章1 始まりへ2

目を覚ますと見慣れた天井だ。

起き上がり外を見ると中庭が見えて外だけが明るい。

場所的に保健室では無さそう。


ベッドにもなるソファ、ちょっと場違いな機器、机には紙が散乱している。

見覚えのある筆跡。ここは…


「あ!起きた!」

「ひゃっ!」


突然の大きな声に変な叫びを上げてしまった。

恥ずかしい…


「昨晩男どもがさ、突然倒れたって煩くって言ってきてね。

たまたま近くに居たからって、急遽見てほしいって言われたけど、ただの貧血っぽかったし大事にすることないのにね」

桃色の髪の毛にピンっと立ったアホ毛をピコピコさせながら得意げな顔をしながら沢山喋る。

プラパさんにそっくりだけど、彼女はもっとクールな感じだったはず…



「まっ、この天才美少女プラパちゃんにかかればあっという間に元気になるよね!」

間違いなく彼女しか言わないセリフを満面のドヤ顔で小さな胸を張って高らかに言う。


あれ?彼女ってこんな人だっけ?

いやでも…


頭を抱えて目を閉じる…


「頭痛い?」

人懐っこそうに顔を覗き込む。

目眩はしないけど別件で頭が痛いのは間違いない。


「まぁ治癒魔法は委員長ほど得意じゃないからね〜、悔しいけど」

治癒魔法?


私は体質のせいで簡単な浮遊魔法さえ使えないのはみんな知っているはず。

この学校に入れたのも学力と孤児院のサポートがあったからなだけで…


「どうする?痛いなら保健室行ってきたら?先生にも適当に言って休むこと伝えるし」

魔法がろくに使えない、勉強だけの私が休むわけにもいかない…

時間帯的にもうそろそろ朝礼のチャイムがなる頃。


色々考えたいけれどとりあえずは今やるべきことをしなければ


「行きます」

でも…


「着替えてから行きますので、遅刻することをお願いします…」

「それなら間に合うと思うよ」

どういうことなのか?

指を指した方向にいつの間にか着替えが置いてある。


「勝手に部屋に入ったのは許してね!」

そう親指を立てると逃げるように部屋を出ていった。

丁寧に下着類も置いてある…

ガギは閉めたはずなのに?

恐怖とちょっとした恥ずかしさが込み上げてくるが刻々と朝礼の時間が迫る。


もう何が起きているの!



ため息を付きながら着替え、軽く身だしなみを整える。

こんな服持って居ただろうか?

膝下のスカートを好んで使っていたけれどこれはさらに長いロングスカートだし、全体的に暗い。


タンスの奥に眠っていたのかな


とりあえず教室行かなきゃ。





いつも通りの、少し違和感のあるクラスメイトとの朝礼が始まる。


それでも突然昨晩の事がよぎる。

そういえばなんであの時逃げなきゃならなかったのか

なぜ複数人に追いかけられたのか。


プラパさんに後で聞かなきゃ



終了のチャイムが鳴り挨拶を済ます。先生に頼まれ事をされて、次はへ植物学の実習で移動教室…

皆はとっくに先に行ってしまったし、ここから北の校庭口から出て体育館の隣にある温室に向かうのはかなりの距離。

先ほどの頼まれ事のために一階の職員室に寄ってプリントを置いてから南口から体育館横を通って行くことにした。


外は今朝より重い雲がかかってる。雨が降りそうだ



体育館裏を通ろうとすると男子3名ほどがたむろしている。

なんだろ?と見てると向こうもこちらに気がついてしまった。


「おう、誰かと思えばガリ勉じゃねぇか」

わぁ、関わっちゃいけない人達だ…


ここをわざわざ通った理由なんて無いけれど、だからこそ今すごく後悔してる。


「な、なにか御用でしょうか…」

「あん時はよくも指導部にチクったな!」

「なななな何のことですかっ」

凄い大声で怒鳴りつけられる。

どうやら彼らは隣の棟の実戦科の生徒で、悪さをしてたことを誰かがチクって怒ってると…

その誰かが私にそっくりなのか…


人違いですと、怖いながらも主張するも聞く耳を持ってくれない。

それどころか思いっきり肩を押され倒れてしまう。


「てめぇがどんなに魔法ができようと唱える前に殴りゃ雑魚なんだよ!」

あ、殴られる


反射的に目を瞑り手で防ごうとする。

が、その前に悲鳴が聞こえる。


「何なんだ!オメェ!」

薄く目を開けると、背中まである青みがかった髪を後ろに一本に結んでる人が立ち塞がっていた。


3人でその人に襲いかかるが容易く制圧する。

襲ってきた人達は分かりやすい負けセリフを吐き捨てるように叫んで逃げていってしまった。


「あ、有り難うございま…」

「お前は誰だ」

私の言葉を遮るようにその人が質問する


「ぇ…私は、グラズと…」

「誰だお前は。お前はグラズじゃねぇだろ」

どういう事か理解できず固まってしまう。

怒りに満ちたような顔で見ないで


「グラズをどこにやったんだ!」

狼のように黄色い目で睨みつけられる。


「ご、ごめんなさい!失礼します!」

思わず来た道を逃げるように走ってしまう。



もうそろそろチャイムがなってしまうが、それどころじゃない。逃げたい。



体育館の曲がり角を曲がってどこに行こうか悩みながら走って


「きゃっ!」

誰かにぶつかってしまった。


「ってぇな」

「ごめんなさい!」


「あれ?グラズだ」


顔を上げると2人いた。一人は中性的な見た目で、私よりも年下に見える、もう一人は懐かし人だった。


「シャン…」

「んだよ、こんなところ走って…まぁやっと見つけたからいいんだけど……ってなんで泣いてんだよ!」



ポツポツと雨が降り始めて場所を変えることにした。

3限目のチャイムが鳴り始める。


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