【Shall we dance】

季節は秋。


クリシュナはある月の夜、ヴリンダーヴァナの森へと足を運んだ。



静かな月の夜。

どこからともなく聞こえる笛の音。


奏でているのは青年クリシュナ。

ゴーピー達を、笛の音で呼び集める。



その笛の音に誘われて。

夫たちのもとをそっと抜け出して。

恋わずらいのゴーピー達が、森を訪れる。


クリシュナに恋い焦がれる女達が、彼の傍へとやって来る。



集まったゴーピーを少しばかりからかった後、その踊りは始まった。


踊る彼女達は皆が皆、クリシュナを自分の恋人だと思っていた。


愛しいクリシュナと踊っている。

そう思う彼女達は、歓喜の為に恍惚としていた。


そんな中、その場を離れて行く人影が二つ。

クリシュナが、一人の女性を連れて抜け出した。



「ク、クリシュナ様……?」



何か用があるのだろうか。

繋がれた手が熱くなる。



「あの……?」



クリシュナは何も話さない。

ただ手を引いて歩くだけ。



「………。」



答えてくれないクリシュナに、彼女は何も言えなくなった。



(私はこの人と何がしたいのだろう……。)



当のクリシュナは自問自答していた。



彼女に何かを感じ、気付けばその手を取って抜け出していた。


なぜ気になる……?

なぜ抜け出した……?


二人きりになりたかったから……?


なって何をする……?

何をするつもりなんだ……?


私は……彼女に何を……?



繋いだ手の温もりに気付く。


何も言わずついてくる女性。

彼女に呼び掛けようとしてハッとした。



「君の名は……?」



俯いていた彼女が顔を上げる。

声を掛けられ、嬉しそうな表情を浮かべた。



「ラーダーです……。」



紅潮した頬で、微笑みを浮かべて彼女は答えた。

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