悲しみを越えて…

第12話

悠理の頬を涙が伝った…。


聖来との別れから1年半程経ったが、哀しみは消えなかった。


人と関わる事が怖くなった。


遥香と出会い、また人と関わる事に前向きになれた。


しかし、《大阪》や《たこ焼き》など、聖来に関係するような言葉は、悠理をまた哀しみの海に引きずり込む。


「私は…幸せになっちゃ…いけない…気がする…。」

悠理は呟くように言った…。



《そんな事あらへん…》


《ウチは大丈夫やから、悠理は幸せになってな…》


━━どこからか、聖来の声がした気がした。


「!?」

悠理は辺りをキョロキョロ見渡した。



━━当然、聖来はいない。


そして悠理は、何かを思い出したように、チェストから手帳を取り出した。


アルバイト代で買った、四段のチェストだ。


プリクラが沢山貼ってある手帳だ。


━━悠理は手帳を開いた。


聖来と二人で撮ったプリクラが沢山貼ってあった。


二人共、楽しそうに笑っている。


「聖…来…。」

悠理は呟くように言うと、手帳を抱き締めて泣いた。



《プルルルル》


悠理の携帯電話が鳴った。


名前ではなく番号が出ているので、登録のない番号のようだ。


悠理は涙を拭った。


「も…もしもし…。」

悠理は、恐る恐る電話に出た。


『鈴本悠理さんの…携帯で間違いないですか?』

と、受話器の向こうから女性の声がした。


━━相手の女性は悠理の事を知っているようなので、間違い電話ではなさそうだ。


「はい。」

悠理は不安そうに答えた。


『悠理ちゃん…。』

女性は少し間を置いて、

『聖来の…藤吉聖来の母です。』

と言った。


「!?」

悠理は驚きを隠せなかった。


電話の相手は、藤吉聖来の母の藤吉眞衣(ふじよし・まい)だった。


悠理は眞衣とは何度か会った事があった。


『突然、ごめんなさいね…。』

眞衣は謝ってきた。


「い、いえ…。」

悠理は答えた。


『実は、悠理ちゃんのお母様とお話する機会があって、悠理ちゃんが栃木に引越したって聞いたから…。』

と、眞衣は言った。


「そ、そうだったんですか…。」

悠理は答えた。


『ごめんなさいね。』

と、眞衣が謝ってきた。


「え!?」

悠理は、意味が分からない様子。


『聖来のせいで…。』

眞衣は少し間を置いて、

『聖来のせいで、悠理ちゃんに辛い思いをさせちゃったわね…。』

と言った。


「い、いえ...そんな…。」

と、悠理は言った。


『悠理ちゃんが元気がなくなって、不登校になってしまったって、お母様から聞いたのよ。』

と、眞衣が言った。


「そ、それは…。」

悠理は、返す言葉に戸惑っていた。


『いいのよ。』

察したように、眞衣が言う。


「……。」

悠理は黙って聞いていた。


『本当にごめんなさい。』

眞衣は謝った。


「い、いえ...。」

悠理は申し訳なさそうに答えた。


『あの子が迷惑を掛けたのに、こんな事を言うのもなんだけど…。』

眞衣は少し間を置いて、

『悠理ちゃんは幸せになってね…。』

と言った。


「あ…は、はい…。」

悠理は、頷くように答えた。


『あの子は…悠理ちゃんの笑顔が…大好きだったから…。』

眞衣は、涙声になりながら、

『だから悠理ちゃんには、あの子の分も幸せになって欲しいの…。』

と、続けた。


「聖…来…。」

悠理は、聖来の笑顔を思い出しながら呟いた。

また、自然と涙が溢れてきた。


『悠理ちゃんに、それを伝えたくて電話したの。』

と、眞衣が言った。


「あ、ありがとうございます…。」

と、悠理は頭を下げた。


電話を切ったあと、涙が止まらなかった。


でも、眞衣からの電話のお陰で、また少しだけ、悠理は前向きになれた…。



━━悠理はプリクラの手帳を引き出しから出して、部屋の右側の壁の端っこにある小さな台の上に置いた。


悲しくなった時に、ここに来れば聖来に会える気がしたからだ…。



━━2018年12月24日。


悠理と遥香は、お台場に来ていた。


場所はパレットタウンにした。


敷地内にあるヴィーナスフォートというショッピングモールで色々と買い物をしたりした。


夕方、辺りが暗くなってから、二人は大観覧車に乗った。


━━ゴンドラからは、東京タワーやスカイツリー、レインボーブリッジなどが見える。


「すごーい!」

遥香は嬉しそうな声を上げて、

「綺麗だね!」

と、悠理を見た。


「うん。」

悠理は頷いてから、

「遥香…。」

と言った。


「何?」

遥香は悠理を見た。


「来年の誕生日、またここに来ない?」

と、悠理が訊いた。


「う、うん…。」

遥香は悠理を見て、

「来ようね…。」

と微笑した。


「約束だよ。」

と言って、悠理は小指を出した。


「うん。」

と言って、遥香も小指を出す。


二人は指切りをして、来年の8月8日に、またここに来る約束をした…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る