第14話

俺の最後の闘いの場所。


「松田先生?」


「おぉ、和泉か。入るか?」


「良いっすか?」


俺の元担任が、愛の担任。


「お客だぞ!女子、喜べ~!」


この担任。芸能活動を応援してくれていた。学校にもずいぶんかけあってくれた。結局、転校という形になってしまったけれど、感謝している。


「お邪魔しま~す!」


「こんにちは。」


凛と並んで教室に入る。


学生達から、黄色い声が上がる。


ただ一人、を除いて。


「松の授業?こいつの分かんねぇんだよなぁ。」


冗談を良いながら、先生と、学生達と、一緒にカメラに収まった。


もちろん、ただ一人、を除いて。


そして、その一人を見ながら、くすくす笑う女子三人。


さりげなく、その三人に近寄り、呟いた。


「いつも応援ありがとうね。」


とびきりのアイドルスマイルで。


「あ、はいっ。ドラマ、観てます。頑張ってください。」


「ありがとう。」


順番に握手をする。


「あ、君達かな?なんか素敵なデザインかくの?」


「え?」


「素敵な言葉、たくさんありがとうね。こんどからはさ、黒じゃなくてもっといろんな色使ったほうが可愛いよ?君みたいにさ。ね?」


再びアイドルスマイルで迫ってみる。


「は、はい。」


三人とも、真っ赤になって俺を見た。


最後にとどめ。


「良いこだ。」


頭を撫でなで。


「じゃあね。」


これでもか攻撃。

ウィンクを一発。


周りが一気に黄色い叫び声。


窓際に立ち、じっと見つめる姿を視界の片隅に納めながら、凛と共に、美しく去る。










「すげぇな。」


帰りの移動車の中。

凛がずっと同じ台詞を繰り返す。


「凄いもん見たよ。」


「うっせぇな。」


「愛ちゃん、ずっとお前見てた。」


「そ?」


「知ってるくせに。」


「さぁね。」


「目的はあの三人組だったんだ?」


「さぁね。」


「目的は達成されたんだ?」


「いや、まだわかんねぇ。逆効果だったかも。」


「結果、ちゃんと報告しろよ?付き合ってやったんだから。あ!うどん!」


「覚えてた?」


「今日の昼飯、お前の奢りだから。」


「へいへい。」


車は都内のスタジオへ向かった。

これからは、アイドル

 和泉 濂  の時間。



「うまくいくと良いな。」


「あぁ。」



唇を噛み締めた姿が、ずっと頭の片隅から消えなかった。

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