川中島の合戦

第9話

「そろそろ一実が動く頃ね...。」

と、武田真夏は言った。


武田真夏、甲斐地区躑躅ヶ崎女子高等学校三年。

愛くるしい表情が魅力的な美少女だ。


本人は、

「自分は頭が大きい...。」

と、頭の大きさに少しコンプレックスを持っているようだが、実際は、そんなに大きくはない。

真夏の軍のカラーは赤で、車はフォード・マスタングGである。


━━上杉一実の軍が、善光寺周辺と妻女山の二手に分かれて陣を構えている頃、真夏の軍は川中島に来ていた。


上杉一実の軍、一万三千人。

武田真夏の軍、二万人。

三万人もの女生徒が、ここ川中島付近に集まっている。

ちなみに、一実の軍のうち三千人は、善光寺周辺に配備されている。


「━━真夏様。」

ある家臣の女子高生が、真夏に近付いて来た。


━━躑躅ヶ崎女子校二年、山本優里(やまもと・ゆうり)。

小柄な体型に茶髪のストレート、少しトロンとした感じの目が可愛らしい少女である。

真夏の家臣で、甲斐地区や信濃地区では有名な名軍師(めいぐんし)であり、例の《武田二十四将》の一人でもある。


━━軍師とは、大名のサポート役として戦略を練ったりする立場の者である。

ちなみに、上杉一実の家臣、直江かりんも名軍師である。


「優里、どうしたの?」

真夏は、優里を見た。


「上杉は、妻女山に陣を構えているようです。」

と、優里が言った。


「なるほど、妻女山からなら、川中島全体が見渡せるからね。」

と真夏が言った。


「━━私に策がございます。」

と、優里が言った。


「どんな策?」

真夏が訊く。


「軍を二手に分けて、一方が妻女山に攻撃を仕掛けます。

上杉の軍が妻女山から、川中島に逃げ降りて来た所を、もう一方が迎え撃ちます。」

と、優里は説明した。


━━ちなみに、この戦法を《啄木鳥(きつつき)戦法》と言う。


「良い策ね、やってみましょう。

優里は、妻女山をお願いね。

四千人の女生徒を預けるわ。」

と、真夏は快諾した。


「有難うございます。

直ちに準備致します。」

と言って優里は、その場を離れた。


「━━真夏様、どうぞ。」

と、別の家臣が真夏に何かを差し出した。


それを見た真夏は、

「有難う。」

と、ニコッとした。

家臣が差し出しのは━━木箱に入った高級マカロンだ。


そしてマカロンを手に取ると、

「可愛い...。」

と、マカロンに話しかけるように言った。

それから、

「チュッ」

っと言って、マカロンに軽くキスをしてから食べた。


真夏はマカロンが大好物なのだ。

マカロンとか大福など、小さくて丸い食べ物に、

「可愛い。」

と言ってから、軽くキスをして食べるのは、真夏の癖である。



「━━かりんちゃん...」

と、一実が言った。


「はい。」

かりんは、一実を見た。


━━ここは妻女山の一実の陣。

「何か、嫌な予感がするの...。」

と、一実が言った。


「一実様もですか?」

と、かりんも言う。


二人共、何かを感じているようだ。


「━━それに...。」

と、かりんが続けた。


「ん?どうかしたの?」

一実は、かりんを見た。


「川中島方面に霧が出てきそうです。」

空を見ながら、かりんが言った。


「......。」

一実は、少し考えてから、

「妻女山を川中島方面に降りよう。」

と言った。


「かしこまりました。

善光寺周辺の配備は、どうなさいますか?」

と、かりんが訊く。


「そのまま待機してもらって。

状況によって、妻女山を攻撃して貰うかも。」

と、一実は答えた。


「かしこまりました。」

と言って、かりんは立ち去った。


━━説明が遅れたが、上杉一実は黒髪ストレートが良く似合う美少女だ。

一実の軍のカラーは黒で、車は偶然にも真夏と同じ、フォード・マスタングGである。

ちなみにマスタングとは《野生馬》を意味する。

一実の黒のマスタングと、真夏の赤のマスタング...。

上杉の騎馬隊と、武田の騎馬隊といったところか...。


一方、直江かりんは、肩までのセミロングの茶髪が似合う美少女である。

乗っているバイクは、黒のホンダ・VFR400Rだ。


━━そして、一実達は妻女山を降り始めた。


川中島方面が薄暗くなってきている。


一実は、チャンスだと思った...。

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