第39話
ユリウスはずっと、聖堂の地下の中を探索していた。
すでに宮殿全体には、設計図のない複雑な地下空間があることはわかっている。それを解明すること、またジベールと共にクナイシュ帝国の秘宝について調べることが、以前からユリウスに与えられていた任務だった。
しかし、今のユリウスが地下の謎を調べることに熱心なのは、任務以外にも個人的な理由がある。語るまでもなく、オデットに関することだ。
きっかけは、クナイシュ皇帝の葬礼の日だった。
王や王妃の石棺が並べられた部屋を見た時に、あるべき皇女の棺がひとつもないことに気付いた。
すでに歴代の皇女について調べていたが、公式な記録では、三百年の間に三十人もの皇女が病死していることがわかっていた。ほとんどの皇女が未婚のまま早世しているのだ。
ただし例外がある。異国に嫁いだ皇女はその限りではない。少ないが、子を産み長生きをした皇女も存在する。
もっと皇女について調べれば、オデットが抱えている問題の解明につながるのではないかと、ユリウスは考えた。そこでもう一度地下墓地に入り、まずは皇女の棺について調査をはじめ、すぐに地下迷宮への入り口を発見した。
クナイシュ帝国の謎の部分は、すべてはこの地下に隠されている。本格的に地下を暴き始め、関わった面々はすぐに確信することとなった。
しかしその構造は複雑で、深く迷い人を誘い込んでくるような、薄気味悪さがある。しばらく進んでは見取り図をつくり、目印を付け迷わないようにする。調査はユリウスの主導で、慎重にすすめられていった。
ひと月かかり、ようやく中心部分に近付いていると実感したのは、壁に今までになかった絵と文字を発見した時だった。
そこで、魔術師のサンドラを同行させ、彼女に壁画を見てもらうこととなった。
「古代文字のようです。読めますか」
サンドラは、真面目なのか不真面目なのかよくわからない性格をしているが、魔術に関しての探求心だけは人一倍あるとユリウスはみていた。
実際にその壁画の場所まで連れて行くと、彼女は目の色を変えて壁と向かいはじめる。
「完全に失われた文字が入っているわ。でもなんとなく……ええっと」
持っていたランプをぎりぎりまで近づけたり、紙に何かを書きつけたりして、サンドラは文字を読み取っていった。
「クナイシュ……女? 愛される……。これは、神という文字ね、……を捧げ、……大地に加護。わかるようでわからないけれど、壁画と、それに今も残っている話を合わせて考えると、だいたい想像はつくわ」
「加護の話ですか?」
ユリウスの問いかけに、サンドラは頷いて続けた。
「クナイシュ帝国の始祖の娘は、神と結婚したと言われているの。そのおかげで、クナイシュの大地は神の恩恵が与えられている。……壁画に書かれていることも、おそらくそんな内容でしょう」
ユリウスは首をかしげた。伝承のことは知っていたが、所詮物語にすぎないと思っていたからだ。
はたしてこれは、聖堂の地下で、隠すように守られるべき重要な言い伝えなのだろうか。
それでは、皇女が子を産むと災いをもたらすと言ったオデットの言葉とひとつも繋がらない。もっとも、オデットはユリウスを信用していないから、包み隠さず真実を話してくれているとは思っていないが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます