エピローグ


 あるよく晴れた日の朝。

ピカピカと光る日差しにそよそよと優しく風がカーテンを揺らす。


わたしは病室の椅子に腰掛け、すやすやと眠りにつく娘をじっと見下ろしていた。


 「ーーー父さん?ふふ、なにしてるの」


ふいに美しい女の声が耳元でした。なんだろう。幻だろうか。それともなんだろうか。ーいや、違う。そう思えたのは数秒後だった。

わたしの愛する少女がー娘がにっこりとわたしに向かい微笑んでいたのだ。

わたしは思わず嬉しさで娘の手を掴んで言った。


 「お、起きたのか!!莉々華!!」


 「んん…わたし、寝てた?ずっと?」


 「ああ。ずーっと寝てたんだよ!!

 父さん、ずっと怖かった…怖かった…どうなるかって…莉々華が…」


今にも泣きそうなわたしに娘は大袈裟なあ、とからかい口調で返す。

自分で泣いていることには内心驚いていた。

それでも学校から莉々華が来ていないという連絡を受けた際、しばらく呼吸もできなくなるのではないかと思ったぐらいだ。その後、正常に物事を判断できたのは自分の妻のお陰だった。

わたしがボロボロと涙を必死に流していると、莉々華が神妙な口ぶりで呟いた。


 「ー…父さん。わたし、なんかすっごく長い夢?かな。

 見たんだよね。」


 「夢?」


娘は思いだすように病室の寝台から起き上がった。

 

「うん。父さんがいたの。」


 「え、俺?」


 「そう。小さい父さんがいた。わたしと同じ年齢だった。」


 「へえ。それは面白いなあ。」


 「父さん、いろいろ教えてくれたんだよ。

 もう、実りのあることがばかりでわたし困っちゃった。」


 「実りのあること?」


 「うん!わたしがもう1回自分を捉え直そうって思ったきっかけに

 なったこと!わたしずっと勉強がなぜ今できてるのかってわかって

 いなかったの。父さんに母さんがいてずっと働いてくれてるから

 勉強できる。それになんかどうしても勉強することに受け身状態だったけど

 やるか、やらないか、じゃなくてそもそもこの環境でこういう選択が

 できてるのが凄いんだよ。」


 「莉々華…?急にどうしたんだ?俺になんか言われたのか?」


不思議と考えが変わってしまった娘にわたしは問いかける。


 「えへ?そうかなー?そうだな。確かに父さんからいっろいろ、

 教えてくれたから、参考になることばっかりだったし。」


 「ー…それは、たとえーー」


 「莉々華ーーーーーーーー!!!!!」


甲高い声が病室を響き渡った。突如バンっと大きな音をたてて病室の扉が開いた。

妻だ。急いで来たのか妻の髪はぐちゃぐちゃだ。それに目も涙でぐちゃぐちゃだった。しかし、あまりつかれた様子を見せない妻は吐き出すかのように

声を張り上げた。

 

 「もうーーーーー!!!しんっぱいしてたんだから!!!!」


 「ちょ、おい、俺が話してたーーー」


 「そんなの!!いいでしょ!!!が!!!!!」


妻にペシっとひっぱたかれた俺は思わずいててて、とうめき声をあげる。


 「痛いよ…」


しかし、俺の声にも構わず妻は莉々華をぐっと抱きしめた。


 「大丈夫?莉々華。元気?私、ずーーーっと怖かった…」


 「だ、だいじょうぶ…母さん、ちょ、苦しい…」


気づいた妻はあー!ごめん!っとさっと莉々華から離れる。が、その目はずっと

懸命に莉々華をうつしだしていた。はあっと息を吐いた娘はうんうんっと

微笑んで言った。


 「ぜんぜん!すっごく長い夢を見ていたから」


 「もう、良かったわ。あなたが生きていて。わたし、もし

 もう、莉々華がいなかったらもう、あと何日で死ぬかわからなかったわ。」


 「お、おい。そしたら俺は、俺も一緒に死ぬぞ。そしたら天国でみんなで

 会える。」


思わずわたしが突っ込むと妻はもう、あなたったら、冗談でしょうっと怒ったように言った。娘もちょっとー!!とわたしと妻に不満そうな顔をした。

なんだか、微笑ましいなとわたしは思った。


ーー…としばらく妻も落ち着いたのか病室の椅子に座ると手に持っていた荷物を

おろして、呟いた。


 「莉々華。ごめんね。きっと先日のことを気にしていたんだろうなって

 思ったのよ。」


 「先日…ああ、そのこと?それは母さん正しいことを言っていただけじゃない。」


 「いや、違うのよ。わたしったらもっと良い言い方があったんじゃないかなって。」 


「わかってるよ。わたしを思って母さんは言ってくれた。でもわたしは

 気づけなかった。わからなかったんだ。その時は、未熟だったから。」


未熟。確かに娘は未熟だったのかもしれない。だが、その顔に声、そして

雰囲気はもう事故の前の口論していたあの莉々華ではないとわたしは思った。

妻は思わずふっと笑みを浮かべ、大人になったわねえ、と莉々華をつついた。

もう、母さん!と莉々華は照れくさそうに顔を赤らめた。



                ✧



しばらくして娘の最終診察が終わった。そして退院許可がおりたのち、

わたしたちは莉々華の病室の掃除や片付けをしていた。

そんなとき、ふいに莉々華が言った。


 「母さん。父さん。ありがとう。あと、心配かけてごめんなさい。」


 「そんなこと言うんじゃない。」


俺は思わず責めた口調になっていた。


 「すまない。だが、事故は偶然だ。莉々華のせいじゃない。」


 「そうよ。父さんの言う通り。莉々華のせいじゃないし、

 学校側には事故の話は通してあるからしばらくはお家でお休み

 してなさい。」


 「ありがとう、母さん」



                 ✧                   




 「ーー…あ、えっとなんかあなた、話してたわよね。」


突如妻が尋ねてきた。


 「ん?なんか、話していたか?」


 「ええ。莉々華と何を話してたの?」


莉々華を見ると彼女も手を止めてわたしを見ていた。


が、わたしは、はっと笑って答えた。




 「さあな。莉々華のながーい夢の話さ」



 











★ここまで読んでくれた方ありがとうございます!

 1回、完結にしていまいすみません!!

 もしよければどこがよかったか、また誤字ってる部分も指摘ほしいです!

 








 






 

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涙と時間のクロスロード 早乙女萌奈美 @maomako

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