【前例はサティーの神話】

「ね、それって有りかも。」



「えっ!?伴侶が男ってやつ!?」



「あはは、違う違う、複数に分かれた魂の方よ。」



ホッと胸を撫で下ろすルアードに、セフィーナが笑って話した。



「おじいちゃんの神話にこんなのがあるの。おばあちゃんの前世のサティーの話なんだけどね──」



ヴィシュヌ神が切り刻んだサティーの遺体は、50以上の肉片となってインドの地に散った。


その肉片は一つ一つが土着の女神となり、パールヴァティーと同一視されるようになる。



「だから、その全ての女神がおじいちゃんの神妃という事になるの。」



「ああそうか。その肉片が複数に分かれた魂であり、一夫多妻に繋がるって事なのか。」



「多分ね。そうじゃなきゃ──あはは、私には理解出来ないわね。ディノルドに女が何人もいるなんて──うふ、殺したくなっちゃう。」



にっこり笑って物騒な事を口にしているが、ナーガの夫婦ならそれは当然の事だった。



「一夫多妻って殺し合ったりしないのかな。しなくても喧嘩が耐えなそうだよね。ほんと面倒だな……。」



またまたため息をつくルアード。



「ごめんね、ナーガラージャに産んじゃって……。」



一族を統治しなければならないナーガの王。

普通のナーガとは違い、自由も限られる事だろう。



「それが僕の運命だから仕方ないよ。それに、僕はお父さんとお母さんの子供で幸せなんだ。」



へへっと笑う顔は無邪気な子供。

だが、その知能はとても高い。



「面倒なのはナーギニー……。ナーガもそうだな……。王というだけで子供の僕に服従する態度が気に食わない……。」



そう呟く顔からは無邪気さが消えている。



「それも仕方ない事でしょう?小さくても貴方はナーガラージャなんだから。本当ならすぐ大人になってナーガ族を統治しなくちゃいけなかったのよ?」



「ん……。お父さんの判断に感謝だよね。学校生活楽しいし。でも、すぐそこにナーギニーが居ると思うと……」



セフィーナが肩をぽんぽん叩く。



「ね、ルアードはまだ10歳でしょ?ペアが確定するのは16歳になってからだもの、今日は伴侶のこと忘れて楽しめば良いのよ。」



「あ、そうか、そうだよね。僕はまだ子供で良いんだよね。」



王としての未来を忘れ、友達とパーティーを楽しもうと決め込むルアード。


だが、王としての未来はすぐそこに待ち構えていた。

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