第13話

「ごめん…………濂ちゃん。」


涙を手の甲で拭いながら、体を離した。


「待ってな。明日。」


「明日?」


「明日。ちゃんと学校行けよ?」


短くなった頭に手をのせた。

見下ろした愛は、消えてしまいそうだった。

真っ赤な瞳が、ゆらゆら揺れていた。


「………うん。学校、行く。」


そして、精一杯の笑顔を作った。













「なぁ、何で?」


さっきから、ロケバスの後ろの席で呟き続ける男。


「俺、母校じゃないんですけど?」


「はいはい。」


適当に返事をして知らんふりを決め込んだ。


「なぁ、事によっては協力しますよ?」


「協力?」


「きょ、う、りょ、く。」


俺の隣に無理矢理座りながら睨む凛。


「白状しな。」


「白状って……。」












雑誌の取材。

一緒にドラマをやってるせいもあり、一緒の取材が多い。


行きたいところ、どこでもリクエストして良いって言われた。


母校訪問。

俺がつい最近まで通ってた母校。


しかも、ドラマ収録のため、午前しか空いてない。


ダメモトで言ったリクエスト。意外にあっさりOKが出た。

あんなに芸能活動に眉を潜めた学校が、OKを出した。

俺の作戦が動き始めた。











「アイドル、してください。」


俺の言葉にポカンとする凛。


「言われなくてもアイドルですけど?」


「いや、極上のやつを。」


「極上の?」


「極上のアイドルでお願いします。」


「極上のねぇ………。で、君は?」


「精一杯の極上をお届け致します。」


「見返りは?」


「…………俺のキス。」


凛がニヤリと笑った。


「ありがと。頂く。」


言いながら迫ってきた。


「凛………ここじゃ駄目だよ。」


「何で?」


「だって………ほら。」


迫られながら指差す方には、カメラマン。


「撮って良い?」


「綺麗に撮ってね。」


二人寄り添う写真が表紙になった………。












笑顔で迎えてくれる校長。

食堂のおばちゃん。

元クラスメート。


黄色い歓声で迎えてくれる女子たちに、


「ありがとう。」


と、とびきりの笑顔を送る。


「ちょっとだけしぃー。」


凛が唇に指を当ててウィンクすれば、誰もいないかのように静かになった。


「最後に、行きたいところあるんだ。良い?」


「じゃ、そこで終了にしますか。」

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