第39話 一触即発な状況

 重厚感のある空気に張り詰められていた。

 目の前では天国界のトップの天照大御神と地獄の支配者の閻魔大王がバチバチと電気が走るくらいの睨み合いが始まっていた。


紫苑と颯真は端の方に追いやられて、近づくことができなかった。


「えー、おいら。どうすればいいのさ。なぁ、なぁ。颯真、とめないのかよ?」

「とめる? あの2人の喧嘩を? 無理なこというなよ。どうやっても、俺には無理だ。間に入ったら、あのバチバチとした電気で感電死しちまうよ!」

「そんなぁ。このままじゃ、ここのエリアは……」

「エリア? 何の話だ」


 心配そうに睨み合いが続く2人をパタパタと旋回しながら、見つめる紫苑に、エリアという言葉がひっかかる。


「逃げた方がいい!!」

「え?!」


 颯真の声が先か衝撃の方が先か、その場に立っていられないほどの突風が突然、体に強く当たった。


 天照大御神と閻魔大王が睨み合い続け、念が竜巻の沸き起こるくらいの強さにまで達していた。右側には閻魔大王の赤い煙のような念で、左側には青白く光る天照大御神の念が大きく膨れ上がっていた。


「危ない、危ない。くるくる飛んでてよかったわ……おいら。こういうときにコウモリで良かったって思うんだよね。あ、あれ? 颯真、大丈夫か?」


 朱色の大きく太い柱に背中があたり、崩れ落ちていた。起き上がるのもままならない様子だった。


「くっ……強すぎるだろ」


 パタパタと優雅に飛ぶ紫苑をきつく睨む颯真がいた。


「おいら、何も悪くないもんねぇ。風を起こしたのはあの2人だもん」

「いや、お前、何か起こるって分かっていただろ?」

「そうだけどぉ……颯真。ぼんやりしてて大丈夫?」


 そんな話をしている間にも閻魔大王は手を天高く伸ばして、振り上げた。真上で邪悪な雲が次から次へと集まり出していく。あたり一面灰色の雲で覆われると夜のように真っ暗になった。


「妾に夜は似合わないとでも?」


 椿の花が描かれた白い着物を靡かせた天照大御神は、両手を広げて振り上げる。天高く光り輝く太陽が雲を晴らしていく。ギラギラと真夏のように暑い。


 さっきまで睨み合っていた2人は空間をいかに自分のものにできるのかのマウント争いとなった。


「ここも妾のものになるんじゃ!! 邪魔するんじゃない」

「天界に住む者がここに降りてくるんじゃない。マグマの中にでも入って燃えてしまえ!!」


 右から左から念を送り合い、一向に決着がつかない戦いが繰り広げられていた。


「さっきから聞いてるんだけど、何だか次元の低い争いじゃないのか?」

「……おいらもそう思う。天国も地獄もどっちもあって平和が成り立つのに2人が知らないのかな」

「え?! 紫苑、小さな脳みそでもインテリなこというんだな」

「一言余計だよ! 僕だってこう見えてただのコウモリじゃないんだぞ」

「わかった。わかった! 落ち着けって、吸血鬼って言いたいんだろ?」

「ち、違うわい!」

「何度も言わなくても大丈夫だから」

「ち、違うのに!!」


 バサバサと颯真の頭の上を旋回する。時々、閻魔大王の炎の攻撃があたりそうになるが、ひょいっと避けて対応した。天照大御神は手のひらから光の念を送るが、力を間違えると朱色の柱に火がつく大惨事になっていた。ライトワーカーも力を間違えるとこんなふうになるのかと颯真は肩をすくめて呆れていた。


「……いつまで続くんだか……。ここの時間感覚わからないけど、俺、そろそろ人間界戻りたいなぁ」


 終わらない戦いを見学しながら、あぐらをかいて頬杖をつく。紫苑は颯真の左肩にとまった。


「え、戻るの?」

「ああ。戻りたいに決まってるよ」

「おじいちゃんになるよ?」

「はぁ?!」

「だって、ここの時間って人間界よりも早く進むから。そうだなぁ、20年の違いはあるんじゃないかな。ギリギリおじさんかも?」

「ちょっと待てよ。まさか、浦島太郎ってこと?」

「え? 何それ。面白いね。太郎って何? おいら、わからないけど」


 颯真の顔は青白くなっていく。今までのことって一体何をしていたんだろうと後悔した。ダークワーカーの仕事を任されたばかりにこんなことになるとは。


「もう、帰らなくてもいいじゃん。マグマの温泉にも入れるんだし」

「……だって、母さん。1人残して来ちゃったしさ」

「そんなに気になる?」

「うん、まぁ。家族だからな」

「ふーん。そっか」

 

 紫苑は颯真の要望に応えようと、肩から飛び立ち、地獄の門の奥の方へ誘導した。未だに天照大御神と閻魔大王の戦いは終わっていなかった。周りにいた小鬼たちがあわてふためき、燃え広がる柱の消化活動に忙しくしていた。



 

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ダークワーカー ー影の陰謀ー 餅月 響子 @mochippachi

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