TS美少女なんですけど気づいたら暗躍してることにされてました~滅茶苦茶なことをしてるってよく言われるけど、俺は悪くないと思います~

カンパネラ

プロローグ

第1話 TSしました

 ここはビルの一室。


 窓の外には美しい東京の夜景が広がっている。

 

 俺はガラスに映りこんだ自分の姿にため息をついた。


「はぁ、これが俺かよ……何度見ても慣れないな」


 ガラスにぼんやりと映っているのは、一目見れば思わず息を呑んでしまいそうな美少女。


 俺が右手を挙げれば美少女も右手を挙げる。

 頬をフニフニつまんでみると、ガラスの中の彼女もフニフニした。

 うん、やっぱり俺だ。


「自分で言うのもなんだが、美少女すぎだろ」


 黒金のように見るものを誘惑の淵にいざなう黒髪。

 大きく宝石のように、されど深く深淵のような紅眼。

 顔は美しく整えられ、魅力的な顔立ち。


 正直、俺もこれが自分だとは思えない。

 なにせ俺はもともとただのモブみたいな男だったのだ。


 紅夜ユウ。

 特に目立つ箇所もない凡庸な男子高校生。

 陽キャどもには見向きされず教室の端で、黙々と昼飯を食うような男子高校生だ。

 

 それが俺。

 というか、だった・・・というのが正しいだろうか。

 

 こんな姿に変わってしまったのは1か月前から。

 

 さて、どうしてこんな事になったのか簡単にまとめる。

 

 3か月前。俺はダンジョンハンターになった。

 ダンジョンハンターとは、数年前に東京の中心に光と共にあらわれた”ダンジョン”と呼ばれる深淵で、ダンジョン内に徘徊するモンスターを討伐する仕事だ。

 あ、ちなみにその時にダンジョンの光を浴びた人々には”スキル”と”魔力”と呼ばれる特殊なスキルが宿った。

 ハンターはそれらの特殊な力を駆使してモンスターと戦う。


 とまあ、そんなダンジョンハンターに俺は陰キャ仲間の友人から進められてなってみることにした。


 友人曰く、


「え!?お前ダンジョンハンター知らないのか!?じゃあ、何も知らないお前に説明してやるよ。

 ダンジョンハンターは今一番熱くて、上手くいけば誰でも儲かる仕事なんだぜ。それに、ダンジョンハンターってだけでもチヤホヤされる。俺も昨日ダンジョンハンターに登録してきたぜ。

 ま、お前みたいな冴えないやつでもダンジョンハンターになればモテるんじゃないか?今なら俺も勧誘ボーナスでお得だし、お前もなれよ」


 との事。


 まあ、流石に友人の誘いは断れん。

 そんなに言われたら俺も一皮むけるしかないな、フッフッフ。

 なんて事で俺はダンジョンハンターになった。


 ……えっと、はい。

 俺がダンジョンハンターになった理由は単純にモテたかったからですね、ハイ。

 うん、草。

 自分でも俗すぎる理由だとは思う。


 まー、かつて俺が望んだモテなんてこの体になってしまったからは敵わぬ夢になったけどね。

 

 さて、そんな事は置いておいて、ダンジョンハンターになった俺だったんだが、なんかめっちゃ才能があったらしくてなんやかんやしてるうちにS級(?)みたいなめっちゃ凄いランクになってたっぽい。


「ええ……1か月でS級って……化け物じゃないですか。ぶっちぎりで世界最速ですよ」


 なんて受付嬢のお姉さんはドン引きしてた。

 

 という事があると当然俺も調子に乗ってしまう。

 ふむ、俺って強いのかな? 

 もしかして、もしかしてだけど俺って強い?


 などとその時は、調子に乗ってしまいました。

 

 でも、蓋を開けてみるとS級ハンターは全国で5000人以上いるって受付嬢のお姉さんから聞かされた。

 最初それを聞いたときは愕然とした。


 ああ、俺って全然すごくないじゃん。

 たかが5000人の中でイキッてたのか……俺。


「いや、全体のパーセンテージで見ると化け物ですから。全ハンター中の1パーセント未満ってやばいですよ」


 なんて受付嬢のお姉さんも落ち込む俺を励ましてくれた。

 ああ、なんて優しいんだろうか。

 優しさが身に染みる……。

 溢れ出てくる涙でおにぎりを握れば数日は耐えしのぐことが出来る……。

 うわ、自分で言ったけどキモイな、それ。


 とまあそんなこんなで気を取り直した俺は再び学業そっちのけでダンジョンに籠る日々を送った。

 そうしてダンジョンハンターになってから2か月が経過したころだった。

 

 いつもの様にダンジョンからモンスターの返り血まみれで帰って来た時、S級専属の医者(?)みたいな人がやってきた。

 S級ハンターになると専属の医者みたいなのが付くのだが、ダンジョンから帰還した際は体のどこかに異常がないか手厚く医者に診てもらえる。 

 まあ、一種の特権みたいなやつだ。

 

 ──ああ、いつもの検診か。

 そう思ったけど、医者はとても大慌てという様子だった。


「紅夜さん!ス、スキルが、新しく見つかりました!!!」


 なんて肩で息をしながら言われた。


 いったん落ち着かせて話を聞いてみる。


 曰く、


「紅夜さんを最初検査したときは、一個しかスキルが見つかりませんでした。ですが、それは入会者に使われる安いスキル検査キットを使ってしまっていたから見落としがあったんです。

 ですがS級ハンターの検査で使われるより高い検査キットで調べてみると、新たにもう一つスキルが見つかりました。

 だから実は、紅夜さんには本来二つスキルがあるんです。一つは紅夜さんもご存じの通り、今使っているスキル。

 そしてもう一つは、いまだあなたの体の中で眠っているスキルです!」

 

 との事。

 うーむ、実は俺にはスキルが2つありました、だと!?

 え、マジか!?

 そんなご都合展開あるのかよ。


 ちょうど俺も強さに行き詰っていたところだ。

 2か月間ダンジョンに通い詰めたが、魔力操作もスキルの拡張も、すでにやれるところまでやってしまった。

 だから強さというのに天井がやって来てしまっていた。

 こっからは達人の領域、と呼ばれるもので地道に強くなっていくしかないのか……。


 そう思っていた矢先、俺に実はスキルが2つあったなんていう展開。 

 ラッキーこの上ない展開だったがために、俺も喜んだ。

 そう、最初は喜んだ。


 でも、現実はそう甘くなかった。


 医者にあれやこれや言われて、MRIみたいな機械に入った俺は、電気ショックみたいなのを浴びせられた。

 医者によると、眠ったスキルを叩き起こすだとかそんな所らしい。

 

 ちょっとだけピリッ、としたけど別に何ともなかった。

 普段から鍛えてるから、こういうショックはなんともないのである。


「おお、おお、成功です!!!」


 お、成功したのか。

 さっそくスキルを使ってみよう。

 そう思って機械から降りた俺は、体の違和感に気づいた。


 ん?

 なんか目線が低いぞ?

 あの医者ってこんなに大きかったっけ?


 それに、なんだか髪が長い気がする。

 さっきから視界の端でチラチラ動いてうっとおしい。


 なにかがおかしい。


 そう疑問に思った俺は、治療室の中の鏡を見てみる。


「!!!????」


 鏡の中には、この世の物とは思えぬ美少女が立っていたのである。


 自分が右手を挙げると美少女も右手を挙げる。


 鏡の中の美少女は、まさかの俺だった。


「こ、これが俺!!!???」


「はい!!!あなたの中に眠っていたスキルは【美少女化】です!!!」


 そうして、俺は美少女になってしまったのである。




▽▲▽▲

 

「いや、それにしても意味不明すぎだろ。なんで俺がこんな目に……」


 はあ、とため息が漏れる。

 そもそもなんだよ【美少女化】って。

 いや、エ〇ゲに出てきそうなスキルだな、おい。

 スキル名がふざけすぎだろ。


「──んー、私は可愛らしくなったマスターも好きですよ?」


 後ろから話しかけられる。


 後ろを振り向くと、そこにはいつの間にか赤髪のお姉さんが立っていた。

 彼女の名前は木隠七。

 俺の専属マネージャーだ。

 S級ハンターは特別、という事でこうやってマネージャーがつけられる。


「ああそうか。でも俺は嫌なんだ、この姿が。この顔でどうやって友人に顔を合わせるんだよ」


「あー、そうですね。確かにそうかもしれません。でもそうやって1か月以上いじいじしてるのはどうかと思いますけどね」


 まあ、そんな事自分自身分かっているさ。


 そう、俺はこの姿になってから1か月以上学校に行ってない。

 こんな姿になってしまったため、友達たちにどんな顔をして会えばいいのか分からない。

 だから俺はかれこれ1か月以上学校に行かず、こうやっていじいじしている訳である。

 学校側からはきっと不登校認定されている事だろう。


「でもなあ、そもそもS級ハンターだって事すらも友達に隠しているような俺に、そんな事を打ち上げられる度胸があると思うか?

 まさか、スキルのせいで美少女になってしまいましたー、なんていうのか?」


 俺がS級ハンターであることは友人たちにも、学校の皆にも秘密にしている。

 ちなみに、俺をハンターに誘ってくれた友人は、1か月でハンターに飽きてしまいハンターをやめてしまったため、彼も俺がS級であることは知らないし、俺がこの姿になった事も知らない。


「ああ、そういえばマスターは目立つことを極度に嫌う意気地なしでしたね」


「そうだよ」


「少しは否定してもらいたかったですね」


「ハッ、俺を見くびるなよ。俺は今世紀最高の意気地なしだ」


「……ドヤ顔してそんな事を言われましても」


「ふん!」


 木隠さんは目を細める。

 彼女は若干笑いつつ、一つ提案してきた。


「まあ、流石に私、マネージャーはマスターの望みを叶えることが仕事ですから、どうしたら意気地なしのマスターが学校に行けるようになるか考えてきましたよ」


「おう?」


「ただ、今日はもう遅いんでもう帰りましょう。明日の朝、私はマスターの家に行きますから出来るだけ早起きしてくださいね」


「はあ、焦らすな……」


「まあまあ、楽しみは後に取っておくべきですから」


 まあ、木隠さんがそこまで言うなら……。

 それに、俺も楽しみは後に取っておくべき派だからな。

 と言う訳で、その日は素直に帰ることにした。

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