第4話 ガンジーも助走をつけて殴るレベルだと思う

 仙場君を狙撃した俺は、いつもの様に何食わぬ顔で弁当を食らっていた。


 こういうのはあからさまにおどおどしてたりすると誰が犯人かすぐにバレてしまうから、こうやって堂々とするのが吉である。


 まあ、内心めっちゃビビってるけどね。

 手なんて震えまくってる。

 ガッタガッタだ。


 あ、ちなみにこの弁当は登校するついでにコンビニで買ってきた物だ。

 弁当のおかずのなかで一番の好物はダイコンの漬物である。

 あのなんとも言えない酸味が旨い。

 白米と一緒にかきこむと最高だ。

 よくジジイ臭いって言われるけど、それでも俺は漬物を推したい。


 そんな感じでもしゃもしゃと弁当を食べていると、山口がこっちの方にやって来た。


「なあなあ、紅夜、これ見てくれよ。お前にもこれを見てほしいんんだ」


 山口はこっちにやって来ると、手に握っていたスマホを見せてきた。


「これは?」


「ああ、これはな、ダンジョン内で撮影されたS級ハンターのハンティング映像だ」


「へえー」


 そして、 俺は画面に映し出された動画を見た。

 

 暗いダンジョンの中、暗視カメラで撮影されたその動画では、外套を纏った人間が戦ってた。


 体格は小柄。

 恐らく少女だろう。

 その証拠に時折フワリ、と長い黒髪がはらめいている。


 外套を着た人間はヘルドラゴンと戦っていた。

 ヘルドラゴンは危険度S級以上のとても危険なモンスターだ。

 

 ヘルドラゴンが地獄の業火を吹くと、外套を着た人間は手刀でそれを薙いだ。

 すると、業火は真っ二つに割れた。

 瞬間、割れた業火の中を進む人間。

 そして飛び上がったかと思うと、目にも追えぬ速度で、というかカメラの性能では捉えられぬ速度でドラゴンの首を切りつけ、こま切りにした。


 ドシャ!


 血が飛び散る音と共にドラゴンは崩れ落ちた。


 動画の内容は以上だった。


「ほうほう、こりゃ凄いな」


「だろ?これはダンジョン内でたまたまその現場に鉢合わせたハンターが撮影した物らしいけど、見ろよ、この謎の少女。めっちゃ小柄なくせにこんな神業をやってるんだぜ!?」


「……」


「なんかこのコートを被ったハンターの目撃情報が1か月くらい前から出てるんが、新しいS級ハンターっぽいんだよな」


 えっと、はい。

 うん、それ俺です。

 なんとなく分かってしまいました。


 丁度この前ヘルドラゴンを討伐したばっかだし。

 S級の中でこんな怪しい外套纏ってるの俺くらいだし。


 あれー?なんか見覚えがあるなー?

 とは思っていたけど、まさかのドンピシャで俺の事だった。

 

 これは、もの凄く反応しずらいな。

 自分で自分のこと褒めるなんてなんか照れくさくて無理だし。

 けなしたらけなしたで感じ悪いし、失礼だし。

 これってどう反応したらいいんだろ。


 と、心の中で思案している俺を傍らに山口は熱く語り続けた。


「最近のネットではこの動画の話題で持ちきりなんだぜ?この謎の黒髪の少女の正体はなんだって。ネットでは”黒彗星”なんて呼ばれてる」


「へ、へえー、黒彗星なんてそりゃまた大仰な」


「ええ、カッコいいだろこの名前」


「そうなのか……?」


「ああ、あとこの黒彗星が巷では実は電槌が送り込んだエージョントだって説もあるぞ」


「エージェントって……そんな陰謀論じみた説なんてありえないだろ」


「まあ、まだこの謎のハンターの動画がこれだけしかないからこっから情報が出てくることに期待だな」


 はあ、これからはもう少し目立たないように気をつけなきゃな。

 いつどっかから情報が洩れて俺の正体がバレるなんて事になるか分からないからね。

 取り合えずしばらくは人がいなさそうな深階層でモンスターを借ることにするか……。

 

 でもなあ、いちいち昇り降りするのめんどくさいんだよな。

 あそこお気に入りの狩場だったのに。

 モンスターがいっぱい湧いてて連戦できたというのに、そこを離れなければいけないのは少し残念だ。


 内心がっくりとしていると、山口は頬杖をついて言った。


「いやー、こんな動画を見たら俺もまたハンターに戻ろうかなって思っちゃうな」


「そういえばお前、1か月で飽きてハンターを辞めたんだったな。この飽き性め」


 山口がすぐにハンターに飽きてやめていったことをイジる。

 しかし、イジられたことなんてお構いなしとばかりに山口はワクワクとした顔をした。


「それはそうだけど、やっぱりこんなカッコいい戦いを見たらよ、俺もハンターをやりたくなっちゃうさ。いんやー、だから今日の授業は楽しみなんだよな」


「授業?」


「あれ?お前、今日の授業のこと知らないのか?」


「1か月くらいサボってたからな」


「ああ、そういえばそうだったな。じゃあ、教えてやるよ」


 そして、山口は今日の授業について教えてくれた。


 曰く、今日の体育授業ではハンターの戦闘を実践を交えて教えてくれるとの事。

 

 この学校、旧東京中央学園は中高一貫校であり、テックボルトと電槌のメガカンパニー二社によって運営されている。


 魔力素材を元に兵器開発を行う企業であるため、学園運営を名目として、秘密裏に生徒を通して新兵器の試験運用しているだとかの説がある。

 まあ、あくまでも噂だからその真偽は分からないけどね。


 とまあそんな旧東京中央学園なのだが、高校一年生から魔力操作や実践戦闘について教えてくれるようになる。


 なぜ高校一年生から教えてくれるのか、というとたぶん実践戦闘だとかは危険を孕むため、そう言った授業はある程度体が出来上がっていたり、年齢的に問題ないと判断される年齢がちょうど高校一年生だから、という事なのだろう。


 まあ、偉い人の考えることはよく分かんないけど、たぶんこういう事だと思う。

 

 そして、今日からその実践戦闘だとかを教えてくれるようになる、という事だ。


 とまあ、山口の話を解説交えてまとめるとそんな所だ。

 そんな話を聞いた俺は、弁当の総菜を頬張りつつ喋った。


「ほーん、てことは今日から本格的に実践戦闘の授業が始まるって言うのか」


「そうそう、紅夜の認識通りだぜ」

 

 うーん、それはちょっと不味いな。

 たぶんだけど、授業の初めに魔力測定だとかなんだとかをするだろうし。

 そうなるとS級ハンターの俺の正体がバレかねない。

 

 なにせ俺の魔力量は、一般のそれとはかなりかけ離れてしまっているからだ。

 となるとどうにかしてこの魔力量を隠さなきゃいけない。


 うーむ。

 どうにかして隠せないだろうか。


 そして、山口と暫く他愛もない話をしたのち、チャイムが鳴ったので弁当を片付けてクラス移動することにした。



▽▲▽▲

 

 昼休みの次の授業。

 俺たちはグラウンドに集まっていた。


「今日から実践演習が始まるが、皆にはまず魔力量を測ってもらいたい!」


 そして、先生は近くにおいてある魔力測定機器を指さした。


「魔力は戦闘のすべてだ!身体強化も、スキル使用も、魔力がなければ話にならない!だから、この機械でみんなの魔力量を測って、素質を測る!」


 なるほど、確かに先生の言う通り魔力は戦闘のすべてだ。

 だから魔力を測ることは、素質を測るという面では合理的である。

 でも、こうして素質を測られるのは俺にとっては不都合この上ない。

 しかしながら、測定を拒否することもそれはそれはで怪しいため、出来ない。


 うーん、この。

 久々に学校に来たと思ったらなんでこんなクソみたいな状況になっているのやら。

 全く……俺は運が悪い。

 

「測定された魔力量はこちらのモニターに表示される!」


 そして、先生が指した方向には大きなモニターがあった。


 ふむ、あれに測った魔力が表示されるのか。

 

 見たところ、測った本人だけでなく、他の生徒も見れるようになっている。

 恐らくだけど、国が運営する学校であったら、当人のみしか見れないようにして素質は秘密にされるだろう。


 でも、こうしてデカデカと、意図的にまわりの生徒も見れるようにしているのは、きっと生徒同士を積極的に競争させようという意図があるのだろう。


 流石はメガカンパニーが運営する学校だ。

 やることがいちいちねちっこい。

 まあ、俺みたいなちっぽけな人間がそんな事に文句なんて付けられないけどね。


「順番はこれから配る紙に書いてある」


 そして、俺たちに紙が配られた。


 俺の順番は……3番目だ。

 

 えーっと、一番最初の生徒は誰だろうか。

 あ、仙場君だ。

 

 で、その次は……千ヶ織さんだ。


 ええ……どっちもさっき校舎裏で喧嘩してた人じゃん。

 これは絶対に修羅場になるやつだ。

 おいおい、マジかよ。

 こいつらの後に測りたくないんだが。

 絶対にトラブルに巻き込まれると思う。

 教師にはちゃんとトラブルにならない順番を考え欲しい物だ。

 

 まあ、どうせ順番を組んでるんだろうけど。


「おいおい!俺のあとは千ヶ織じゃねえか!楽しみだなぁ、千ヶ織が一体どんな魔力量なのか!」


 と思っていると、仙場君は想像通り千ヶ織さんに言い放っていた。

 

 はあ、全く。

 二人には仲良くしてもらいたいものだ。

 

 心の中でため息を付きつつ、仙場君の魔力測定を見守った。


「こちらの機器に手を置いてください」


 そして、仙場君は魔力測定器に手をゆっくりと置いた。


 すると、ウィーンと機械音がし、モニターに魔力量が表示された。


『素質魔力量……1942gn/s』


 モニターに表示された魔力量に、クラスメイト達はざわめいた。


「おいおい、1942って、化け物かよ」

「すげえな仙場君」

「S級ハンターになれるんじゃねえの?」

「マジかよ、やべえな」


 えーっと、確か平均的な魔力量はだいたい950くらいだったと思う。

 だから仙場君の魔力量は1900で、平均の2倍くらいあるという事だ。

 なるほど、確かに化け物である。

 

 魔力量は初期値を元に伸びていくため、これは鍛えたらかなり強くなるんじゃないか?


 俺は表示された魔力量をじっくりと吟味した。


「ハッ、見たか俺の魔力量を!これは千ヶ織の魔力量が楽しみだなぁ、ギャハハ!」


 仙場君は千ヶ織さんを馬鹿にしたみたいな目で見た。

 

 一方の千ヶ織さんはやれやれという顔。


「はあ、別に魔力量が全てって訳じゃないのに……全く、幼稚だわ」


「なんだテメエ!今なんて言った!?」


 おいおい、さっそくケンカかよ。


「ケンカはそこまでにしろ!次のヤツはさっさと魔力量を測りに来い!」


 すると、先生は大声で二人を叱った。

 チッ、と仙場君は舌打ちをして引いていった。

 

 千ヶ織さんはようやく邪魔者がいなくなった、という顔で測定器まで歩いた。


「おいおい、次は千ヶ織かよ」

「アイツってカンパニーの敵の子供だろ?」

「マジかよ、よくカンパニーに逆らおうなんて思ったな」

「アイツにはかかわらないでおこうぜ」


 そんあひそひそ声など気にしない顔で彼女は測定機に手を置いた。

 機械音がし、しばらくするとモニターに数値が表示された。


『素質魔力量……2032gn/s』


 その結果に、クラスメイト達は再びざわめいた。


「2000って、仙場君以上じゃん」

「あいつが2000以上?不正かなんかしてるだろ」

「なんかウザいな。なんであいつなんかが2000越えなんだよ」


 へー、千ヶ織さんってあんなに高かったんだ。

 鍛錬も何もしていない状態であれは、中々にやばいぞ?

 なんなら俺に匹敵する才能かもしれない。


 初期値2000以上は1万人に1人いるかいないかレベルの才能だ。

 内心、彼女の才能に感嘆した。

 ありゃ凄いな。

 鍛えたら凄い事になるんじゃないか?


 いやー、でもな……

 才能があるのはいい事なんだが、これはこれはでちょっと不味いだろうな。


 と、そんな事を考え仙場君の方を見る。


 案の定、仙場君はこめかみに青筋を立てており、たいそうご立腹の様子。

 まあそりゃそうか。 

 見下してたやつが自分より上、となると腹が立つのも当たり前の心情だろう。

 

「不正だ!こんなの不正だ!認めないぞ、俺は!」


 すると、仙場君は結果に不服を立てた。

 そんな仙場君を無視してスンとした顔の千ヶ織さん。

 

 まさに一触即発の状態。


 おいおい、この二人の後に俺を持ってきたやつは誰だよ……。

 俺にはちと荷が重すぎるぞ。

 ガンジーも助走付けて殴るレベルだぞ、これ。


 全く、なんで俺がこんな目に……。

 なんとか勇気を出して俺は、一触即発の雰囲気の中機械の方へ歩いて行った。

 出来るだけ目立たないようにそろりそろりと歩いた努力が功を奏したのか、なんとか二人に絡まれることなく機械へ辿り着く。


 そして、俺は機械の方へ手を伸ばした。

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