一滴目
出会いの血
第1話
プルルルル………、
もう随分と昔から聞きなれた高い音に顔を上げ、その音を鳴らしているモノを耳に当てる。そこから聞こえてきたのは、同様にもう随分と昔から聞きなれた声だった。
『高校生活はどう?』
「楽しいよ」
『そう?なら良かったわ。一人暮らしは?』
「そっちも順調だから心配しないでよお母さん」
『くるちゃんが上手くやれてるみたいで安心したわ。それじゃあ、またかけるわね』
「うん。またね」
お母さんからかかってきた着信が、あたしの言葉を最後にプツンと切れた。頻繁に電話をかけてきてくれるお母さんは、最近までひとりであたしを育ててくれていた。
お父さんとはあたしが生まれてすぐに離婚したとかで、女手一つで。
無償の愛を絶え間なく注いでくれて、あたしのことに一喜一憂しては抱き締めてくれるお母さんのおかげで、特段寂しいと感じたことはなかった。
そして、そんなお母さんが最近再婚した。
相手は3歳年下のサラリーマンである修司(シュウジ)さん。
修司さんと再婚する前の名字は須藤(ストウ)だったんだけど、なんと修司さんの名字も須藤で、あたしとお母さんは名字が変わることはなかった。
それを運命だと喜んでいたお母さんにあたしも嬉しかった。
「もうくるちゃんみたいに若くないのにおかしいよね」
好きな人がいると、そう恥ずかしそうに苦笑したお母さんをおかしいなんて微塵も思わなかったあたしは友達と恋ばなとやらに花を咲かせているような気分で胸が踊ったのを思い出す。
好きな人ができた、その気持ちは何歳であろうと、どんな人であろうと綺麗で素敵だと思う。そうやって思えるのはやっぱりお母さんがあたしにたくさんの愛情やら優しさを注いでくれたからなんだろうなあ、なんてしみじみと思う。
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