第一章 皇帝の正体⑤
***
そうして、
玉城から自室に帰ってきた私は、しばらくベッドに
──なんだか、たった一日でとんでもないことになったな──。
しかしこの先、
それにしても。大国の皇帝がまさか推し作家だったとは。
そういえば。あの時
そんなことを考えながら、今日一日でどっと
「ルシェル。私だ」
「……お父様」
外から聞こえてきた声に、ハッと
帰ってきたのならまず顔くらい見せなさい、と言う父に、確かに今日の
私はさっと
「申し訳ありませんお父様。帰宅したのが
王太子である
そんな父は私に「謝罪などいい。あれから、皇帝陛下とはどんな話をしたのだ」と言うと、視線を部屋の中にちらりと投げ、じっくり座って聞かせてもらおうかと
そうして、私の部屋の応接セットに腰掛けた父に居住まいを正した私は「皇帝陛下の
「──そうか」
私の言葉に、父は喜ぶでも
「アルベルト様のこと。私の不手際でお父様にもお
「いや、それはいい。もともと──、
「意外か? 手塩にかけて育てた
「……お父様は、アルベルト様を
「確かに、最初の
あれは誰にもどうしようもできないだろう──、と暗に私を
「国王陛下には、いったいどういう教育をしたら王太子殿下があのような場であんなあり得ない茶番を始めることができるのかと苦言を
「それは……」
「もちろん、不敬にはならない程度にだ。しかし、いくらなんでも
私の家であるエーデルワイス家は代々当主が
そんな我が家が、たとえ相手が王族といえど恥をかかされて
王政というのは一見、王が強い権力を持ち、何もかも王の思い通りになると思われがちだが、その下にいる貴族たちをきちんと束ね、土台を支えてもらっているからこそ成り立つものなのだ。
だから私はこれまで、あちこちで不興を買うアルベルト様の代わりにフォローをして立ち回り、
「オルテニアの皇帝陛下がお前を肯定してくださったのもいい後ろ
「そうですか」
「国王陛下からは裏でこっそり、お前が思いとどまってくれるよう説得してほしいと
「お父様……」
話を聞いているとだいぶ国王陛下とやりあっている様子が
「まあ、こちらの話はどうでもいい。だいぶ長話をしてしまったがな。それで──、皇帝陛下はどのようなお方だったのだ」
父の、その言葉が──。「お前をちゃんと幸せにしてくれるのか?」と案じているようにも聞こえて、私は少しだけ泣きたい気持ちになった。
「皇帝陛下は──、お
オルテニアの皇帝といえば。たったの三年で
私も実際にあの場で話をするまで、にこりともしない皇帝の様子に噂に
「私の話をちゃんと聞いてくださり、
それ以外にも、実は
その点に関しては特に現時点で父に言う必要はないと思って口には出さずにおいた。
「……そうか」
父は短く、それだけを口にすると、しばらくは言葉を発することなく黙り込んだ。
「……お前が幸せになることを願っているよ」
ここから遠く
お前ならば──きっと大丈夫だろうと。
そう言って、父が私の
私はその夜、改めて自分が父から多くの愛情をもらっていたのだということを深く感じて、部屋で少しだけこっそり泣いた。
私がまだ幼い頃に自らの
立派な
地味令嬢、しごでき皇妃になる! 契約婚のはずなのに冷血皇帝に溺愛されています 遠都衣/角川ビーンズ文庫 @beans
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