパクトに頼るばかりではなく、血気盛んだった若者が夫となり、父となり、そして老人となって亡くなるまでの、一人の男の生涯を心情の変化を交えながら最期まで描ききっているのも素晴らしい。経歴だけ見れば充分成功者と言えるのに、本人にはつらいことの連続となっている点に強いドラマ性が感じられ、ある種の大河ドラマを見ているような気分にもなれる一作だ。
(「裏切られた人々」4選/文=柿崎憲)