桶狭間の合戦

第8話

織田佑美が、斎藤綾乃を討つ決心を固めた頃、また一つ大きな動きがあった...。


太陽3年5月...。


━━ついに、今川美波が動き出した。

二万五千人もの大軍で駿河を出発して、京都へと向かい始めたのだ...。

美濃の斎藤との同盟が破棄となった今、佑美の状況は、また悪くなってしまっていた。


━━清州女子高天守。

「━━佑美様。」

羽柴麻衣が、歩み寄って来た。


「━━ん?」

佑美が麻衣を見た。


「尾張地区の丸根(まるね)女学園と、鷲津(わしづ)女子高が、今川の手に落ちたとの連絡が入りました。」

麻衣が言った。


「━━そう、分かった...。」

佑美は、呟くように言った。


《ぷるるるる》

麻衣の携帯がなった。


「失礼致します。」

と佑美に断ってから、麻衣が電話に出る。


「...お疲れ様です...はい...かしこまりました...ご報告、有難うございます...失礼致します。」

と言って、麻衣は電話を切った。


「━━何か動きでもあったの?」

と、佑美が訊いた。


「はい、今川の軍勢が桶狭間(おけはざま)の広場で、バーベキューをしてるとの連絡が入りました。」

麻衣が答えた。


━━桶狭間とは、愛知県名古屋市緑区と愛知県豊明市に股がる地域で、佑美達の言い方で言えば、もろに尾張地区である。

尾張地区は、まだ完全に今川の手に落ちた訳ではない、それなのに呑気にバーベキューとは、相当の余裕があるのだろうか?


「......。」

佑美は、しばらく黙っていたが、

「━━麻衣。」

と、麻衣を見た。


「はい。」

麻衣も佑美を見る。


「今から戦の準備をすると、どれくらいの生徒を集められる?」

と、佑美は訊いた。


「今からですと...三千人くらいなら集められますが...。」

と、麻衣が答えた。


「分かった、すぐに戦の準備をして欲しい。」

と、佑美は言った。


「かしこまりました。」

そう言って、麻衣は天守を出ていった。


しばらくして、麻衣が手に何かを持って戻って来た。

「戦の準備は、まもなく整います。

佑美様、先ずはこれを...。」

と言って、手に持っていた物を佑美に差し出した。

━━コンビニやスーパーなどで売っている、カップタイプの鮭茶漬けだ。


「有難う。」

と、佑美は受け取った。

━━佑美は戦の前には必ず、このカップの鮭茶漬けを食べる。


「━━天気が悪くなって来ましたね...。」

と、窓を見ていた麻衣が言う。


「━━この戦、勝つよ...。」

佑美は、呟くように言った。



━━尾張地区桶狭間。

「雲行きが怪しくなって来ましたね...。」

と、家臣が今川美波に言った。


「そろそろ片付けましょう。」

と、美波は答えた。


━━今川美波達は、バーベキューをしていた。

しかし急に天候が悪くなり、雨が振りそうだった。

二万五千人もの女生徒達が、バーベキューをしていたのだ。

片付けるのにも時間がかかる...。


《ポツッ...ポツッ...ポツッ...》

雨がポツポツ降り出してきた。

━━すぐに、

《ザーッ》

と、大雨に変わった。

「うわ、やだぁ...。」

「ちょっとぉ...。」

など、あちこちで女生徒達が騒ぎ出した。


━━風も強くなり、暴風雨になった。

暴風雨のせいで視界も悪くなり、周りが見えにくくなっていた。


━━“その音”は、暴風雨の音にかき消されていた...。


━━突然!!

美波達の前に、黒い集団が突撃して来た!!


織田佑美の軍勢である。


そう...“その音”とは、佑美達の車やバイクの音である。


「尾張地区、清州女子高三年、織田佑美である!!」

と佑美は言った。


「!?」

今川軍の女生徒達は慌てふためいた。


━━完全に油断していた。

織田佑美の軍勢、三千人。

今川美波の軍勢、二万五千人。

十倍近くある兵力差も、地形を知り尽くしていて、更に奇襲にも成功した佑美達にとっては、大きな問題ではなかった。


「織田佑美家臣、清州女子高二年、羽柴麻衣である!!」

雨の中を麻衣のNinjaが、縦横無尽に駆け回る。


暴風雨で視界が悪くなり、更に油断しきっていた時の奇襲。

今川美波の軍勢は、あっという間に壊滅状態である。


━━美波は、佑美の家臣に討ち取られてしまった。


佑美達の勝利である。


ここに、彼女達の桶狭間の合戦は終了した。


今川美波、高校三年生。

天下に号令をかける夢は、ここで散った...。


《尾張の織田佑美が、今川美波を討った!!》


この出来事は、あっという間に全国の女子高生の間に広まった...。

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