戦士としての使命を持った少年

 ボクの身に起きたことを誰かに話したとしても、その大体は信じてくれなかった。いつもの変なことなら、別にそんな大した事なかったんだけど……。今回のだけは、ずっと特別頭から離れないんだ。でも、周りの人はそう都合よく「なるほど」とは言わない。ボクのクラスメイトのセルス・シンプソンなんか、ボクが話している時に割り込んで「おいおい、お前はじっさんとは違って只者なんだよ。中二病もいい加減治したらどうだ?」なんて言われた。

 でも、セルスならそういうんじゃないかって思ってたよ。セルスは元々から問題児だから。セルスは、何人かの取り巻きと共に過ごしていて、いろんな悪戯を学校中でする。たとえば、水道を全部出しっぱなしにして水浸しにしたり、教室のどこかの落とし穴を作ったりしている。しかもそれは学校に限った事じゃない。町中でもしょっちゅう問題ごとを起こしている。

 花火をポッピーモシコロ※1に変えたり(この時は美味しかったからみんな喜んでいた)、市長の推しのアイドルのポスターを貼りまくったり(市長以外はみんな大笑い)、いたずらばっかりしているけどそんなに大したものではない。あいつは、いい奴なのか悪いやつなのか、誰にもわからない。けど、ボクはあんまり好きじゃない。

 勘違いしないで欲しいんだけど、ボクは元々イタズラが好きじゃない。やるならちゃんと言ってからやって欲しいって、自分は思う。

 レンは、あの時のボクのことを「あいつめっちゃすごいんだぞ!」みんなに言いふらしてる。全くやめてほしいよ。みんなレンのいつもの悪ノリだって思ってるし。そんなわけで、僕らの話を真面目に受け取る人はいなかった。ボクの両親を除いて。


 ボクの両親はパパがジェード、ママはマイルだ。パパはこの町の役員で、仕事をするのが本当に上手なんだって。チャーリーもお父さんを見習いなさいとか、いろんな人に言われることもあるけど、本当にその通りだ。

 ママは、多分世界最高の母親だ(マザコンだって言いたいなら、結構けっこう。ぶっ飛ばされてもいいならね)。ボクのことを何よりもわかっていて、優しい。そんな二人にボクがその話をした時、急に真剣な顔をして、その後はほとんど何も言わなかった。でも正直そんな反応するならみんなみたいに冗談って思って欲しかった。だってボクの中で余計にモヤモヤが増えた気がするんだから。そんな気持ちを抱えながら、エイリー祭を迎えた。

 ボクはその日、レンとアイリー、そしてパパは出張に行って当分帰ってこないからママと一緒に行った。

「あれ?レンとアイリーに両親はいないの?」と思ったかもしれない。早い話、二人に両親はいない。殺されたんだ。レンとアイリーが二歳か三歳の頃、盗賊が家に入ってきて、二人のパパとママ、ジェーンとマイケルを殺した。レンは、いまだにその件がトラウマで、ずっとその仇を取ろうとしているんだ。アイリーはそんなレンをずっと心配している。ボクはレンとアイリーの両親が死んで間も無く、友達となった。それから、僕たちの協力もありながら今まで仲良くなんとかやってきた。だから、今日も仲良く無事に祭りを終える……はずだった。

 会場まで結構距離があるから、そこまで車に乗ってしゃべっていた。夜明けより少し前に出発したから、かなり暗い。「こんな早くから行く必要あるのか?」

 レンが文句ありげに言った。それにママが説明した。「この祭りはものすごく大きな祭りなんだから、朝の九時半とかでも何万人と人がいるのよ」ボク自体は、この祭りにはあんまりいったことがない。なぜかそういう日に限ってボクは風邪をひく。大好きなコシモロ・ガリンター※2の特売日とかさ。結構時間がかかったもんだから、うとうとし始めていた。だけど、市で飼っているドラゴンの咆哮でボクはすぐに目が覚めた。あんなに大きい声だったら、誰だって目覚めるはずだろう。

 結局、朝早くから来たのに、もうたくさんの人がいた。セルスもいた。「遅いぞ!」セルスの煽りとそれにキレて追いかけるレンの様子を見ていくうちに、どんどん祭りは賑やかになっていった。他の友達も次第にやってきて、静けさもどんどん薄れていった。

「これこそ、祭りって感じ」

 アイリーがボクの隣で言ってきた。ボクは振り向いて「そうだね」って言おうとしたけど、なぜか「え??」みたいな間抜けな返事になった。なんだか気まずくて、広場の真ん中にあるザーン・ポールの銅像に目が入った。だけどその銅像もボクの方を見ていてさらに気まずくなった。目にある傷が、余計に睨んでいるように見えた。

 時間は飛ぶように過ぎていった。その間に、いろんな楽しいことをやったよ。コシモロ・ガリンター※1が超安価で売っていたり、レンが射的で全部の商品ゲットしたり。レンは本当に銃の扱いが得意だ。レンのパパの形見の一つが銃ってのもあるだろう。

 いろんなものを買っていくうちに、どんどん花火大会の時間になっていった。この祭りいちばんの目玉だ。これを目当てに、今から来る人だって少なくはない。ボクはなんだかワクワクしていた。

 一つ目の花火が上がると同時に、みんなの歓声が広がっていった。ボクの友達はみんなセルスを見ている。ポッピーモシコロじゃなかったから、ちょっと安心したんだろう。次々と打ち上がっていくうちに、一つの謎の光が徐々に目立ってきた。「もしかして超特大の花火か?」と期待する人もいたが、運営者によるとどうやらこんなの知らないらしい。さらに不安なことに、それはどんどん大きくなっていった。やがてそれははじけて、花火よりもずっと大きな轟音とともに一人の男が現れた。

 間違いない、ヴァイツゼッカーだ。

 やつは何十年も前からガーライド大陸を侵略・支配している闇の魔王だ。最近こそ活動が少なくなってきたものの、こんな時に現れるとは。誰もが予想していなかった事態だ。

「さっきまで随分と盛り上がっていたようだが……もうお開きか?」さっきまで賑わっていた会場が一気にパニックになっている。

「お前なんかに、俺たちの邪魔はさせるか!」

 一人の商人が抗議した。次第に大勢の人が声を発した。ヴァイツゼッカーは頭に来たんだろう。あっという間に、そいつを消してしまった。場はますますパニックになり、人々は逃げていった。

 ヴァイツゼッカーはあちこちとものを破壊し始めた。「まずいぞ」レンが言うと同時に、僕らもこの場から逃げることにした。さっきまで楽しかった会場も、今や地獄じごくの場と化している。稲妻が僕らを襲った。運良くボクたちは生き延びたけど、いつ死んだっておかしくない。モンスターだってあちこちにいる。この前戦った時とは比べ物にならない。

 ボクは何か異変に気づいた。

「なんかあいつ、動きがおかしくないか?」

「おい、それって・・・どう言うことだ?」

 ボクにはわかっていた。あいつは、ボクたちを狙っている。逃げている間、なんであいつが僕らを追い回しているのか、ずっと考えていた。だけど、思い浮かばない。そうこうしているうちに、とうとうヴァイツゼッカーに追いつかれてしまった。

 あいつが次々と繰り出していく闇の魔法。瞬時に赤く燃え出した周りの木。レンとアイリーは、対抗しようとして戦うも、歯がたたない。ボクのおかしな力も、あいつにとっては蟻同然だ。やっと攻撃が落ち着いて、その姿を見ることができた。

 とんでもなく高い背に、黒いコートを身に纏っている。紫とまた黒の鎧。膝上まで長い靴。そして、全てを焼き尽くすような仮面。恐怖という2文字しかボクには浮かばなかった。邪悪なモンスターに囲まれて、僕らはもう逃げる術もない。

 たちまち、モンスターの中の一匹、グレムリンがボクの方へ突進してきた。うまいこと交わして、吹っ飛ばすことができた。だけど一匹を倒した程度じゃ話にならない。中には人狼ヒューマウルフも恐ろしい表情でこっちを見ている。ママもボクもレンとアイリーも、ボクたちだけじゃどうにもならないのは分かりきっていた。

「そろそろ・・・チャーリーもこの時が来たのかしら」

 ママが悟るように言った。ますます訳がわからなくなる中ヴァイツゼッカーがこっちに向かってくる。もうおしまいだと思った。

「お前は、何がしたいんだ!?」

 ボクがヴァイツゼッカーに言った。「俺は…」そう言った後、ママを魔法であいつの元へ引き連れた。そこでようやく彼の目的がわかった。あいつはママを狙っているんだ。

「なんでボクのママを!?」ボクが問い詰めた。

 ヴァイツゼッカーは、まるで知られたくないことを知られたかのように、「お前には関係ない!」そう言い残した後、指をパチンと鳴らしてどこかに消えた。

 ボクはショックで何もすることができなかった。気がつくとモンスターたちも消えていた。なんだか急に意識が遠のいてきて、気がつくとボクは家にいた。

 ボクはあのことが起きてから、ずっと落ち込んでいた。レンとアイリーが慰めてくれても、ボクは立ち直れなかった。その間、レンとアイリーはボクと一緒に暮らしてくれた。パパは出張で当分帰ってこないから、三人暮らしだった。レンとアイリーにはなんだか申し訳なかった。だけど、「俺らも同じような経験してるから」と言って、ボクの手助けをしてくれていた。

 そんなとある日のこと。ボクが部屋でゴロゴロしていると、レンが部屋に入ってきた。

「なあ、これチャーリー知ってるか?」

 ボクはレンからメッセージをもらった。なんと、ポストじゃなくて机の上に置いてあったという。ボクがメッセージをよく見てみると、差出人はなんとベンおじいちゃんだった。おまけにベンおじいちゃんの書いた「基本剣術集(子供用)」まで入っていた。ボクは早速中身を読むことにした。


「チャーリーへ。お前の母さんが攫われたのは耳にした。なんでも、あのヴァイツゼッカーの仕業とはな。全く想像もできなかっただろう。」


 最初ボクは、こんなもののためにわざわざメッセージを送ってきたのかと思うと、少しむかついた。だけど、めちゃくちゃ驚く内容が書かれていたのは、その後からだった。


「そして・・・ワシはそろそろチャーリーに話さなければならないことがある。ずっと隠していたが、いよいよのようだ。

 信じられないかもしれないが・・・チャーリー、お前はワシと同じで、ファクタテムの能力者なんじゃ。」


 ファクタテムっていうのは、何か物凄い力を持っている人たちのこと。ザーン・ポールやボクのおじいちゃんみたいな偉大な英雄たちはこの能力を持っている。

 ボクは訳がわからなくなった。ボクが?ただでさえエルフから生まれたエルゼットなんだから、これ以上ボクに何か特別なことがある訳ないだろう?だけど、ボクは今まで起きた不可解な出来事の原因は、全部その力からきているとしか考えられなくなった。おじいちゃんの分はまだ続いていた。


「そしてチャーリー、お願いがある。どうか・・・お前の母さんを助け出してくれないか?急に無茶を言うが・・・今この状況を解決できるのはお前しかいない。ワシはお前を信じとる。詳しいことは、小屋に住むアルターに聞いてくれ。幸運を。


                    ベン・ブライド」


 このメッセージを読んで、ボクはしばらく黙り込んでいた。信じられないとか、そんな気持ちとかじゃなくて、本当に何も頭に浮かばなかった。それを察したのかレンが一つ語りかけた。

「本当にやるのか?チャーリー。」

 ようやくボクはその時覚悟を決めた。ボクが……やってやる。ママを攫ったあいつを倒すんだ。「ああ。やってやるよ」




 ※1:現実世界におけるポップコーンだと思われます。

 ※2:現実世界におけるコーンバターだと思われます。

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