第10話 見慣れない草と灯台守

 今日も空は晴れ渡り、まぶしいばかりの光が灯台を照らしている。

 ちょうど今は天候が安定している時期なので、比較的晴れ渡っていることが多い。


「う~ん、やっぱりここから眺める景色って最高だわ」


 朝のやることを終えたベニーが、灯台の途中にあるバルコニーに出て海を眺めている。

 日の光に照らされた海はキラキラと輝いて、とても気持ちのいい光景が広がっている。

 沖合をしばらく眺めていると、一隻の船が通り過ぎていくのが見える。進み方を見ていると、おそらくはベニーがよく向かう港町へと向かっているのだと思われる。

 無事に船が通り過ぎていく光景を見ると、ベニーはとても嬉しくなってくる。

 それもそのはず。海を行く船の安全は、今ベニーがいる灯台に灯っている『導の灯』によって守られている。

 無事に航行していく姿を見れば、喜ぶのは当然というもの。なぜなら、自分のしている仕事がちゃんと役に立っていると認識できるのだから。

 しばらく船を見つめていたベニーは、その姿が見えなくなるといつもの昼前の作業へと出かけていった。


 今日もほどほどの成果を得て戻って来たベニーは、昼食の前に先日の草の様子を見ることにする。

 外に植えてはいろいろと悪影響を及ぼすからと、問題の草は灯台の中に鉢植えを用意して育てている。

 万能薬とまではいかないものの、病気の類に効果を発揮する薬草らしいことは、先日の鑑定で判明していた。

 ただ、この草はこの辺りで生えているものではないので、こうやって隔離して育てているのである。

 それにしても、どこからやって来たのだろうか。風で飛んできたのかと思ってはいたものの、発見した場所を考えるとそれも的外れな推測だった。

 なぜなら、その場所は森の中の少し開けた場所。風で飛んできたにしては、ちょっと考えられない場所だった。


「う~ん、成長の度合いからすると、おじいちゃんがまだ生きていた頃かしらね。となると、行商人さんによって運ばれてきたのかな」


 ベニーは考え直した結果、そのように結論付けた。

 だけど、それを確認しようにもその行商人は今は灯台にやって来ていない。

 確認手段がない現状では、このように推察するのが限度だった。

 ところが、鑑定でこの草のことを知ったのはいいものの、今のベニーにはこの草を加工するための知識が不足している。

 この辺では手に入らないし、ちょっと貴重だということもあって、加工することはないだろうと思われていたのだろう。


「う~ん、確かおじいちゃんの残した書物があるはず。初代の灯台守から代々受け継がれてきた手記だったけ。もしかしたら、その中に加工法が載っているかも」


 そう考えたベニーだったが、タイミングよくお腹が大きな音を立てていた。


「さ、先にご飯にしましょうかね……あはは」


 誰もいないので恥ずかしがることはないのに、ベニーはなぜか顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。

 慌ててお昼を用意すると、パクパクと食事を済ませていた。


 食事を済ませたベニーは、祖父が使っていた部屋へと向かう。

 祖父の部屋の隣には、しっかりと厳重に管理された書庫が備え付けてある。

 なにぶん海に近いこともあって、塩分を含んだ湿気で書物がダメになる可能性が高い。そのために、生活魔法を施した特別な部屋の中で保管をしているのだ。


「おじいちゃん、失礼します」


 ベニーが扉に手をかざすと、扉が光って中に入れるようになる。

 厳重に保管されているために、そう簡単に人に触れさせてはならない。そう考えた初代の灯台守によって、この書庫には魔法が掛けられている。

 灯台守の家系にしか、踏み入れられない場所になっているのだ。

 ベニーは早速、例の草に関する書物を探す。

 もちろん、それだってやみくもに探すというわけではない。灯台守にしか入れない場所なのだから、それに対応した魔法というものがあるのだ。


「お願い、この草に関する書物を探して」


 ベニーが魔法を使うと、光がゆらゆらと浮かびあがる。これは探知系の魔法だ。

 しばらくベニーの前でゆらゆらと揺れていた光だったが、ぴたりと動きを止めると、一点へとその光を伸ばしていく。


「そこね、ありがとう」


 光が示した場所にベニーが近付き、書物を手に取る。背表紙を持って腹を自分の方に向けると、書物が勝手にめくれ始めた。


「うわぁ……。この魔法ってこんな感じになるんだ。すごく便利だし、不思議……」


 あまりにも不思議な現象に、ベニーは感動してしまってしばらく立ち尽くしてしまった。

 その後、我に返って書物を読んだベニーは、早速例の草を使って薬を作ってみる。幸い、必要な材料は全部そろっていたので、意外とすんなり成功させてしまっていた。


「できたぁっ! 初めての薬でも一発成功なんて、私すごい!」


 あまりの嬉しさに、自画自賛してしまうベニーなのである。

 でき上がった薬はすぐさま瓶の中へと入れて、収納魔法へとしまい込む。


「これで、対応できる病気の種類が広がったわ。はあ、素晴らしいわ、ご先祖様の知恵!」


 新しい薬を無事に作り上げたベニーは、その日はずっと嬉しそうに鼻歌を歌っていた。


 今回見せたベニーの魔法や薬学知識など、まったくもって灯台守というのは謎の多い仕事なのである。

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