一緒にいたかった……

緋雪

友達以上、恋人未満

 最後にあなたと会ったとき、あなたは少し思い切ったようなで、ふわっと私の肩を抱き寄せようとした。


「えっ?」


 私は、慌てて、あなたの腕から逃げた。



 あなたの想いは知っていた。

 私も同じ想いだったから。



「どうしたの?」

「なんでもない」


 もう、どちらがどちらのセリフだったかも覚えてない。

 可笑しいね。時間って優しいね。




 中学時代からの友達で、部活とか趣味とか気が合って、気がつけば、いつも傍にいた。

 だけど、あなたは、単なる友達で。

 意識するようになったのは、一体いつから?


 友達以上、恋人未満。


 遠くの大学に行ってしまって、年に一度しか帰省しなくなったあなた。でも、帰ってくると

「帰ったぞ。どっかいく?」

 ってぶっきらぼうに電話してきてた、あなた。

「ん〜、映画でもいく?」

 暇だからつきあってあげてもいいよ。みたいな感じに答えて、着ていく服を何枚も何枚も選んでる私。


 それは「デート」ではなくて、ふらっと一緒に遊びに行きました、っていうだけ。

 次にいつ会う? はなくて、「じゃあな」「またね」で、送られるわけでもなく家に帰る。


 そんな、関係。



 最後に会った、あの時、あなたが、私の肩を抱き寄せようなんて、「ズル」するから、私も帰りに「ズル」をした。

 ふらっと目眩がしたように見せかけて、あなたの腕にしがみついた。ほんの15秒。


 それから、一緒に電車に揺られて帰り、いつもの角で、「じゃあな」「またね」と手を振った。



 気持ちは知っていた。

 互いに知っていた。



 私が、結婚すると告げた時、

「おめでとう……ごめん、ちょっとショック」

 と言われた。

「そんな気もなかったくせに」

 私は笑う。

「幸せ?」

 あなたは私に聞いてくる。

「おかげさまで」

「よかったよ、お前が幸せで」

 そんなこと言われて涙がこぼれた。

 電話でよかった。

 見られなくて、よかった。



 あなたが結婚すると聞いたのは4年後。

 何度も電話で喋っていたのに、そんな人がいるなんて知らなかった。

 あ……。

 今、私、ショックをうけてる。

 あなたもこんな感じだった?

「おめでとう……ちょっとショックだったけど」

「旦那がいるだろ?」

「たしかに」

 笑う。一緒に。



「もう、電話するのやめるね」

 私は言う。

「お互い。そうしよう」

 あなたも言う。



 友達以上恋人未満。


 始まりもなければ終わりもない。


 だから、ずっと、この時まで。

 あなたと私は一緒にいられた。

 


 私たちの恋はあまりに臆病で、

 終わりたくなくて、

 始めることもなかったのだ。



「好き、だったよ」

「俺も。好き、だった」


 初めて告白した日。

 二人の恋が終わりを告げた。


〈了〉

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一緒にいたかった…… 緋雪 @hiyuki0714

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