第4話
【社長:稲葉 夏壱(Inaba Kai)】
そう。この文字を見て目を見開いた。
うん。誰?ここに書かれている人は誰?この話の流れで誰かも分からない人の社長就任の紙を見せられて目を見開いた。やばい。カイが本格的にやばい。絶対にこの話が終わったら良い病院を探そうと決意しながらも、この話題が気になったのも事実で感じた疑問を素直に口にした。
「……誰?」
「はあ?」
「この、稲葉 夏壱って誰?」
「……名字はわからなくてもしょうがねえけど、せめて名前見てピンと来ねえ?」
名前……。再び『夏壱』という文字に視線を向ける。でもこの漢字を名前として持っている人をあたしは知らない。読み方なら『カイ』で隣にいるけど。
「やっぱわかんないよ。この漢字の名前の人と会った覚えもないし。漢字とっぱらって読み方だけなら知ってるけど」
「漢字とっぱらって言ったら誰?」
「カイだよ?」
「それ、俺だから」
「なにが?」
「俺、明日から社長だから」
その言葉と共にシーンと静まる室内。あたしは理解するためにカイの言葉を頭のなかで巡らせて、カイはあたしの返事を待っている。そのための静けさ。
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